翻訳の魔法

 前回、マンドラゴラのお茶を飲んだわけだが、その日の夜、俺は眠れなかった。


 どうもマンドラゴラ茶には大量のカフェインが含まれていたらしい。完全に失敗した。


 味は良かっただけにそこが残念だ。だが、もう夜中には絶対飲まん。俺は固く誓った。


 あるいは、「デカフェ・マンドラゴラ茶」とかが発売されてくれないだろうか。ノンカフェインのやつ。そうしたら喜んでいつでも飲めるんだが……。あまり期待はできなさそうだ。



 ◆◆◆



 眠れなくなったのはさておき、俺はシルミッピから茶をふるまってもらった。何か礼をせねばなるまい、と思って、俺はスーパーでプリンを買ってきた。森永の焼きプリン。どこのスーパーにも置いてある、紙で封がしてあるアレだ。


 シルミッピに渡すと、「ほうこれは面白い」と興味津々のようだった。


 スプーンを渡して食べてもらった。一口食べると、シルミッピが「ウォォーン」と嬉しそうな声を上げた。耳がピッコォンと立っている。よほど美味しいらしい。


「うまい、うまいなあコレ」

「そうだろ。好きなんだ、これ」

「また持ってきてくれないか。気に入った」


 こういう食べ物はないのかと尋ねてみたが、「ない」とのことだった。シルミッピの国にある甘味は、焼き菓子がメインらしい。


「焼き菓子って……どういうものがあるんだ?」

「そりゃもう色々あるとも! 例えば、クイノタウルスの乳をチーズにして、砂糖を混ぜて焼く「アルタ・レスタ・コスタ」とか。あとはペリトンの卵とメルメル粉からつくる「ピエスォッ」とか」

「ぜんぜんピンと来ねーぞ!」


 あまりに分からなさ過ぎて、俺は笑ってしまう。でも考えてみれば、異世界の言葉がピンとくるほうがおかしいのかもしれない。


 そして俺はハタと気づいた。どうして俺とシルミッピは会話できているのだろう?


 尋ねてみると、シルミッピは小さく笑って答えた。


「翻訳魔法さ。これだよ」


 シルミッピは袖をまくる。手首に、豆粒ほどの小さな模様が見える。黄緑に淡く光るそれは、すぐに消えて見えなくなった。


「体に書き込むタイプの魔術でね。あらゆる言葉を自動的に翻訳する、言語補助魔法だよ。力を入れると浮かび上がるが、すぐに消える。これのおかげで君とも話ができる」

「そんなスゲー術があるのか……?!」

「うちの国は300以上の言語があってね。方言も入れると数えきれないくらいだ。だから古くからこうして魔術で言葉を補っているんだ」


 翻訳アプリ以上だ。すごすぎる。


 すげえな、と言うとシルミッピは歯を見せてニヤリと笑った。「すげえだろう」


「でもね、この術は体に書き込むのに結構金がかかるんだ。給料2か月分はとられる。高いんだよね~」

「そんなに高いのかよ?!」

「そりゃ、あらゆる言語を「インストール」するわけだから高いさ。だから、翻訳魔法なんてのを埋め込むのは、私みたいな研究者くらいなもんだよ。研究をするには色んな本を読まないといけないだろ」

「なるほど……」


 そう考えると、翻訳アプリは偉大だと思った。スマホがあればできる。


 俺が学生の頃は、翻訳アプリというとエキサイト翻訳やグーグル翻訳だった。今や、翻訳の精度はそれ以上だ。


 いずれ俺たちの世界も翻訳魔法に追いつくのかもしれない。

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嘘日記 工藤 凛太朗 @ABCsk

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