第3話 必要としている

 ――近くの川に案内されて、私は一糸纏わぬ姿になった。

 クゥナも同じで、魔物から浴びた返り血と、汚れた服を洗い流すつもりのようだ。

 ――服の汚れに関しては、クゥナの血も混じっているのだろうが。

 さすがに森の中とはいえ、裸のままでいるのは憚られて、周囲を気にしてしまう。


「大丈夫だよ。魔物の気配もないし。血の匂いで寄ってくるやつもいるだろうけど、わたしが守るから」


 私が気にしていることに気付いたのか、クゥナはそんなことを口にした。

 守ってくれる――確かに、彼女の言う通りだろう。

 強大な魔物を前にしても、彼女は臆することなく立ち向かい、打ち倒した。

 不死だという、その身体を使って、だ。


「その、不死っていうのは……?」

「ああ、どういう原理かってこと? 簡単に説明すると、治癒術の応用みたいなものかな?」

「……治癒術の?」

「そう。魔術の実験? みたいな感じかな。わたしは他人に対して治癒術を施せないけれど、自分に対しては常時治癒術を発動してるってわけ。だから、死ねない身体になったの」

「……!? なんで、そんなこと」

「んー、何でって言われても……。まあ、そういうのが必要だったらしいよ。でも、実験は失敗した――不死になるのは副作用みたいなものかな」


 クゥナはまるで他人事のように言うが、どう考えても普通のことではない。

 

「どうして私の護衛の騎士に……?」

「依頼が来たから。元々、わたしは騎士じゃなかったんだけどね――」


 ――曰く、クゥナはそもそも違う国の人間であったらしい。

 他国における魔術研究の一環で、彼女が得たのは不死性。

 ただし、それは治癒術の強化という名目があったために、実験結果としては『失敗』という扱いで廃棄されたとのこと。

 廃棄というのはすなわち、殺すことであるのだが――クゥナはその不死性によって死ななかった。


「どちらかと言えば、死ねなかったっていうのが正しいのかな。まあ、わたしはこの仕事を受けたかったから」

「え?」

「だって、わたしは人を治せないけど、あなたは倒せるでしょ? それはすごいことだから。そんなあなたの盾になれる――わたしの存在にも、価値ができたってことだね」

「――」


 私はまた、彼女の言葉に答えることができなかった。

 不死にされたという彼女は、治癒術師である私を守るために派遣された。

 その身体が不死で、勝手に治るから――私が治癒術を使わなくてもいいように。

 確かに合理的ではあるのだろう。

 私の治癒術は、必要とされる人のために使われる。

 けれど私は――これから、私を守ってくれる人を、治すことができないのだ。

 さっきだって、彼女は私が治す前に傷が癒えてしまっていた。

 そんなことは初めてで、正直に言えば戸惑っている。


「大丈夫だよ」


 ――クゥナは私の手を握ると、そう優しく声を掛けてくれた。


「あなたは治癒術師として人を救う。わたしはそんなあなたを守る。これって最高のパートナーになれると思わない?」


 本当にそうなのだろうか――けれど、彼女は私のことを必要としているように見えた。

 ――私の治癒術は彼女に必要ないけれど、その身体を使って、私を守ることを使命としているような、そんな感じ。

 絶対に間違っているはずなのに、治癒術しかない私にとっては――それが通用しない彼女が私を必要としてくれるのなら、


「……そうかもしれない、ですね」


 頷くことしかできなかった。

 それを見て、クゥナも嬉しそうに笑みを浮かべる。


「これから、私があなたのことを守るから。安心していいよ」


 ――私を抱き寄せるようにして、クゥナは言う。

 不死の彼女に、私の治癒術は必要ない。

 けれど、彼女は私を守ることを必要としている。

 それが――私達の関係の始まりだった。

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護衛騎士と治癒術師 ~『不死』の彼女に私の治癒術は必要ないらしい~ 笹塔五郎 @sasacibe

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