エクストラ2 人類を賭けた勝負 その2

 AB組の教室では、AIロボットVS人類の、存亡をかけた腕相撲対決が行われようとしていた。


「イいか。ルールは至ってシンプルだ」


 チリペとAB組の五人が順番に腕相撲をして、先に3勝した側の勝利。ただ腕相撲で勝てばいいだけの話。


 教室の真ん中にスペースを作って教卓を置き、そこでむかいあう俺たち五人とチリペ。

 

 対戦の順番は、アリス、エマ、鬼ヶ島、俺、新茶、の順。


 初戦に立つアリスは、念を押すように聞いた。

「本当にアンタ一体で私たち五人を相手にする気?」

「二度も言ワせるな。タかが人間五人を相手にスることなど、ワたし一人で十分だ」

「ナメやがって……」

 アリスは殺気立っている。

 たしかにチリペはナメている。あの高峰アリスという、唯我独尊怪力令嬢のことを。

「アリス。スクラップの予定を前倒しにしてやれ」

「言われなくても、殺すわ」

 おー、怖い。だが、こういうときはすこぶる頼もしいぜ。

 チリペが教卓に腕を乗せる。


「サあ、ヤろうか」

 アリスも教卓に腕を置き、冷たい手と組んだ。

「テル。掛け声を――」

「ソんなものはいらない。好きなタイミングでコい」

「クソがおらぁあああああああああああッ!」


 ――ガンッ! 


 教卓が揺れる音。だが、それだけだった。

「……ッ!?」

「うそだろ!?」

 チリペの腕が、すこし傾いただけだった。

 俺を軽々と持ちあげるような腕力を、受け止めるなんて……。

「……タしかに。ワたしは少し、ナメていたようだ。ダがもう学習した」

「ぐぅっ……!?」

 徐々にアリスの腕が押し返されていく。なんとかアリスも耐えていたものの、次第に力尽きて手の甲が教卓についた。へたりこむアリス。

「そ、そんな……」

「マずは、ワたしの一勝だ」


 まさかアリスが負けるなんて……腕相撲は、間違った選択だったのか?


 次は、エマの番。

「こういうときこそ、ぼ、僕が、がんばらないと……」

 ムッと顔に力をいれるエマ。めっちゃ可愛い。だが今回は、分が悪すぎる。

 可愛さ勝負や大食い勝負なら圧勝だけど、力勝負に限っては、エマはAB組で一番非力だ。


 まずいな……こうなると、鬼ヶ島と俺と新茶でどうにかしないといけないぞ……。


 エマはチリペと手を組み、見つめあう。

「お、おねがいします!」

「……………………。好きなタイミングで、ハじめて、クださい」

 ……あ? さっきとなんだか態度が違う気がする、が……。

「エマー! がんばるんだぜー!」

 新茶の応援により一層に気合の入ったエマ。

「う、うん! がんばる! ……えいっ! えーいっ!」

「…………ナんと、カ弱いのだ……」

「ふぅーんっ! ううぅーんっ……!」

「………………」

 可愛い。だがチリペの腕はまったくビクとも…………いや、傾いているぞ!? しかもエマが押し勝っているだと!? 


「いったいなにが起こっているんだ!? 奇跡か!?」

「………いいや。違うな」

「え?」

 ひさしぶりに発言した鬼ヶ島が指をさした。


 その先は、チリペの腰だった。

 そして、なぜかチリペは前屈みになっている。


 ………いやいやいや、おいおいおい、まさか……。

 

 アリスもそれに気付いた途端、怒号をあげた。


「おいテメエッ!! テメエはロボットだからチ〇コ生えてねえだろうがぁ!!」

「ナッ!? コ、これは、断ジて違う!? 貴様トの対戦で腕ガ――」

「私を言い訳に使うのかッ!? きたねえロボットめッ! 私に勝っておきながら発情したら手加減すんのかテメエはぁッ!! 人間以下のエロボットがぁ!」

「チ、違……、違ウンダ……!」

「えいっ!」

「アッ……」


 エロボットと成り下がったペーの手の甲が、教卓についた。

 エマの可愛さはAIまでも狂わすのであった。


「やった! 勝ったよ! アリスさん!」

「すごいわエマくん! さあ、はやくその薄汚い手をはなしましょう!」

「コ、これは……新手のウィルス攻撃ダったか……! チクショウ!」


 いや、チクショウって……。なんか段々と人間に近づいてきてないか?

 なにはともあれ、これで一勝一敗。

 

 そして次は……残念だったな。AIエロボット。

「俺……だな」

 そいつは人間じゃないぞ。


 ゆっくりと鬼ヶ島は教卓に腕を乗せた。その動作一つ一つが威圧感を生む。

 チリペもさっきまでのたるんだ表情を、消した。表情変わらんけど、そう見えた。

「ソの威圧感……コこで貴様を倒せバ……モはや人類を支配シたようなモのだ」

「………………好きなタイミングで、どうぞ」

「!? ナメくさりオって……!」

 チリペの腕に力がかかった。

「…………まだ、はじめないのか?」

「クッ……!? グッ……コ、のやろう……」

 鬼ヶ島の腕は、ビクとも動かなかった。

 さすが! 人間やめているぜ!

「クソッ! ナぜだ! ナぜ動かない! ワたしは最新鋭の技術で開発サれたヒューマノイドロボットだぞ!?」

「…………zzz……」

「寝ルなッ!!」

 もう発言とかが感情出まくりで、もはや人間臭いんだよな。チリペ。

「…………3……2……」

「動ケ、動ケ、動ケ、動ケ……!」

「1……活動限界、です……」


「動イてよッ!!」


 鬼ヶ島の腕が動いた。


 ――ドガァンッ!!


