第41話(エピローグ後半・最終話) ポラちゃむ
「アクルクス~! ポラリス~!」
「おー、みんな!」
振り返ると、イオくんたち、修道院の仲間が並んでいた。
その真ん中にはレダちゃんが、決意に満ちた表情で立っている。
彼女の後ろには路面電車があった。今まさに、旅立とうとしているのだ。
ルクスたそは、かがんでレダちゃんに優しく語り掛ける。
「レダさん、困ったらいつでも呼んでくださいね。どこにいても、駆けつけますから」
彼女はこれから、治療のために外国で一人過ごすことになる。心細いだろうし、不安だろう。ルクスたそはそれを案じているんだ……でも、レダちゃんは、力強く首を横に振った。
「ううん、大丈夫!」
「ええっ」
「アクルクスお姉ちゃんは心配いらないよ。お互い、がんばろうね!」
困惑するルクスたそに手を差し出した。ルクスたそに握手を求めているのだ。守られるだけじゃなく、お互いに励まし合う存在として。
そこにイオ君も声をかける。
「おれもがんばるからさ。気にせずに、アクルクスはポラリスと一緒に行ってきなよ!」
これから、子供たちはイオ君を中心に、孤児たちで力を合わせて修道院で暮らしていく。他のシスターたちがしっかり面倒を見てくれる予定だ。
あーしたちは、孤児を支援するボランティアの旅に出ることになった……的な話をふわっとしている。まあ、間違いではないよね。
その二人の様子を見て、ルクスたその顔は明るくなった。
「はいっ! お二人とも、ありがとうございますっ!」
レダちゃん、イオくんと順番に熱い握手をする。それを見ていたら、あーしもなんか混ざりたくなった。
「あーしも、あーしも! 二人と握手するっ」
「ちょっと、待ってくださいっ。割り込まないでくださいっ」
「え~混ぜてよ~。寂しいよ~」
「落ち着いてくださいっ」
わちゃわちゃしつつ、あーしもちゃんと握手をして、レダちゃんは路面電車に乗り込んだ。
これから街から出て、長い旅が始まるのだ。あーしたちは大きく大きく手を振った。
「また会おうねー!」
みんな笑顔で、希望に満ちた旅立ちだった。見えなくなるまで、手を降り続けた。
子供たちは路面電車を追いかけていく。危ない……と思ったけど、もう彼らは大丈夫だろう。
あとは、こっちのやることをやろう。
「……じゃあ、あーしらも行こっか!」
「はいっ!」
ルクスたそとあーしは、街の外れを目指した。
街の駅で、あーしとルクスたそは立っていた。
駅のホームには、大きな電車が来ている。
これに乗ると、ムジカ共和国を出ることになるのだ。
あーしは改めて隣の相方に聞いた。
「ルクスたそ、本当に良かったの? ついてきちゃって」
「はい。わたくしの決めたことですから」
彼女は上品に胸に手を当てている。
「……二人で、残りの七災星を倒しに行くって」
そう、あーしたちにとっても旅立ちの日なのだ。
アルファを倒したあと、リゲル君と今後の身の振り方を話した。
まず、約束通り七災星を倒したから、あーしらのコンビは続行。組織での訓練はなし。小悪魔で戦っておっけー、自由行動でおっけーということになった。
だから、残りの七災星を倒すために外国を回る旅に出ることにしたのだ。
あーしは当初の目的通り、アルファを倒してどぅーちゃむの体を取り戻すことができた。でも、本当の意味で小悪魔への偏見をなくすと言う彼女の夢はまだまだ叶っていない。七災星を倒し、人々の記憶を戻すまで、サイキョーでカワイイエクソシストだとは言えないのだ。
まだまだ世界中に七災星は眠っている。シリウス君のように、悪事のために起こそうとしているやつもいるはずだ。激しい戦いは続くだろう。
「ムジカのことは心配いりません。イオさんたちは協力して暮らしていけますし、リゲルさんも言っていました」
ルクスたそは気合を入れて言う。
「『貴様らなど不要の存在だ。目障りだからとっとと出ていけ!』……と」
「やっぱり似てるー!」
本家の記憶がだんだん薄くなってきたくらいだけど、それはともかく。
エクソシスト組織のムジカ共和国支部は変わりつつある。
部隊長がリゲル君になって、色々と改革が始まったのだ。リゲル君は、厳しすぎる勧誘や訓練方法の見直しとか、犠牲を出さないための隊編成とか……無理を減らすために色々考えている。シリウス君は七災星の力を得ることで、エクソシストと悪魔との戦いを終わらせようとした。その目的は引き継ぎつつ、足元を整えるところから思いを成し遂げようとしているのだ。
リゲル君も、前までは戦いに犠牲や苦しみがあるのは当然だと言っていた。でも、シリウス君を失い、アルファとの戦いを経て……彼の中でも、何かが変わろうとしているのかもしれない。
あーしらの影響……なわけはないか!
「でもさ。無理しないでいいからね。危険な旅になるんだから」
「もう、何言ってるんですか」
たそは頬を膨らませる。
「どぅーちゃむお姉さまの夢は、わたくしの夢でもあります。それをポラリスさんと一緒に追うのは、当たり前のことですよ。それに」
「それに?」
「言ったじゃないですか。命預けさせてって、全部賭けさせてって……」
「はうあああっ」
弱いところをつかれて、グサリと来た。
「まだまだ、預かってるんですからね。ポラリスさんの命。ついていく理由には、事欠きません」
ルクスたそはふふんと鼻を鳴らす。なんか偉そうでムカつく。
「ま、まあ! そんなに言うならついてきてもいいよ。ルクスたそは放っておいたらすぐ死に急ぐから! 目を離すと危ないしね!」
「ううっ……」
やり返すと、ちょっとひるんだ。
「それに……」
「それに?」
電車のドアが閉じる前。答えようとした、そのときだった。
はるか向こうに、光が見えた。体がうずく。
--悪魔が、現れたのだ。
あーしは、ルクスたそと目を見合わせた。
電車がもう出るけど、それは後だ!
「……なんでもないっ。行こう!」
「はいっ」
ルクスたそは、すぐさま紙を渡してきた。
かわいらしい小悪魔系ファッションを着た少女たちのイラストが描いてある。
それを見ると、体が光った。
頭には角。おしりには尻尾。あーしは元気なスカートとキャミソール。ルクスたそはちょっとセクシーなドレス。黒くてフリフリな服であーしらは包まれた。
あーしはルクスたそを見る。たそも、あーしを見てくる。
「ルクスたそ」
「『ポラちゃむ』」
そして、ふふっと笑いあった。
「サイキョーで……」
「カワイイですねっ!」
旅に出る理由は、もう一つあった。
--戦ってる時だけは……ルクスたそが、『ポラちゃむ』って言ってくれるからだ!
ムジカ共和国では、悪魔の姿はめちゃくちゃ嫌われている。
あーしが大好きな小悪魔の恰好を、かわいいと思ってくれる人は……この国には、いなかった。
ルクスたそに……世界で唯一、好きなものを一緒に楽しめるズッ友に出会うまでは。
サイキョーで、カワイイ、そんなエクソシストに、二人で一緒になりたい!
それが、今のあーしの夢だ!
(おわり)
エクソシストは小悪魔系〜カワイイを極めた最強ギャル、助けた聖女が同じ趣味だったので、ズッ友コンビを結成して仲良く楽しく悪魔を退治します〜 かっし @kassi2nd
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