第八章 アルチュリンゲスファーの謎
アルチュリンゲスファーというマスケット銃がある。
アルチュリンゲスファーの相棒はドルコムという弾だった。
白亜の冒険はニニキの世界だったから、ニニキが使える銃を作ってみようという試みによって作られたのが、アルチュリンゲスファーだった。
ドルコムというのは、カードのお金もちのゼロゼロナンバーが、ドルというお金の単位のコンピューターだったことにより、名付けられた。
ドルをカードのお金もちと同じにしないで欲しいものだが、その成分の管理という名目で、アルチュリンゲスファーとドルコムが作られた。
白亜の冒険がニニキの世界ということは、単体の行動しか取れないような、手を洗っても手を拭くことを教えてもらわないと出来ないような人間の世界ということになるが、例えば、ニニキの世界と想定して、白亜の冒険が何になるかというと、ペルソナの世界で、ペルソナの世界ということは、全員が役で、キャラクターのロールプレイングでなくてはならず、天に帰るために必要な天に内包された問題を水面下で管理するための水中の世界ということになり、水中だと住めないはずだから、本物の白亜のマウラが必要で、つまり、灰色の世界だった。
その灰色の世界を銃にすることによって、同一人物の判定を全員殺さないと本人が消える不都合を解決しようとしたらしいが、肝心なフォームワームの結界を白亜以外が作れなかったため、アルチュリンゲスファーとドルコムはただの物だった。
つまり、アルチュリンゲスファーは、ブリューナクと同じ武器だった。
私はマスケット銃を愛用しているが、そのマスケット銃の中に、アルチュリンゲスファーがあることが割とある。
マスケット銃の中に、ルチュセレクションシリーズというものがあり、その型番の中に、アルチュリンゲスファーが入っていることがあるからだ。
私はベルファイアに乗って、ロシアのトロントに向かった。
もちろん、エーテライトを利用してのリージョンジャンプとなる。
善と悪にこだわる領地のクワガタ公園で外灯盤が壊された大停電事故だったが、同じような事故がトロントで発生した。
トロントの虹色公園の外灯盤破壊だ。
私がトロントに飛んでから数日後に起きた事故だが、また、不吉だからで探されては困るので、私は自ら捜査に乗り出した。
すると、偶然にも、白い服の女と黒い服の男の逢瀬を見てしまう。
その二人組は、公園の備品をもち帰って行った。
何だか、アヤシイ二人だ。
私は後日、改めて、虹色公園に行くことにした。
そして後日、私は虹色公園で魔導を開いた。
そこで、私は公園の記憶を見た。
外灯盤を壊したのは、白い服と黒い服の男女だった。その二人は、幸せな世界に旅立ち、創象事に入りお互いを忘れて、再び、白い服と黒い服に分かれた。
この二人の運命を断ち切れと言われても、私は手出しはしたくない。
だから、外灯盤をなおせと言われても、どうなおしていいのか解らない。
だから、私は、ひっきりなしにかかってくる電話の対処をした。
やっつけ仕事のようなものだ。
外灯盤のために水色の塔に登り、
「許されろ」
と、祈る。
あの恋人が許されたのかそうではないのか解らないが、やらないよりはよっぽどマシな行動だった。
この行動が歴史となってカードになって銃まで作られたが、全部が物で、記念品だった。
結界が無いのは水色の塔が無いのと同じだが、記念品だとしても、アルチュリンゲスファーもドルコムも性能は充分だった。
私は、アルチュリンゲスファーをピカピカに磨いた。
ついでに、ドルコムもピカピカに磨いた。
さらに、私の爪をピカピカに磨いた。
「うん」
「やっつけ仕事をやるしかない」
アルチュリンゲスファーの宝石は、インカローズだった。
インカローズの中でも、透明なオレンジ色のインカローズのほうで、無いなら、ローズクォーツでも代用出来る。
お酒はカンパリで、グレープフルーツで割るといい。
にぎやかな場所がカンパリだから、クセが強い酒だが、シロップとグレープフルーツジュースで飲むなら、飲みやすいだろう。
炭酸を入れても、構わない。
お世辞にも、おいしくはないカクテルだった。
どうしたものか…
そう思いつつ、味見で一口、飲んでみる。
まずい…
キールロワイヤルのように改良出来ないものか。
キールロワイヤルというのは、シャンパンとカシスリキュールをカクテルスプーンでステアして作るカクテルではあるが、シャンパンもカシスリキュールもそもそもおいしいから、混ぜてもうまい。
素材が悪いのか?
