変身洗濯機VS終電一本前だった

テマキズシ

変身洗濯機VS終電一本前だった


私は政府に仕えるエージェントA。今は仲間のエージェントBと共にとある住宅に忍び込んでいた。


最近巷で話題になっている行方不明事件。その失踪者が皆、悪の組織の戦闘員となっていた。


そして失踪者の足取りを探り、この住宅に入っていったという目撃情報を引き出した。


しかしこの住宅は余りにも普通すぎる。罠の類もないし護衛もいない。情報は本当なのか疑いたくなる程だ。


私はBと共に内部を調査していく。犯人の異能は洗脳、またはその系統の可能性が高い。用心しなければ…。


「……!……。」


Bは下の階から物音が聞こえたとハンドサインで報告してくる。私はBと共に下の階へと降りていく。確かに音が聞こえる…。これは…洗面所からか?


事前に手に入れた地図から居場所を割り出し向かっていく。すると洗面所には一人の男が顔を洗っていた。


互いに顔を見合わせ頷く。もし冤罪だったら悪いがスタンガンを決めさせてもらおう。


Bがスタンガンを構え男めがけて撃ち抜く!











事はなかった。Bの眼の前に何か大きな物が飛び込んできた!


「「何!?」」


私は扉から離れていたので助かったがBはそのナニカの中に吸い込まれていった。


「これは!?洗濯機か?!」


その洗濯機は余りにも異様な姿をしていた。普通の洗濯機とは違い両手と両足があったのだ。


だがこんな事で驚いている暇はない。奴は間違いなく私達のことを把握していた。奴こそが、失踪事件の犯人の可能性が高い!


「…ッ!」


すぐに銃を撃とうとするが、私の肩に鋭い痛みが走る。銃を撃たれたのだろう。いつの間にか奴の手には銃が握られていた。


「変身洗濯機。これが俺の異能さ。変な名前だろ。俺もそう思う。」


「…ウゥ。」


奴がこちらに近づいてくる。下卑た笑みを浮かべている。私は声を出そうとしたが奴に踏みつけられてしまった。


「だけど強さはピカイチ。…ああ。ただ両手両足が生えるだけじゃあないぜ。あれをよく見てみろ。」


私は奴が指差した方向を見る。そこにはガタンゴトン音を立てて先程の洗濯機が起動していた。待てよ…中に入っているBはどうなったんだ?!


ピーという音と共に洗濯機が開かれた。そして中からBが姿を現した。先程とはまるで違う異様な姿で。


「私の名前はアリス トロイアです。マスター。ご命令を。」


「…な?!…まさかこれが行方不明者を悪の組織の戦闘員に仕立てた方法か!」


スーツ姿は特撮の戦闘員のような姿に変わりはてていた。敬礼を取っており、その目に生気は無い。しかもエージェントにとって絶対にやってはいけない行為である本名を名乗っている。


「その通りよ!これが俺の異能変身洗濯機の真骨頂!俺の出した洗濯機の中に入った者は洗脳されるのさ!さあ次はお前の番だ!お前も我らの組織の為に尽くして貰うぜ!」


洗濯機が私に近づいてくる。だが私には秘策があった。


「ふふふ…。忘れちゃいないか。私の異能の事を!」


「バカめ!異能の発動前に洗濯機に入れちまえば俺の勝ちだ!やっちまえ!変身洗濯機!」


私の体を洗濯機が持ち上げ、中へと入れる。だがもう襲い。私の異能はオート発動なのだ。


















「へ?」


俺、アークは今の状況が分からなかった。俺は今、組織の依頼で戦闘員を増産していた事が政府にバレたから、そのエージェントを洗脳してやろうと罠を仕掛けた。


結果は大成功。これで組織内部の俺の地位は爆上がり…のハズだった。


なのに何故今俺は顔を洗っているんだ?まるで時が巻き戻ったような…。まさか!?奴の異能の正体は!?


洗濯機にエージェントを襲うのでなく、俺のガードに回す。だが既に攻撃は行われていた。


頭上から無数の弾丸が発射される。体がまるでレンコンのように穴だらけになる。上を見上げると女性のエージェントの両手が銃になっていた。


「…時を……巻き戻したのか。」


一人の男が降りてくる。間違いない。先程のエージェントだ。


「終電って怖いよな。もし腹が痛くなってもそれを逃したら帰れない。田舎なら特にだ。」


「だが終電一本前だったら?トイレに間に合うし、精神的にも余裕が生まれる。それがこの私の能力。どんな時でも一度だけ時を巻き戻しチャンスを生み出す能力。」






「終電一本前だった。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変身洗濯機VS終電一本前だった テマキズシ @temakizushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