Epilogue どこにでもいる普通のあなたへ
拝啓
桜が新芽を膨らませる時期になると、春の訪れを実感します。
それと共に、あなた達と過ごした高校時代を懐かしく思い、こうして筆を執った次第です。
お二人が町を離れてから、色々なことがありました。
林先輩の話は聞いていますか? 彼女は高校を卒業した後、私立の某有名大学に進学しました。ゆくゆくは政治家になることが目標で、現在は医者を目指しているそうです。政治に関わるために医学を学ぶ、というのは手段と目的が転倒している気がしなくもありませんが、彼女なら上手くやることでしょう。いつか壇上で熱弁を振るう日が楽しみです。
なお、東大を受験しなかったのは、その私立のほうが彼女の理想に近いからであって、決して実力不足だからではないと仰っていました。真偽の判断はあなたに譲るとしておきましょう。
あなたを主人公に変えた例の組織は、警察に摘発されて捕まりました。この件は、私よりあなたのほうが詳しいかも知れませんね。友人の自家用車に細工をしたり、犯罪組織に情報を横流ししたり、学生の間に危険ドラッグを流行らせたり、色々と悪事を行っていたようです。ただし組織の思想はほとんど世間に理解されず、奇妙なカルト集団として処理されることとなったようですが……。
脇本くんは一般企業に就職したそうです。電気系の会社だったように思いますが、その分野に明るくないのでここでは省きます。気掛かりであれば、連絡先を知っているのでご紹介しますよ。……おっと、いま灯さんの視線を感じました。脇本くんと連絡を取るときは、くれぐれも彼女への気遣いをお忘れなく。
遅くなりましたが、私は今も夢見る少女です。ライターとして単発の仕事を細々とこなしながら、小説を書き進める日々を送っています。昔は好きが高じてホラーばかり書いていましたが、先日編集者の方に助言を頂き、今はラブコメやミステリーなど表現の幅を広げている最中です。中でもファンタジーはウケが良く、自分でも手応えを感じています。いつか誰かに届くまで。この先も夢を追っていく所存です。
あなた達はどうですか? 倦怠期はありましたか?
まぁ心配はしていませんが。
あなた達がそう簡単に互いを手放すとは思えませんし、もしいつか飽きる日が来ても、それぞれ生きていけるでしょう。なんせ二人とも、主人公並みに自我を持っていますからね。正直、どうしてあなた達が衝突しないのか、私には不思議でたまらないんですよ? 今度円満の秘訣を教えてくださいね。
最後にお礼を述べたいと思います。
今の私があるのは、あなた達のお陰です。人生に絶望していた私に、生きる意味を与えてくれた。夢を追ってもいい、高望みをしてもいいと言ってくれた。あなた達の言葉が、行動が、私を自由にしてくれました。
一度捨てた命ですが、あなたに拾ってもらえて本当に良かった。
私は今、幸せです。
ではまた。お返事くださいね!
敬具
道連 小径
スタンドバイヒロイン 鹿条一間 @rokujo-hitoma
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