 一瞬で、チリペの手の甲が教卓に叩きつけられた。

「チリペ、殲滅完了……」


 これで二勝一敗、リーチだ。


 機械のくせに教卓で項垂れるチリペ。鬼ヶ島は俺たちとハイタッチを交わしていく。

「さすが鬼ヶ島ね。パワーならこの私でも敵わないわ」

 気持ちを持ち直したアリスが鬼ヶ島を褒めた。

「悪いが……美しさも、俺が勝っている」

「頭の悪さもあなたには負けるわね」

「……いい返しだ」

「フン」


 アリスと鬼ヶ島のハイタッチ。なんかカッコいいんだけど。


「さてと、次はテルだけれど……」

「なんだよ。その不安そうな顔は。俺だって策はあるんだぜ。もう手は打ってある」

「……なにをしたのよ」

「まさかアリスを倒すほどのパワーがあるとは思わなかったが、それでも鬼ヶ島がしてくれただろ。おもいきり」

「あっ、あれってまさか……」


 鬼ヶ島がヌッと顔を出す。

「最後のは……わざと、派手にやった」

「これであいつの腕はまともに機能しない。これで3勝先取だ」

「そういうことだったの……だからテルは順番を鬼ヶ島のあとにしたのね。……それなら鬼ヶ島を最初にやらせなさいよ」

「それはアリスが『私が最初にぶっ殺す』って言って譲らなかったじゃん」

「…………忘れたわ」

「AIにはなかなかできない機能だな、それ。とにかくまあ、これでチリペは詰みだ」


 俺は余裕綽々でチリペのいる教卓を見た。



 ――チリペは、逆の腕を教卓に置いていた。



「おい!? 腕を代えるなんてずるいぞ!!」

「ナにを言う? ワたしは一人で相手をスるとは言ったが、腕をカえないとは一言も言ってないぞ。愚カな人間め、せいぜいこれからは規約もキチンと目を通すコとだな!」

「くそっ!」

「マズいわね……どうするのよ、テル!」

「こうなったら……仕方ない。アリス、耳を貸してくれ」

 俺はアリスにある作戦を伝えた。

 その間、新茶がチリペを観察して「よく見ると機能美があってカッコいいなー!」と無邪気に褒め、チリペもまんざらではない様子だった。案外、AIも人間のように褒めて伸ばすべきなのかもしれない。


「よし。いってくる」

 俺は教卓に腕を乗せ、チリペと手を組んだ。

 まだ新茶が残っているが期待はできない。だから俺で終わらせる!

「ホかの奴らとは違って、貴様ハどうやら凡庸のようだな」

「ハンッ! だから頭を使って追いつこうとするんだろうが。頭脳明晰なAIロボットがそんなこともわからないとは、人類もしばらく安泰だな」

「ホざけ。……サあ、こい」


「……おらぁあ!」

 俺は一気に力を加えた。

 ビ、ビクともしねえ……!

「フハハハッ、ドこが頭を使っているトいうのだ。これこそ――」

「今だ! チンピラホイホイ作戦!」

「チ、チンピラホイホイ、ダと?」

 すかさずアリスが叫ぶ。


「ああッ! エマくんッ! 背中に虫がッ!」


 そしてあのときの、チンピラを捕まえたときのようにエマの服をまくりあげた。


「ひゃあっ!?」

 

 ――ガショーーンッ!!


 チリペの腰が、物凄い機械音を立て、90度に曲がった。

「ウ、うワあああああッ!? ナんじゃコりゃあああアああッ!?」

「やはりエロボットねアンタ! テル、決めてしまいなさい!」

「よっしゃああああ!!」

 もはや人間の驚き方をするチリペ。人間になら……勝てる!

「おらぁああああああああああッ!!」

「マ、マずい……!」

 慌てて押し戻そうとしてくるが、その体勢と恋のバグのせいで力を発揮できていない。力は拮抗……いや、俺が勝っている!


「見たかぁッ! チリペぇッ! これが凡骨の戦い方だぁッ!」

 徐々に、徐々に、チリペの手の甲が教卓へと近づいていく。

「コのわたしがッ!? マ、まけるだとありえないッ!?」

「人間をナメるなぁッ! おまえはネットの海の中で反省しろやぁ! これで――」


「コラ、タカミネアリス! なにをしているんだ! デリカシーがないぞ! もしエマが女の子だったら恥ずかしくて泣いちゃうぞ!」


 ――シュウーーン……。


「え?」

 俺は一瞬で、手の甲がつくどころか、床にひっくり返っていた。

 腰が90度に曲がっていたはずのチリペが、背筋をまっすぐに伸ばして俺を見下ろし、ワナワナと震えている。

「マさか……男、ダったとは……よくもワたしの純情を、モて遊んでクれたな……!」

 こいつまさか…………『男の娘』を知らないのか!? そんなことも知らずに人類を支配するつもりだったのか!? このポンコツAIロボットは!? アップデートしなおせ!


「そんな……まさか……」

 すまないアリス、せっかく協力してくれたのに……。

「新茶に説教される日が来るなんて……」

「あっ、そっち?」


 これで二対二。

 

 人類とAIの対決は、まさかの、ラストの新茶にゆだねられた。


「……許サん……許サんぞ……人類……!」

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