第5話
今日は八時にウラストホルムか。
知り合いもいないし、丁度いいだろう。
大分運び屋にも慣れてきた。
初めてやったときは、緊張した。中身は知らないが、薬ではないかと思っている。
段ボール箱を人の通らない場所に置いて、帰る。
私が必要かと言われれば、そうではないのだろう。
この情報操作器があれば、アンドロサム一人でどうにでもなるのだ。きっと私は危なくなったら切り捨てるための駒なのだろう。
考えたところで仕方ない。私は彼らにも管理されているのだから。
せめて私にも情報操作器を作ることが出来たら良かったのに。
しかし、そんなものを作ったら、管理に引っ掛かるか。
いや、待てよ。ではこれは誰がどうやって作り出したんだ。スタックル社の人工知能が学習していないものだからか。
なるほど。管理されざる者たちの作った人工知能は当然学習済みだろう。
同じものではダメだ。全く新しいものを作らなければならない。いかにも難題である。私はソウゾウする者ではないのである。
登に会うとほっとする。
日常に埋もれることが出来る。
「工藤は何してる。」
私が尋ねると、登はこう答えた。
「病気の友達のために千羽鶴を折っているよ。」
私は覗きこんだ。
「へー。工藤がねー。誰が病気なんだ。」
登は答えた。
「アネゴだよ。」
私は納得した。
「アネゴのためなら工藤は折るかもな。病気は重いのか。」
登は答えた。
「そのようだ。なぜ知らせなかったと工藤は怒っていたよ。」
その日、工藤は鶴を折り続けていた。
私はそれをじっと見つめている。
しかし、何かが引っ掛かる。喉のすぐそこまで来ているのに、つっかえてしまった何か。
それは、一体何なのだろう。
気付けば、眼を閉じていた。
瞼の裏に映るのは、黙々と鶴を折り続ける工藤の姿。二つに折っては、戻し再び折る。それを繰り返すうちに鶴が出来上がる。
ずっと同じ動きだ。いや、少し変わってきた。また、変わった。少しずつ収束していく工藤の動きは、いつの間にか、二つに折る動作を繰り返している。これは何だ。私はゆっくりと眼を開いた。
すると、工藤は実際その通りに折り紙をしているのだった。
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