何とか、飲みやすいジュースにならないものだろうか…
カクテルの考案は、中国漢方に問題ありとのことで、漢方で処方される全てが毒のようなクスリだったから、そんな冬虫夏草やロイヤルゼリーなんかありがたがってもクスリにならないというものだから、開発されたものらしい。
酒だと酔うが。
まあ、水のほうが神にとって何かと恩恵があるのだろう。
広辞苑なんか読んでも神書じゃないから、法典だと広辞苑だから神書じゃないから、神話にならないだなんて、酒でも飲めば、宴になるだなんて…まあ、悪くはないが…それだと、そもそも、世界を本にしたことが元に戻ってしまって神話ではなくなるなんて顛末なんてある。
皆が楽しいのなら、それでいいのだろう。
私は、そうして、傍観し、立ち去った。
数多の神に秘密がある。
そんな神々のカブの千枚漬けのような塩味だ。
グルカゴンを辿ってゴールするとカブの千枚漬けからカブの千枚漬けになるというありがたみだな。カブはカブであって、大根でもなかった。
才色兼備の一彩なんて、夢彩都になったら、サウザンドエターナルなのだろう。
アルチュリンゲスファーはムズカしい構えから出来ているから、使って止まるくらいなら、酒のほうがカンタンだ。
ドルコムは弾だからどうしようもないが、ドルコムは氷に見えるから、インカローズよりも、ローズクォーツのほうが扱いやすい。
多少、効果は弱まるが、紙をなるたけ使わないようにすれば、十分だろう。
薄紙はいいが、ただの紙はダメだ。
ギルドに酒はつきものだが、似たような理由で記述した。
使っていて、ニニキにはならない。
何故なら、外灯盤を壊したい事情のある魂にとって、私は、あなたへの月、だからだ。古代の神の英雄ではある。
フシギソーマの一つであった。
マウラのナノコロナに出っ張りが出来たという悲報を聞きつけ、さっそく私はベルファイアに乗って、沢尻島にやってきた。
沢尻島というのは、世界に血が通うことが川となるならば、川だけで島になってしまうこともあるだろうということで出来た島だった。
通常、星は丸いから、雪だるまのような丸が二個くっつく姿になるなんて言うことは無いのだが、どういうわけか、雪だるまになってしまった。
その原因の地点が沢尻島だったのだ。
沢尻島って雪だるまの頭?
「うん」
頭ではないが、出っ張りではある。星にこぶが出来た。
持つ者、持たざる者という考え方がある。
持つ者が持たざる者に施しを与える。
しかし、持たざる者が持つ者に返さなければ、施しが泥になる。
泥だとしても必要だからと持つ者が泥を持つと、出っ張りになる。
出っ張っていたとしても持っていたいのだから仕方がないのだろうが、出っ張ることは奇形で、ありとあらゆる病気にかかりやすくなる。
ならば、その出っ張りを切り落とせばいいのではないか。
切り落としても、出っ張りの成分を失わないようにする方法はある。
それは、食べ物だ。
だから、私は主神の食べ物になることにした。
主神の泥は、一人、だった。
だから私は、一人、で、行動する。
私が一人で行動し、いつまでも沢尻島に存在しているのなら、星が出っ張らなくても泥は失わない。
ただ、沢尻島が創象事になったら困るので、沢尻島の上空にある天空島で、首のない泥の身体からトリガーを取り出して、トリガーポップの酒の化け物、プルートアルテマを討伐することになった。
これですんなりと、泥が水に流れるだろう。
私はベルファイアに乗って、沢尻島から天空島に飛ぶためのエーテライトに向かった。
キラキラとした巨大なエーテル体のオブジェがある街中で、私はベルファイアを停めた。
私は魔導を開き、歌をうたう。
すると、世界が広がった。
私と荷物とベルファイアがエーテル体となり、天空島を目指して飛翔した。
エーテル体となって飛んでいると、様々な情報が身体に入るため、気になることが増えたりする。
本来、西の神が南になってることとか。
リヴァイ大司教、どうしてですか?
あなたはロクになりたいわけではない。
シュクレッドマエノートは別人だし、クンニが子供も別人だ。
方角が違えばマウラは真裏ではなくなるから、制限を気にせずに飛んでいくことが出来る。
リヴァイ大司教、いつか、アトリエで一つになりましょう。
「うん」
今は、動物がおかしい。
だから、泥をなおします。
「解った」
プルートアルテマは、サンドワームみたいに、ひたすら一人で狩っていれば異変が収まるはずのものだった。
双子はマウラでは固形ではなく泥なので、人型の泥の出っ張りを消すならマウラのほうがいい。
これで、動物もなおるのだろうか。
方角をなおせる主神は絶対にいる。
アルチュリンゲスファーはタブレットだから、いつかコンタックにされる。
命ならアルチュリンゲスファーを取れるから、天皇誕生日は大丈夫。
スペクタクルズがコンタックにされるなら、全てコンタックだ。
