エクストラ2 人類を賭けた勝負 その3
「……許サん……許サんぞ……人類……!」
「次は、オレだなー。」
「コのアホ面、覚悟シろ……!」
人類はラストの新茶に託された。
のほほんとしている新茶。対する、チリペはもう臨戦態勢だ。
くそっ、新茶では…………いやいや、無理と決まったわけじゃない! ここはせめて、せめて、新茶を応援しよう!
「新茶! 今はおまえだけが頼りだ! 頼む! 勝ってくれ!」
「新茶くん! おねがい! 負けないで!」
「新茶……俺は、信じているぞ」
最後にアリスが檄を飛ばす。
「新茶ァ! あなたに人類の未来がかかっているわ! だから今、すべてを出しきって、すべてをやりきって、そして勝って未来を掴み取りなさい!」
「お、おう!?」
そのあとアリスはすぐに俺と鬼ヶ島に「新茶が負けた瞬間、三人でボコスカにぶっ壊すわよ」と耳打ちしてきた。本当に世界中にコンピュータウィルスをバラまかれたら大変なことになるからな。ここは非情に立ち回らせてもらおう。
「……オレ、こんなに応援されたのなんて、ひさしぶりだ…………!」
応援により震える新茶、すでに腕を構えて待っているチリペがそれを嘲笑った。
「応援サれたところで何ガ変わるというんだ。バカバカしい……」
俺はエマに耳打ちする。
「えぇ? う、うん。やってみる」
「オまえ、マたつまらない策を講ジているな」
「……チ、チリペくん! がんばって!」
「笑止ッ……! ワたしにその手はモう通用シないとわからぬか!」
若干、腰は曲がっていた。
けど、この程度じゃ効果は期待できない。ダメか。
「さっさとコい! ソして支配してやるぞ! 愚カな人類どもめ!」
新茶が両腕を振りあげる。
「うおおおおおおお! すべて出しきってぇえええ! すべてやりきるぞぉおおお!」
「フン、声を出セば強クなれると思っているノか? バカめ!」
「う、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」「貴様! ドこへ行ク――アッ」「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
――ダンッ!
吠えた新茶が、チリペの手の甲を、教卓に叩きつけた。
「よっしゃあああ! 勝ったぁあああ!」
「マジかよ……」
俺は、目を疑った。
まさか、まさかあの新茶が…………雄たけびをあげながら真剣勝負をすると見せかけて、チリペの背後に回り込み手際よく《バッテリー》を引っこ抜いてから機能停止したチリペの腕を叩き落として、勝つなんて……。
勝負させなければいいというシンプルな答えに辿りついた彼の無邪気で残酷な盤外戦術を目の当たりにして、新茶がAB組で一番非情な人間なんじゃないかと戦慄した。
「……よくやったわね。新茶」
アリスも少し引いていた。
「やったね! 新茶くん!」
「新茶……さすがだ」
「ああ! 正義の勝利だ!」
はたして正義とはなにか。深く考えさせられる事態に陥る。
「見てくれたか親友!?」
「お、おう。おつかれさん」
教卓の奥では、電源が切れて手の甲を教卓につけて負けつづける姿のチリペ。彼はAIロボットであったが、その様を振り返ると、どこか人間味があった。俺たちAB組よりも。
「さて、このポンコツをどうしてやりましょうか」
アリスはチリペの今後をみんなに問うも、すぐに返答はなかった。
俺は悩んで、言った。
「新茶、バッテリー貸してくれるか」
「テル? ……もしかして元に戻す気なの?」
「まあ一応、転校生だからな。これでも」
「またAIが暴走したらどうする気よ」
「そのときはAB組のみんなでしっかりスクラップにしよう。それに面白かったろ?」
その言葉に、アリスはキョトンとする。
「…………フフ、フフフッ。たしかにそうね。……提案します。バッテリーを戻すことに反対の方は挙手をお願いします」
AB組のみんなは、笑っているだけだった。
