なぜ僕が悪いの?

八無茶

なぜ僕が悪いの?     八無茶

童話   なぜ僕が悪いの?     八無茶


 活発で優しい性格の陽太はるたは小学六年生。今日も元気に登校したのに事件を起こしてしまった。


校門を入った右側に池があり、飼われていた亀が池から出ていたのであろう。同じクラスの隆君と仲間三人が捕まえて遊んでいました。引っ込めようとする足を引っ張ったり、引っ込んだ頭を棒でつついたり、蹴ると甲羅を下にしてくるくる回るのを楽しんでいる。止めに入った陽太と喧嘩になり隆君の顔を殴って痣を作ってしまったのだ。


 早速先生の詰問が始まった。

「なぜこんなひどい事をしたの?」

「亀をいじめるからやめさせようとしたんだ」

「殴った事は、いじめでしょう」

「亀はいじめてもいいの?」

「いじめじゃなく、遊んであげてたのでしょう。亀さんも遊んでもらって喜んでいたと思うよ。


 それに陽太君は二度目でしょう。この前の子猫の件でも隆君と喧嘩したでしょう」

「死んでしまってもか?放課後見に行ったら髭は抜かれ口から血を流して死んでたんだよ」

一瞬、先生は息を詰まらせたものの「何を言ってるの。友達を殴る事はいけない事なのよ」と大声で叱りました。


 その夜、陽太はお父さんにその話をしました。

「浦島太郎は亀をいじめてはだめだと言ったのに僕が言うとなぜ怒られるの?」

「喧嘩をしたからだよ」

「だって隆の方から生意気だと言って突き飛ばしたり、ボクシングのまねをして殴ってきたんだよ」


「先生には隆君を叱れない何か理由があったのかもしれないね」

その日、陽太はお父さんとある約束をしました。

『何か事件が起きても、その様子をじっくり観察しなさい。いい事なのか悪い事なのか自分なりに考えなさい。次に友達だったら、先生だったら、お父さんだったらどうするだろうと考えてみなさい。


止(と)めるべきだ、注意すべきだと思っても、実行するのは怪我人や心に傷つく人が出そうになってからにしなさい』


 翌日早速事件が起きてしまった。隆君を中心とするグループが、休み時間に教室内で上履きやスリッパを投げあって遊んでいます。陽太はお父さんとの約束通り一言も言わず我慢していました。


 その内、後ろの席の明美ちゃんにスリッパが当たったようだ。

「何するの。いい加減にして」

『生意気な』と言って隆君と連れが後ろの席までやってきました。

「うるせーんじゃ。文句あるんかよー」

「遊ぶなら外でやったらどう」その直後、スリッパで思い切り頭を叩かれる音がした。


 陽太は我慢の限界を感じ振り向いたが彼女の顔を見てびっくりした。無言のままで隆を睨んでいる。次に手を出したら噛み付きそうな顔をしている。


 暫くの静寂を破って先生が入ってきました。

 「何してるの」大声の後に、事の顛末を女子生徒から聞いた先生は

「室内で上履きの投げ合いをするのは良くない事です。しかしもっと良くないのは見て見ぬ振りをして、止めにも入らず知らぬ振りをしていた人です」


思いもよらぬその言葉は陽太の頭の中を直撃した。僕の事だ『お前が一番悪い』胸が脈打ちだした。握り締めた拳に一滴の涙が落ちた。あの時立ち上がって殴り倒した方が良かったのか?

「・・・・・・・・・」



 その夜、お父さんの前で泣いた。

「どうしたらいいの? 約束は守ったよ。だけど・・だけど・・大人は嫌いだ・・・」

 布団をかぶりベッドの中で泣いているのだろう。大人の考え方や社会の不合理に対するジレンマと闘っているのだろう。


ベッドの脇でお父さんがゆっくりと静かに話しを始めました。

「動物の世界には色々な動物がいるよね。どっしり構えたゾウさん、周囲に睨みをきかすライオンさん、人の餌を横取りするハイエナさん、チョロチョロ素早いネズミさん。しかし動物の大人は強い子にはきつく厳しく育てて、弱い子には身を守る事を教え、皆で守ってあげている。

人間の世界もいっしょじゃないかな。

陽太は何だろう。虎かな・・・・

そして人を差別するのは良く無いけれど、ハイエナさんやネズミさんに人のものを横取りするなと言って殴っても無理なんだよね。だから動物の大人達は皆仲良く生きていくために、周囲に睨みをきかす百獣の王のライオンさんに期待しているのかもしれないね。


テレビドラマで腹が立った女性が男性の顔をひっぱたくシーンをよく見るけど、腹が立ったからと言ってひっぱたくのはいけないね。明美ちゃんは、それは良くないことだと知っていて隆君を目で威圧したんだね。素敵な人だね。女豹かチーターじゃないかな。

もしその後でチーターが殴られたら虎は牙を剥いただろうね。その時は皆んな解ってくれると思うよ。先生もお父さんもだ。その為にもいろんなケースで、いろんな人に対する、いろんな説得の仕方を、もっともっと観察しようね」

「・・・・・・・・」


 突然布団が跳ね除けられ、顔を出した陽太は、目を真っ赤にした笑顔であった。     

                                          



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