売れてる声優のニューウィンドダウンが、聞こえた気がした。
エーテル体となって天空島に旅立つ煌めく旅路が終わりを告げた。
私は物質転送の終わりを聞いて、ふと、我に返る。
私と荷物とベルファイアは物質化し、沢尻島にいた時と何ら変わりのない様相で、天空島のエーテライトの下にいた。
私はベルファイアのカーナビで経路の確認をする。
「プルートアルテマのトリガーを落とす化け物の地点は……」
私はベルファイアのハンドルを握り、アクセルを踏んで走り出した。
天空島は広いので、その地点まで車で走る。
天空島は天空島というだけあって、美しかった。
まず、何もかもが白い。
アスファルトが白い。土が白い。植物は自然のままだ。
粘土で作ったような不思議な形をした建物が並ぶが、どれも無人で、モンスターが住み着いていた。
青い青い紺碧の空の中、強い日射しを受けて、海がキラキラと輝き、穏やかな潮の流れが、白い砂浜に辿り着く。
その海岸沿いの車道をベルファイアは走っていた。
車道の幅は広いが、特別にラインで仕切られているわけでもなく、車が五台くらい並んで走れそうな広さだけがある。
その白いアスファルトの上を、ベルファイアはなめらかに推進する。
「気もちが良さそうないい天気」
私は、道の横に群生する生き生きとした緑を見ながら言った。
朝露でもこぼしそうなほど潤いがある植物で、鮮やかな緑色の葉が生い茂り、金色に光る実がたわわに実る。
誰が手入れしたというわけでもないのだろうが、車道に沿って揃うように生えていた。
車のスピードによってくるくると移り変わる景色を見ながら、私はウィンドウを開けた。
すると、初夏のような爽やかな風が車内に吹き込んだ。
「うーん、いいねえ」
私は感嘆の吐息を漏らす。
カーラジオから流れるのは懐メロで、歌手が堂々と歌っている歌が流れていた。
ああ、ダンジョンの中でもカーラジオは流れるんだよね。
私が好きなカウントダウンラジオとかも、よく流れるよ。
「ふんふふんふふーん」
私は気分よく、鼻ずさんだよ。
「ふふっ」
目的地まで、快調だねえ。
モンスターが、道に飛び出してくるわけでもないし。
モンスターが道にいたとしても、避ければいいけどね。
私は、ベルファイアを運転し、ラジオを聞きながらドライブを満喫したよ。
さて、目的地に到着。
細かく真珠を砕いて白い粘土に混ぜ込んだかのような白壁が陽の光を受けて乱反射していた。
視線を上空に上げると、粘土のようなはっきりとしない輪郭の建物がそびえ立っているのが見える。
雪山で雪だるまを作るけど、そこで人が入れるように山型に形を整えただけのものを知ってるかな?
ああいうかまくらに似てる。
かまくらをたくさん積み上げてみました、みたいな感じの建物だなあ。
外観がそうなだけで、一応、世界遺産の寺院に形は似てるけど。
私は、建物の駐車場にベルファイアを停めた。
愛用のマスケット銃を抱え、その他の装備品を身体に取りつける。弾のベルトとか、短銃のホルスターを身に着けただけだけどね。
私は荷物を抱えて、ベルファイアのキーをロックした。
そして、ダンジョンに向かって歩き出す。
カーナビだったら、トリガーの詳しい地点までの経路が載ってるかなと思って、調べてみたら、簡略的ではあったけどおおよその位置の検討はついた。
解ってるんだったら、のんびり進もう。
私は白い建物の中に足を踏み入れた。
建物の中も白かった。同じような材質が四方を取り囲み、真っ直ぐに道が続いている。
私は道なりに進んでいった。
寺院のような内装のダンジョンを歩き回り、ワープ装置を作動させて階層を飛び、珍しいモンスターがいたら倒して戦利品をゲットし、私は気ままに進んだ。
「だいたいあの辺かな」
おおよその検討の位置に程なくして辿り着いた私は、キャンプの場所を探した。
トリガーモンスターは扉のしまった部屋の向こうにいる。
だから、ワープ装置のある広場の空いたところにキャンプを構えるのが適当だろう。
私はワープ装置の近くの広場に結界を張り、荷物の中からテントを取り出して、結界の中に組み立てた。
よくあるアウトドアのテントとは違い、ビーチパラソルとテーブルとチェアのようなテントだ。一応、パラソルには壁があるから、小屋とでも言おうか。
ホームセンターで安売りしているときに、かわいいものがあったので、その時に購入したものだ。
軍事用正規品、スワッグテントだった。
私は小屋の中に荷物を置いて、結界の中のキャンプから出た。
白い通路を真っ直ぐに進み、目的のトリガーがいる扉の前へと歩いていく。
「ふう」
私は息を吐いて、気合いを入れた。
白い扉のスイッチを作動させて、私は扉の中へと進んだ。
広い部屋だ。体育館くらいの広さがある。しかし、物は無かった。
その奥まったところにいたのは、頭が無い翼人だった。
ホログラムのように変更する虹色の皮膚をもち、光輝く翼を広げて雄々しく佇んでいる。基本色は白で、服らしい服を着ておらず、人間らしい緻密な身体ではなかった。
