さようならに中指を

青井優空

第1話

『この隕石が地球に落ちてくる一か月後、地球は確実に終わりを迎えるでしょう。』

 ネットを見てもテレビを見ても、学校に行ってもバイトに行っても、いつでもどこでもその話題で持ちきりだ。

 どうなるんだろう、死んじゃうんだよね、怖いよ、なにしようかな、好きなようにしたいよな。

 繰り返すのは同じような言葉だけ。二週間も経った今、うんざりしている。

 死ぬ前にしたいことをするのは全人類共通なようで、教室の席には空きが目立つ。こんなことになってもちゃんと仕事をこなす先生は偉いな、なんて上から目線で先生を心の中で褒めてみても、なにも変わらない。

 つまらない世の中がついに終わる。髪型も服装も同じようなものにして、話題は流行最先端、その流行だって一瞬で変わる。だから、流行を追うために一生懸命になる。誰にも飽きられないように、わたしは価値ある人間だと胸と同時に見栄を張る。

 くだらない、くだらない、くだらない。

 繰り返したって、なにも変わらない。ずっと親友だから、なんて言った彼女はこの世界が終わると知って、家族と一緒に旅に出た。付き合おう、と告白してきて、やることも一通り済ませた彼氏は、もうずっと連絡が取れていない。

 くだらないと笑った世界はこんなにも脆かった。こんなものに縋りついていた自分が本当に馬鹿馬鹿しく思える。

 授業中の先生から漏れるため息が日に日に増えていく。空席が多くなって、わたしがつるんでいた子はみんな来なくなった。きっと最後だからとやりたい放題しているであろう彼女たちは、こんな状況になっても学校に行っているわたしを笑うだろうか。そんな時間もない、と遊び惚けているだろうか。

 ああ、くだらない。

 こんなことになっても、両親は仕事から帰ってこないし、バイト先の先輩はウザい。うるさい後輩はとっくに辞めた。そういうことが増えているから、きっと先輩はいつもよりももっとイライラしてわたしに当たるのだろう。困ったものだと思う。なら、辞めてしまおう、という思考に至らないのがわたしだ。

 なにかしていないと不安な性分はずっと変わらない。ため息を吐くと、それは意外と大きくて教室の中に響く。先生はちらりとわたしを見るけれど、なにも言わない。なにか言う気力すら失っているように見えた。

 くだらないですよね、と今なら折り合いが悪かった先生とも意気投合できるかもしれない。

 くだらない、とわたしが世界に舌打ちしている間にも、隕石は近付いて地球を殺そうとしている。そんな隕石の方がわたしよりも有意義なことをしている気がする。

 あと二週間で全てが消え去る。クラスメイトも先生もバイト先の先輩も彼氏も、両親も、わたしも。もうすぐでさようならで、そして、そのさようならはもう始まっている。

 できることなら、最後までくだらない世界だったって心の中で中指を立てておきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さようならに中指を 青井優空 @___aoisora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