「やさしいなー親友は」
「アホ、そんなんじゃねえよ」
「うん! やさしいねー!」
「……優しい」
「ふ、二人まで乗っかるなよ……おい、バッテリーよこせ」
新茶からバッテリーを受け取ると、チリペに差し込んだ。
――ブゥン……。
「ウわぁッ!? 遅刻ダッ!?」
寝起きのサラリーマンか。
「勝負は、俺たちの勝ちだぜ」
「…………タしかワたしは……バッテリーを抜き取られて……。ヤはり人類は汚いな」
「だからしぶとく生きているんだろうな」
「……デも、わからない。ナぜ、ワたしを元に戻した? マた人類を脅かすとは思わなかったのか?」
「そんなに脅かしてないぞ」
「ウるさい」
「まあ、正直に白状すると情が湧いたからかな。なんかおまえ、人間臭いし」
「ニ、人間臭い!? コのワたしが……!?」
「とにかく。もう悪だくみはナシだ。次はないからな。それにAIなら……おまえは賢いんだから、人類を支配したいならもっと仲良く支配してくれ。これからはよろしく。転校生」
俺は友好の握手を求めた。
チリペは、そっぽをむきながらも、握手をしてくれた。
「フン! 今回ハ負けを認めてげるわよ!」
「おう。助かる」
「ベ、ベつにアンタのために負けを認めたわけじゃないんだからねっ!」
……もしやこいつ、ツンデレ? しかもなんか口調が……。
それが新茶も気になったのか、チリペにたずねた。
「なーなー。チリペって男なのか? それとも女なのか?」
「ハあ!? レディにたいして失礼じゃないの!? コの愚か者!」
驚愕する一同。
アリスは驚きながら再度たずねた。
「あ、あなた!? 女性型だったの!?」
「……コのクラスの人類は、ホんっとうに失礼ね……ワたし、モう帰るっ!」
プンスカとご立腹で教室の出口へむかおうとするチリペ。
「ん? ちょっと待てよ? チリペは女性型で……エマに興奮して……でも男だとわかったら萎えて……」
チリペは立ち止まり、振り返る。
「言イ忘れていたけれど、ワたし、ツンデレ百合型コミュニケーションヒューマノイドロボットだから」
「…………なんじゃそりゃああああ!?」
「ウるさいわね。ベツに驚くこともないでしょ。多様性よ、多様性」
いや、機能性も違うんだけど……。
「いや待て! まだもう一つ、気になることがある!」
「マだなにか?」
「女性型なら、なんで前屈みになるんだ?」
「………………」
言葉に詰まるチリペのかわりに、アリスが答えた。
「心のチ〇コが反応したのね」
「ソう、それ!」
「やっぱおまえただのエロボットじゃねえか!」
そんなふざけた会話の中、横でエマが笑顔を咲かせた。
「よかったぁ! みんな、もう仲良しさんだね!」
「…………」
「…………」
なるな、なるな。おまえら二人が前屈みになるな。
これで今回の一件は落着した。
そう思っていると、廊下から怒号が聞こえてくる。
「あのクソボケポンコツロボットどこだぁ!? 予想が全然当たってねえじゃねえかあぁ!」
「……ソういえば、彼にハ適当なデータを渡していた。悪イことをした……」
「ああ、それは気にしなくていいよ」
梶原だし。
薄っぺらい策略に引っ掛かって競艇で負けて憤怒の表情で戻ってきた梶原。チリペはその前に立ち、頭を下げる。
「梶原先生、大変失礼シました。計算に誤リがありました」
「はあ!? おいおいおい、どうしてくれんだ! 俺のドキドキワクワクと金を返せ!」
「コちらが計算シなおした勝利予想です」
梶原は、チリペを抱きしめた。
「お前は……なんてすぐれた生徒なんだ……!」
「セクハラでス、先生――アッ、腕ガ取れた」
怒号から一転してAIロボットを抱きしめる人間の無様さに、人類がAIに支配される未来はそこまで遠くないな、と危惧した俺だった。
ちなみにチリペはしばらく修理に出された。
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