ところどころが溶けたように変形しているのが見受けられ、威嚇が強い。
遠くにいる私ですら、畏怖するほどに。
このトリガーモンスターは、オンローグと言った。
プルートアルテマを呼び出す戦利品をドロップするモンスターだ。
オンローグは、グレイシーザハドンと似てるんだよなあ。
プレッシャーがやたらと強くて、重力や雷をよく使う。
私は強化魔法の具合いを確かめて、マスケット銃を構えた。
私はオンローグに照準を合わせ、マスケット銃の引き金を弾く。
高速で射出された弾丸は、オンローグ目がけて銃口から飛び出し、真っ直ぐに空気を切り裂いた。そして、オンローグに命中する。
「オォン」
得も言われぬ悲鳴を上げて、オンローグが私のことを感知した。
宙に浮いたままゆっくりと迫ってくるオンローグに照準を合わせ、私は立て続けに引き金を弾いた。
パアンパアン
弾丸がオンローグにヒットする。
私は、口の中で呪文を唱えて、右手をさっと横に凪いだ。
すると、オンローグの周りに魔法陣が現れ、動きを阻害する。
私はマスケット銃を構えて、オンローグを狙撃した。
程なくしてHPが尽きたのか、オンローグは床に転がって消えた。
私は戦利品を確かめる。
トリガーは無しかあ。
しばらく、雑魚掃除をしてボスが出るのを待つしかない。
私はこの部屋を後にして、別の部屋に向かった。
オンローグとの対戦を何度か繰り返し、部屋が空になったので、キャンプで休憩をして、また倒すを繰り返しているうちに、ふと、真っ白だった通路が真っ赤に染まり、アラートが鳴り響いた。
ようやく、トリガーを落とすオンローグが登場したらしい。
アラートが収まると、赤から白に色が戻った。
私は気を調べた。
「うん」
特段に強い気がある部屋がある。
それが、ボスの部屋か。
「よし」
私は愛用のマスケット銃を抱えて、その部屋に向かった。
自動式扉のスイッチを押して、部屋の中に入る。
体育館くらいの広さがある部屋の奥まったところに、オンローグがいた。
今までのオンローグと見た目は全く同じのくせに、プレッシャーが違う。
オンローグは扉が開くと同時に私のことを感知したらしい。
光輝く翼を大きく広げて、室内の何処と言わずに雷を降らせた。
ガゴオオオン
チリチリと肌を走る電磁波に、私はとっさに身構えた。
魔法効果を反射する呪文を高速で詠唱し、私は雷を遮断する。
オンローグが放った雷は、白い部屋全土を埋め尽くした。
これでは、逃げる場所が無い。
私は魔法効果を反射する盾の中でマスケット銃を構えて、オンローグに銃口を突きつけた。撃鉄をはね、引き金を弾く。
パアンパアンパアン
連続で放たれた弾丸は真っ直ぐに軌道を描くと、オンローグの肉を抉っていく。
弾丸に当たっているのにもかかわらず、オンローグはびくともせずに次の攻撃に移った。
破滅の光だった。
オンローグの周囲にエネルギーが集約し、ブラックホールとなって、空気に傷をつけたかと思うと、一閃、横凪ぎに凪ぐような衝撃波が走り、私の人体が二つに切断するかのような衝撃が走る。
魔法効果を反射するリフレクションも役に立たず、私は転倒した。
私の身体から生体エネルギーが抜けていくのが解る。
損傷は、半壊、いや、三分の二くらいHPが削られた。
ぐったりと重くなった身体を何とか起こし、回復呪文を紡いでいると、オンローグは再び別の動作を取った。
無理だ。避けられない。
オンローグが一瞬にしては放った黒い光球に押し潰された私は、人体の情報がそのまま外に放出し、ブシュッと弾けた。
物質化した私の身体は、一見、無傷のようにも見えるが、これでは私は空っぽだ。
オンローグは私の人体の情報を事細かに検分している様子だった。
身体の外に出た痛覚を弄り回される気味の悪さに、私は眩暈を覚えた。
仕方がない。
私は、エーテライトの時のように歌をうたった。
私の身体の情報が呼応して、世界となじむ。
そして、森羅万象が味方をした。
大いなる力の流れだった。
まるで物の構成元素一粒一粒が目覚めるように芽吹き、それに応じて、私の空っぽの身体が息を吹き返す。
オンローグの重力の猛嵐の中で、私は地を蹴り、跳躍し、ブラックホールが直撃しないように避けるもやはりギリギリで、ありていに直撃していた。
しかし、物質化した身体が壊れるわけでもないし、空っぽの身体を森羅万象の力で動かす程度なら、出来ないことではない。
私は、オンローグの魔力を歌でなだめながら、身体を動かしてマスケット銃を構えた。
オンローグは頭が無い身体だけの翼人だ。
しかし、今は違う。
体育館を埋め尽くすほどの暗雲が立ち込め、その黒い怨念を統率する巨大な顔がオンローグの背後にあった。
いかめしい老人の顔で、年は初老だろうか。
オンローグの魔力の源である耳に標的を定め、私はマスケット銃の引き金を弾いた。
