彼女がきた。
優たろう
第1話
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま四ツ谷駅にいるの』
「……」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま公園の前にいるの』
「……」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま玄関の前にいるの』
「ちょtt……」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま階段の下にいるの』
「」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。あなたの部屋の前に着いたよ。もうすぐ会えるね』
トゥルルルルル
トゥルルルルル……
『何でいないの??』
「実家? 5年前に家出たんだけど」
『……え?』
「……」
『……何で早く言ってくれなかったの?? 四ツ谷の段階で気づいたよね? どんな気持ちで聞いてたの?』
「いや、違うのになあと思って」
『そういう時言って』
「いや、マリーさん来るの初めてだったからさ」
『だいたいそうだよ。私もこんな人初めてだわ』
「お前あれだろ? マリーさんて『○○にいるよ』って電話しながら近付いてきて、『あなたの後ろにいるよ』で振り向いたら死ぬやつだろ。ほんとにいるんだ」
『まあ、仕事的な?』
「『仕事的』って夢を壊すんじゃないよ」
『まあ、夢を持って? 生きていかないとね』
「お化けが何言ってんだよ」
『ところで、今どこいるの?』
「そんなこと言うわけねえじゃねえか」
『じゃあ、いいわよ。逆にこっち来て』
「なんでだよ。何で殺されに行かなきゃいけないんだよ」
トゥルルルルル
「はい」
『何で先に切るのよ。せーので切ろうって言ったじゃない』
「言ってねえよ。付き合いはじめのカップルかよ」
『……あなた、付き合い始めた頃そんなことしてたの?』
「してねえよ、ばか」
『あの頃は一晩中電話してくれたのに』
「え? お前まさか、奈々子なのか?!」
『私、マリーさん』
「知ってるよ」
『奈々子って誰よ。私の知らない女』
ツーツー
トゥルルルルル
『奈々子って誰よ』
「『私、マリーさん』の件(くだり)サボってんじゃねえよ」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま○○駅にいるよ』
「なんでここがわかったんだ!」
『フフフフ……逆探知する時間を稼がせてもらった』
「なんだとっ。お前、何者だ?」
『ハハハ……私、マリーさん』
ツーツー
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま牧場の前にいるの』
「……」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いまお土産屋の前にいるの』
「……」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いま日帰り温泉の前にいるの』
「……」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。いまカニ食べ放題の店の前に』
「温泉街満喫してんじゃねえよ。すっと来い、すっと」
『行っていいんですか?』
「いいわけねえじゃねえか」
『っていうか、温泉旅行中だったんですか? こんな時化(しけ)た』
「うるせえよ」
トゥルルルルル
『私、マリーさん。話聞こうか?』
「なんでだよ」
『つらいこと、あったんじゃないですか?』
「なんだと! ……約束してたあの日から連絡もつかなくなっちまった。フラられたんだよ。」
『雨に?』
「雨に降られたくらいで傷心旅行行くかよ。てるてる坊主か」
『てるてる坊主なんですか?』
「そんなわけねえだろ。彼女にフラれたんだよ。5年も付き合ってたのに」
『それってもしかして、奈々ちゃんのこと?』
「『奈々ちゃん』ってお前、奈々子のこと知ってるのか?」
『忘れちゃったの? 私のこと』
「お前、まさか――」
『思い出してくれた? そう。私はマリ。高校の時同じクラスだったマリ』
「でも、マリって高三の秋に交通事故で死んだんじゃ」
『そう。だから、今は”マリーさん”として働いているの。これでもお店のナンバー1なのよ』
「あんま人殺した数ナンバー1とか言わない方がいいよ。でも、そうか。幽霊に元気かっていうのも変だけど、元気そうでよかった」
『ねえ覚えてる? 私が事故に遭ったの文化祭の前の日だったって』
「そうだったな」
『そう。準備で遅くまで模擬店の準備をして』
「そうそう」
『やりたかったな。泥団子屋』
「俺たちそんなことやったんだっけ? お遊戯(ゆうぎ)会か」
『……』
「……」
『……お遊戯で泥団子は作らない』
「わかってるよ」
『実は文化祭の日、私、君に伝えようと思ってたんだ』
「え……マリ、お前」
トゥルルルルル
『私、マリ。あなたの後ろにいるの』
背中越しに声が聞こえた。
『……あなたのこと、好き……好きだったんだ』
「マリ、お前」
『泣かないで』
「でも……」
『ほら、大浴場のみんな見てるよ』
「じゃあ、何で入ってきたんだよ。ここ男湯だぞ」
『私行くね』
「俺を殺さなくていいのか?」
『いいよ。いいに決まってんじゃん。ここで君を殺したら、私、死んでも死にきれないよ。まあ、もう死んでるんだけどね』
「おい……。――よし、決めた。俺を殺してくれ。マリに殺されて、あっちの世界で一緒に生きていこう。まあ、死ぬんだけど」
『もう……』
ありがとう、またね、大好き
振り返るともうマリの姿はなかった。
トゥルルルルル
『私、マリーさん。これからもずっとあなたの心の中にいるよ。奈々ちゃんの代わりにね』
「お前がまさか奈々子を――」
彼女がきた。 優たろう @yuu0303
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