第6話

僕は今日も箱を運んでいる。

誰にも見られず、ただ運ぶだけだ。

アンドバックからユンゴールまで一時間程で終わる。これも私の日常となっていた。

色んな場所の普通通らない道を知ることが出来て、意外と楽しいのだ。

今は何もないが、何かの名残があるのだ。今日は町内会の石碑とゲームセンター跡があった。中に入ってみると、今にもゲーム機が動きだし、人が集まって来て懐かしい喧騒に包まれるような感覚を覚えた。

機械はまだ死んでいない。いつか来るチャンスに備えて眠っているだけだ。

そう思うと、この忘れ去られた無機質な場所にも希望を感じることが出来るのである。


ユンゴールから戻ってくると家の周辺が騒がしい。

何事かと様子を伺っていると家からカナブラハムが出てくるのが目に入った。

これはまずいことになった。私は今は家にいるはずなのだ。

スタックル社の人間に嗅ぎ付けられてしまったようだ。アンドロサムは大丈夫だろうか。

とにかくこの場を離れなければならない。誰の助けも当てに出来ない。そこで、振り向くと後ろで爆発音がした。


「タムー!逃げるぞ!」

アンドロサムの声だ。

船のような形の乗り物が近付いてくる。態勢を立て直したスタックル社側が、銃で船を狙う。しかし、その攻撃は悉く曲げられ、外れていく。

それが、私の足元をかすめていった。私は船に向かい、走りだした。

船の横が開き、アンドロサムが手を伸ばす。

「掴まれ!タム!」

私が飛び移る直前、脳、心臓二点同時自動狙撃型光線銃を構えたカナブラハムが見えた。嫌な汗が噴き出してくる。

射ったようだが、光線は家の中めがけて飛んでいき、爆煙をあげた。そのまま、船は目にも止まらぬ速さでその場から離れた。


私とアンドロサムは手術を受けた。

スタックル社に埋め込まれた機械は全て取り除かれた。これからは、管理されざる者の後方支援をして欲しいとのことだ。薬も手に入るそうだ。

「別に好きなことをすれば良いんだぞ。」

アンドロサムはそう言った。

私はしばらく考えた後、こう言った。

「私は地球に行きたい。工藤に会ってみたいんだ。」

アンドロサムは答えた。

「それもいいだろう。顔を変えて、戸籍を操作しておけば、まあ何とかなるだろう。金も用意できる。だが薬は渡せない。それでもいいか。」

私は答える。

「構わない。」

アンドロサムは笑った。

「そうか。いつか遊びに行くかもしれないが、その時はよろしく。 」


地球に着いて、しばらく経った頃、ペットショップに行った。犬、猫を横目にさらに奥に進んでいく。鳥、爬虫類、魚などなど。一番奥には、ハムスターが運動していた。くるくる回る回し車を見ながら、覚悟を決めた。


今日工藤に会いに行こう。


おわり

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人間 椎名これぽよ @korepoyo

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