人体のバランスを司る三半規管辺りに詰まりがあるとは感じていた。耳の中に三半規管はある。
そこをコアとするオンローグは、怪異の原因だ。
コアに弾丸を当てようとしても、驚くべき速さでオンローグは回避する。
私は舌打ちをして、何発か撃ったが手ごたえは無い。
オンローグは光輝く翼を大きく広げ、雷を放った。
ガゴオオオオオン
耳をつんざく音が鳴り響く。
しかし、雷程度ならばリフレクションでいなせる。
私はオンローグが大勢を崩すように銃を撃つ。
弾には特殊な魔法はかけてある。
パアン
と、弾丸が当たった場所から火花が散った。
その火花が連鎖し、幾何学的な図形を描く。
そう、やつも人間の身体のような形をしているのだから、人体の組成式は何となく同じところがある。
動きを封鎖するために、縫いとめられる情報の図形はあった。
そして、一瞬、オンローグの動きが停止した。
私はすかさずマスケット銃から弾を撃ち出し、オンローグのこめかみを撃ち抜いた。
耳ではなかったか。
と、私は戸惑ったが、ヒットした部位に異変があったらしい。
スキをついて、私はオンローグの耳に何発か弾丸を撃ち込んだ。
パアン
と、空間が弾け、体育館を埋め尽くす程の黒い怨念が消え、オンローグの背後にあった巨大な顔が消えた。
ここまで来れば、HPを削るだけだ。
私は生体強化の魔力の出力を高めた。
飛び散った人体の情報を回収するためだ。
出力を高めれば、ある程度は自動的に元に戻っていく。
私は全力で歌をうたいながら、マスケット銃でオンローグの身体を撃ち抜いた。
そうして、とうとう、オンローグは力尽き、床にくずおれた。
オンローグの死体が消えてなくなると、精緻な模様が施された立派な宝箱が現れた。
オンローグの戦利品だ。
「うん」
トリガーも入ってる。
ほくほくだね。
私は機嫌を良くして、戦利品を回収した。
「ふーっ」
新しいオンローグがわくまで、まだ時間がある。
私は後処理をするために、デリンジャーを取り出した。
私は魔導を開き、外に出た身体の情報と同じ地点の歴史を思い、引き金を弾いた。
すると、その過去が群像劇を描き、空間を綺麗にする。
その劇の最中に、私はマスケット銃で跳弾をして、死因の座標の跡地を回収する。
「ふーっ」
専用の結界が無いと、この部屋が身体になりそうだ。
厄介厄介っと。
滞りなく所用を済ませ、私はキャンプに戻った。
私は小屋の中で煙草を吸い、ティータイムを楽しんだ。
やっぱり休憩は重要だよね。
そして、私はキャンプをたたんだ。
小屋がワンタッチで収納できるんだよなあ。
便利便利。
私は愛用のマスケット銃を抱え、荷物をもって、オンローグの階層から去った。
もちろん、忘れ物は無い。
来た道をただ戻っていくだけの作業を終えた私は、寺院のような建物から外に出て、ベルファイアの待つ駐車場に向かった。
私はベルファイアのキーを開け、マスケット銃と荷物を積み込むと、装備品を外しそれもベルファイアに積み込んだ。
私はベルファイアの運転席に座り、ハンドルを握ると、アクセルを踏んで発進した。
プルートアルテマがいる場所はここではない。
天空島の別の場所だ。
赤く熟れた太陽が、西の空に沈もうとしている。
地上よりも、もっと太陽に近い位置にある天空島からは、黄昏ゆく空がいつもよりクリアに見えた。
錦を流したかのような鮮やかな斜陽が真っ白な天空島に照り映えて、暖かなオレンジ色に染まりゆく街並みが見える。
真珠を細かく砕いたかのような白い粘土は、まるで地上の星の砂のように美しく光を反射し、生きとし生ける者に降り注ぐかのように煌めいた。
「どうせなら、見晴らしのいい場所がいいなあ」
ベルファイアのハンドルを切りながら、私は思う。
元気なカーラジオの音を小耳に挟みながら、私はちらちらと周囲を見回した。
もう今日は遅いから、キャンプを建てて一泊しようと思ったのだ。
街を一望出来る高い場所がいいだろうか。
それとも、比較的、安全そうな綺麗な公園とか。
「うーん」
海辺の天空島、ねえ。
珍しいものもあったものだ。
どうせなら、海が見たい。
そういえば寺院に向かう行きに見かけた海岸があったな。
あの場所で一泊しよう。
寄せては返す潮騒の音色が郷愁を浮かばせる。私が生まれた街は港街だった。
海にはよく行ったな…そう思いながら、濡れて泡が消えていく砂浜を眺めていると、私の影の隣にもうひとつ、長い影が生まれた。
はっとして振り返る。
男だった。超美形。顔は。しかし様子がおかしい。
「ごめん」
男はつぶやいた。何と返していいか解らない。
何故なら彼は全裸だったからだ。
よく考えてみると、スタイルもいいな。すごく筋肉質でかっこいい。
彼は私に近づき、その力強い腕で私を抱き寄せる。
「俺の女になってくれ」
低い声が鼓膜を震わせ、彼は私の唇を奪った。
びっくりしたというよりも、何故か懐かしいような感情が胸をときめかせる。
