桜杜の山

菜月 夕

第1話

『桜杜の山』


 私はやぶだらけになって道が所々ふさがれるように成ってきた山道を登る。

 登った先にある古ぼけた社、私は拝礼をして魂抜きをした社を壊し始めた。

 この社は祖父たちがこの地に越してきたのが100年ほど前。

 北海道のオホーツク海の内陸のこの辺りが開発され始めたころだ。

 鬱蒼とした山林を切り開き冷え込みも厳しいこの地に居を構え地主としてここの村の開拓の緒となった。

 地主として地区の人々にも楽しめるように裏山に桜を植えて宴会なども行っていたという。

 そしてこの山に古峰神社より魂分けして貰って社を構えたのだ。

 しかしそれから百年この地区も離農などの過疎でこの社を守るのも守人としてこの山とともに参っているのも私だけになって来ていたのだ。

 その私も歳を取り、社を守るのも怪しくなってきてここを廃社することにしたのだ。

 

 前日に残った氏子の一人と二人で社の魂を町の神社で供養して貰ってたが、忙しい時期でもあったので供えた酒と塩を撒いて私は一人で社を解体した。

 それほど高くない山とは言え頂上にあったので解体した木材などはそのままとしたが私は少し寂しい気持ちを抱えて山を下った。

 そしてそんな山にも年が明けて桜の花が咲き始めた。

 昔は山いっぱいの桜も、多くが枯れたり風雪で折れて少なくなって、年老いた桜の花もあまり咲かなくなってきていた。

 でもこの年の桜はこの山の杜が無くなった事を悲しむかのようにいつもより咲き誇ってきていた。

 ふと私はあの朽ち果てるままとした杜の跡はどうなっているか気になって満開の桜の中で山道を登る。

 登り切った先に置き捨てたはずの廃材などは消えていてそこには小さな穴が開いているだけだった。

 こんなものが開いている理由も原因も判らない。

 ふとそう言えば桜の下には何かが埋まっているという俗説を思い出した。

 でもこの地にそんな伝説も家の言い伝えにも聞いたことがない。

 私は訳が判らなく立ち尽くした。

 そこに風が吹き、桜たちがその花を散らして舞い落ちてきた。

 山いっぱいの桜の桜吹雪が収まるとそこには先ほどの穴は無く、打ち捨てられた社の跡が残るだけだった。

 夢の桜吹雪だった。

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桜杜の山 菜月 夕 @kaicho_oba

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