あれ? と思った時、彼は優しく私を砂の上に座らせた。
「俺の名前はバイスだ」
彼は名乗った。 バイスさんというのか、と、呆然と考えていると、彼は私の服を脱がせ始めた。
あ、そうか。
理解する。
「いいよ」
私は言った。
ふたりの影が重なった。
彼の体温。
彼の熱さ。
ふたりの吐息が重なる。
「愛してる」
彼は言った。
遠い遠い夏に二人の影が漂流者のように今も揺れる。
あの日の決別はもう消せやしない。
それでも……。
翌日、天空島は相変わらずのいい天気で晴れ渡っていた。
「うーん」
私は上機嫌に伸びをしたよ。
さて、今日は、昨日ドロップしたトリガーを使って、プルートアルテマとの対戦となる。
プルートアルテマを呼び出せる場所はっと。
私はポチポチとベルファイアのカーナビをいじって、場所を検索したよ。
「よし」
南側の広場ね。
私はベルファイアのカーナビに、南側の広場を設定し、アクセルを踏んで発進した。
隣にはバイスが乗っている。
彼は私の対だった。
対というのは神は男女があって1つであるという意味だ。
「ようやく会えたね」
何度目だろう、バイスが言った。私のぶかぶかのコートをまとっているから、今は彼のたくましい身体は見えない。
「俺の女になった。嬉しい」
ほくほく顔でバイスが言う。
「お前も俺も初めてで嬉しいな」
「嬉しいね」
会えたこと自体が嬉しい。
何でバイスが出てきたのかというと、世界の摂理の条件が整ったからだ。彼は神の姿のまま、私の前にいる。
私は残念ながら人間だ。
私の考えていることが解ったのか、彼が言う。
「俺は、お前が人間でもいいよ。これから、俺が守るから」
俺が守るから。
私はその言葉を嬉しく思う。
「男としても、戦士としても、守るよ。本当にかわいいね」
バイスが言った。
かわいいね。
また嬉しくなってしまう。
私が次の言葉を探していると、バイスが私を優しい目で見つめて言った。
「またやりたくなってきたな」
「うん、そうだね」
「お前も思うか」
「思う」
「ふふっ、かわいい。俺が今度から運転するからな」
「解ってるけど、免許がまだないからね」
「警察なんていねえんだから、俺に運転させればいいのに」
「危ないからだめ」
「だめなの? ちょっと車止めて」
甘えた声でバイスが言うので、私は車を止める。
止めたよと言おうとすると、再び唇が奪われた。
彼はコートの前を開いて言った。
「ちょっと狭いけど、おいで」
何のことだか解る。
「やりたいでしょ、おいで」
私は彼の言うことに従った。
「ちょっとやっぱり狭いよな」
バイスの言うことに言葉を返したいけど言えない。
「お前はかわいいけどな、ほら、俺に抱きついて」
余裕しゃくしゃくなバイスがずるい。
「いいよね」
「いいよ」
ようやく言えた。
「解った」
彼は言った。
「一仕事終わった後はいいな」
唐突にバイスが言った。
「仕事だったの?」
「違うの?」
「いいけどさ」
俺に運転させてとねだるバイスを止めて、私は再びハンドルを握っている。
「よし、天空島の土器を倒すために頑張るぞ」
「頑張れよ、俺は行けないがな。装備が無いのもあるが、全裸じゃ行けない」
「そうだね、残念だね」
「本当に、残念だ」
悔しがるバイスを横目に私はベルファイアを走らせた。
相対性理論によって落ちる中国人がいる。
未来の人形チャッキーではないのにチャッキーにされる中国人には、落ちることへの秘密があった。
ノンシュガーストリートのピンクダイヤモンド。
かつて、アフリカのシエラレオネの内戦で起きた結婚が出来るというダイヤモンドを巡るドラマだった。
密輸の元傭兵と手を組んだ漁師の彼は、愛する家族を守るために戦ったはずが、自由な家族を守るために戦ったことに変化し、愛が自由に負けた。
報道カメラマンは言う。
「チャッキーのほうが自由だ」
かつての過去の自分の誓いに負けた中国人は、自らを自らが滅ぼしたことになり、人間へと変化した。
──レジストレスダイヤモンド──
──全国の映画館にて上映中──
私はカーラジオから流れる広告に耳をすませた。
特に意識したつもりはないが、耳に入ってしまったのだ。
私は映画を見に行くことはある。
友人がとにかく映画が好きで、よく連れていかれるからだ。
私はあまり映画に詳しくはないが、話題にされたら、
「レジストレスダイヤモンドあるよね」
と、言ってみようか。
ラジオのCMで聞いただけとでも、答えるのもいい。
「うん」
次に友人に誘われた時は、私は何の映画を見るのだろう。
少し、楽しみだね。
私は、バラエティの話題に戻ったカーラジオを聞き流す。
ベルファイアに乗って、運転は快調だ。
快適なドライブを終えた私は、程なくして南側広場に到着した。
私はベルファイアを南側広場の駐車場に停めた。
そして、いつものように愛用のマスケット銃やその他の銃器をベルファイアからもち出そうとすると、
「俺も行きたいな」
バイスが言った。
「仕方ないよ。今は装備も服も無い」
「そうだね」
「俺強いんだからな、楽しみにしてろよ」
そう言うバイスに「うん」と返して、私はベルファイアのドアをロックした。
南側広場には祭壇がある。その祭壇の香炉にオンローグのトリガーを入れるとプルートアルテマが現れるはずだ。
私は野球場ほどの広さがある白い粘土の床をスタスタと歩き、中央よりやや奥まった位置にある祭壇へとやってきた。
祭壇を見ると香炉があった。巨大な香炉だ。顔ほどもある。
私は香炉に手を伸ばし、トリガーを納めた。
これで、プルートアルテマが出てくるはずだ。
待つことしばし。
私が装備品のチェックもかねて腰に下げた短銃の弾倉の弾をこめていると、南側広場の香炉から、もくもくと闇色の煙が立ち込め始めた。
私は、はっとして、見上げる。
巨大な土器だった。
巨大な土器が香炉の中から現れたかと思うと、それがみるみるうちに組み上がり、一体の巨人となった。
形状は何と形容したらいいのだろう。
とにかく、土器の化け物だった。土偶に近い。
プルートアルテマだ。
プルートアルテマは何かを計算しているかのようにカチカチと音を鳴らしている。
私は慌てて結界を張った。
フォームワームの結界のようなものである。
私はさっとゴーグルをかけると、プルートアルテマに注視した。
結界とゴーグルの作用によって、プルートアルテマの弱点が見える。
私はマスケット銃を構え、プルートアルテマに向けて引き金を弾いた。
サイレンサーによって聞き取りにくい音になっているため、軽い音を立ててマスケット銃の銃口からドルコムが飛び出した。
使っているマスケット銃は、アルチュリンゲスファーだ。
ドルコムは直線の軌道を描いて、プルートアルテマの首のつなぎ目に向かって飛び、魔導の網目のようなものをまき散らして破裂した。
ゴーグルに映るのはクモの巣のような魔導の裂傷を与えたプルートアルテマの傷だ。
パリパリと壊れやすい首のつなぎ目が見える。
私は、生体強化の魔術によって飛躍的に身体能力が上がった身体を動かし、プルートアルテマの攻撃を避けながら、アルチュリンゲスファーからドルコムを射出した。
パアンパアンパアン
銃口からくぐもった音を立てて弾が飛び出し、弱点部位にヒットしていく。
ゴーグルに映ったプルートアルテマのパリパリと壊れやすい首の裂傷の数は増え、土偶のような首の回りを一周するかのようにクモの巣のような形の光の網目が張り巡らされているのが見えた。
私は立ち止まり、口の中で呪文を詠唱すると、魔導を開いた。
瞬間、プルートアルテマの首から網目のような光の輪が出現し、とびきり硬い防御壁に押し潰されるかのように、メリメリと土偶の体表がめり込んだ。
プルートアルテマの首に刺さったドルコムが巨大化する魔術だ。
ドルコムという金属が変化し色を変え、物質すら凌駕し、まったく別のものへと変貌する。
とびきり硬い魔術の防御壁。本来は、人が中にあって結界を成すほどの巨大な意思の顕現だ。
この圧力によって中型のものなら、大抵、ぺしゃんこになる。
プルートアルテマは巨大だから、頭と胴が離れるかどうかだろう。
メキメキメキメキと引き攣れるような、木が倒れるような音を立てて、プルートアルテマの頭と首と胴が損傷した。
頭が取れるまではいかないが半分はもげている。
私はその最中も攻撃の手は止めていなかった。
アルチュリンゲスファーとドルコムの組み合わせで作られる魔術をかけるため、プルートアルテマの関節を狙う。
そうしていくうちに、プルートアルテマの関節が全て切断された。ただ、切断されただけで身体の部位は残っているが、離れた間接に闇色の煙が挟まり、何とか元の土偶の形には見えていた。
私はマスケット銃を構え、土偶の肩を狙撃した。
アルチュリンゲスファーから放たれたドルコムは土偶の肩に突き刺さる。
私はそれをゴーグル越しに確認しながら、呪文を唱えた。
すると、ドルコムが突き刺さった部位が、パリパリになって崩れ去り、プルートアルテマの土偶のような肩が崩れ出した。
私はすかさず、そこに向かって手榴弾を投げた。
私の手から放たれた手榴弾は、プルートアルテマの土偶の肩にぶち当たると、閃光を伴った爆風をあげ、耳をつんざく轟音をあげて、着弾した。
ドーン
プルートアルテマの肩が粉々に砕け散ったぞ。
この調子この調子。
私は立て続けにプルートアルテマの四肢を同じ要領で破壊した。
最後は頭だ。
ドーン
「よし」
「飛び散ったあ!」
胴だけになったプルートアルテマは、破壊された部位を闇色の煙で保って、もうもうと怒っていた。
プルートアルテマはまるで怒鳴るように怒号し、暴れ出す。
ピカーン
何の前触れもなく、強烈な閃光が放たれたかと思うと、一閃、私は闇の煙に完全に包み込まれた。
私は闇の中を疾駆する。
私は闇から抜け出そうと身体を動かすが、走れど走れど、外に出られる気がしない。
だから、呪文を唱えて、マスケット銃を上空に向けて構え、何発か撃ってみた。
しかし、魔力による光の雨が降るだけで、やはり闇は消えなかった。
機械のモーター音のような音がして、闇が一斉にミキサーと化した。
ギュルルルルルル
全てをすり潰すかのような激しい攻撃です。
前が何にも見えません。
私は防御壁の中で、闇を見ていた。攻撃はかすりもしないが、困ったことだ。外に出れない。
オーバードゥズ。
ゼロゼロナンバーが本来の本人と接着する動乱だ。
私は歌をうたって、闇を晴らし、プルートアルテマのスキをついてドルコムをアルチュリンゲスファーを使って撃ち出し、手榴弾を投げて、プルートアルテマの胴を破壊した。
ドーン
すさまじい轟音と共に砕け散ったプルートアルテマは黒い闇を風に蹴散らされて全て失った。
プルートアルテマの喪失。
始祖が神であるために起きた事件。
神々の間──ロメーブ──
始祖が始祖だと神になれないから、始祖と神の二律背反を作りだし、選定し、唯は崇高で唯のみの権利とされた。
その結果、構成元素の成分ですら、神々の間として決定し、全てが神々の間となった。
──それが全ての──
貴重品が落ちた音がする。
その時から──
「終わりの始まりは始まりの終わりだった」
神々の間の終焉により、神々の間が忘却すると、神々の間が喪失し、神々の間がエスになる。
そういった何かによる壮大なトイレだった。
確かにそうなんだけど、ひとたまりもねえな…。
そういうことがあるからって、そうやって作って、永遠になることが切り合いだからって、その切断をこう作るかねえ…
あ~あ、確かに、大昔に巻き込まれた気がするが、深入りすると、白亜みたいな人間に自分が殺されそうだ。
だから、白亜は逃げることにした。
…そう、戻らない。
神々の間のセレクションに、クフィム島の時に気が付けば、ロメーブの完成まで貫かれなかったのになあ…
解らないものだね。
闇部屋(ドレイ)が神々の間なのだろうか…
私は、仕方ないと、嘆息した。
ロメーブと天空島が違うから、続いていく…対策を取らなくてはならない。
残されたのは、豪華な宝箱だった。しかも、五つくらいある。
私は戦利品を全て回収した。
「うん」
金目のものが多いけど、珍しいものも半分くらいある。
使い道が解らないものは大切に保管しておこう。
私は、ほくほく顔で、ベルファイアに戻った。
「おう、終わったか」
待っていたバイスが言った。
「終わったよ。でも、宝箱が多くて往復しないといけない」
「そうか…う~ん…」
バイスが何を言いたいのか、解る。
「いいよ、すぐ終わるから、待ってて」
私はそう言って、全ての荷物を積み込む。
なかなか量が多い。しかし、入りきらない程でもない。
ベルファイアと宝箱との往復が大変だ。
もち運びしやすいようにカプセルに詰めても、やっぱり宝が多いと帰るのが大変になってしまうなあ。
大きな車にしておいて良かった。
私はベルファイアに乗って、南側広場を後にした。
これで星にこぶが出来ることはなおったのだろうか。
なおっているといい。
私はカーラジオを聞きながら、そう、思った。
天空島から沢尻島に帰った私は、セロリを食べた。
トマトケチャップとマヨネーズを混ぜたオーロラソースがセロリに合う。
セロリがうまい!
朝の食卓にTVからは懲りずに政治家の不祥事。
「他国に迷惑」
よくまあ、彼らも、飽きないよな。
偏ったマスコミにズム。
気付けないなら、搾取されろ。
そんなことより、セロリがうまいよ。
私はポテチを食べながら、そう、思った。
プルートアルテマを仕切っている未来の神はクンニだった。
数あるモンスターの中で、やたらと強い土偶のところに子供がいるが、あの子供がクンニだった。
だから私はベルファイアに乗ってクフィム島に行き、カニを撃ち殺した。
ロストクンニ。
シュクレッドマエノート、了。
「働いてるほうが無駄となり、下品となっていなくなる」
クンニは言った。
クンニなど喪失したほうが、よっぽどマシだった。
私はバイオリンを構えて、一曲奏でた。
Victoryという曲だ。
空気の中に晴れやかに響き渡る音楽は、草原を抜け風の中を走るようにすがすがしく通っていく。
大地に咲く旋律は花をほころばせるように芽吹き、全ての民が息を吹き返したかのように見えた。
森脇に咲く花は枯れることを知らない人間で、不滅の思いがかぐわしく、生きるとは何なのかを問いかける。
許されていいのだ。
働くことを……
私はVictoryを奏で終わると、バイオリンを肩からおろした。
「ああ、良かった」
私は安堵の吐息を漏らし、ベルファイアに戻った。
白亜の冒険 六角堂なのころな典碌 @rokakux
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます