第191話 目を逸らしましたよね
『おかえりなさいませ、上杉様』
「うん、ただいま」
グールたちから離れたあとも不意のエンカウントがないよう細心の注意を払って、俺とクミンは端末くんのところまで戻ってきた。
五階層の洗礼を受けた……というにはまだ早いが、他のダンジョンでもこれと同じような難易度だとすれば、詰まっているのもうなずけるというものだ。
「クミン、何か気づいたことはあったか?」
『その前に、気になることがあるんですけど』
「うん?」
一度クミンから見たグールの所感を訪ねようと思ったところ、クミンに逆に尋ねられる。
目線で続きを促すと、クミンは言った。
『上杉さんは、あのモンスターに覚えがありそうでしたが、戦ったことがあるんですか?』
「……あー、そういえばそんな話はしてなかったか……?」
頭の中で検索してみたが、確かに俺がグールと戦ったときのことをクミンにしっかり説明してはいなかったなと思う。
クミンの所感を訪ねる前に、まずはそこから説明しておくべきだ。
「じゃあ、一度整理しておこうか。何かの雑談で、クミンと出会う前に死にかけたって話があったと思うんだけど──」
そして俺は、二階層でグールと遭遇し死にかけた話をクミンに説明するのだった。
それはまだ、ゾンビウイルスが蔓延する前のダンジョンであったこと。
その当時は、同一階層に留まりすぎたか、あるいは同一階層でモンスターを狩りすぎたかをトリガーにして、おしおきボスが出てくる仕様があったこと。
二階層でそのトリガーをうっかり引いてしまい、出てきたモンスターが五階層に現れるグールであったこと。
そして俺はそのとき、グールに殺されかけながらなんとか助かったこと。
そんな話をクミンにする。その時の考察、相手の行動パターン、原典的な弱点や能力についても合わせて伝えた。
『要約すると、相手の攻撃は主に噛みつきと鋭い爪によるもの。麻痺の状態異常を引き起こす可能性がある。その他のステータスは見た通り。そして』
「弱点が鉄であることは、まず間違いないと思う」
他の武器と比較して確かめたわけではないが、グールのステータスは文字通り五階層クラスだ。
そんな明らかな格上モンスターを、二階層時点の俺が普通にやって倒せるわけがない。
となると逆説的に、俺が弱点を突いたから格下の俺でもダメージレースで勝てたと考えた方が丸い。
現状、この情報は大きなアドバンテージだ。
なぜなら、俺たちは時間とCPさえあれば土石魔術で鉄を生成できるのだから。
「問題は、あんなにチェインしてくるんじゃ検証のとっかかりが掴めないことかな」
と、ある程度認識を共有できたところで、俺はため息を吐いた。
グールに関して、実際に見たので単体の強さはある程度予想できる。
だが、実際に作戦を立てようと思ったら、より多くの情報が欲しい。
相手の行動範囲や、行動の傾向。
索敵範囲、五感の鋭さ、群れの間での意思疎通方法。
戦闘時の習性や、増援の傾向、量、頻度。
相手の攻撃力と耐久力、特に一撃で屠るのに必要な火力。
そして、鉄の武器で倒したあとに、もう一度鉄の武器で斬りかかると復活するのか。
鉄以外の弱点、また耐性のある属性はなんなのか。
そして、グールはテイム可能なモンスターなのか。
グールが出現することと、奴らに下手に絡むと囲まれて死ぬことがわかったのは収穫だが、それを攻略に生かすにはまだまだ情報が足りない。
特に単体を釣り上げての検証が捗らないことが、一番ネックに思えた。
そもそも、五階層にはグールの他に出現するモンスターは存在するのか。
そんな情報すら、俺たちは持っていない。
今までの階層では、確かに単一のモンスターが出てきた。
だが、だからといって、このフィールド型の階層がそのルールを守るとは決まっていない。
階層の構成がガラリと変わったということは、そういった今までのお約束がガラリと変わる可能性も考えられる。
それに、実際のところ少しずつ、種類を増やす試みは始まっているのだ。
三階層では、種族こそスケルトンだが、ジョブの違いによって多様性が生まれ始めていた。
四階層では、ベースこそゴーレムだが、素材の違いでこれまた多様性を持ったゴーレムに変化していた。
そこにあって、五階層で再びグール単体に戻る、というのは少し違和感がある。
何より、グールは夜が似合うモンスターだ。
昼間に違うモンスターが現れても驚きはしない。
俺たちはまだ五階層にたどり着いたばかりだ。
先行した187組のパーティを退けている五階層のギミックは、まだまだこれからなのではないだろうか。
「というわけで、五階層攻略にはいくつかの段階を設けようと思う」
『段階ですか?』
五階層攻略にかける時間は、最短で1週間だ。
可能なら縮めたいが、これ以上縮めるのは難しそうだと感じている。
むしろ、そこから伸びる可能性の方が多い。食料はちょっと不安になるが。
「まず、明日は準備に充てよう。EP稼ぎは昨日までと同じように、四階層でゴーレム狩りを考えている。ただ、それは俺一人で行く。クミンはここで簡易拠点の作成と鉄の生成をメインで行って欲しい」
『一人で大丈夫ですか?』
「ノウハウは蓄積しているし、ゴーレムバレルなら調整もできるからな。万が一の場合を考えるより、効率的に動こう」
ゴーレム狩りについては、ガチンコ勝負をしなければ一人で安全に行えるのだ。だって戦いにすらならないから。
現状では弾薬の固定もゴーレムに微調整して貰えるし、最悪それができなくても《混沌の魔君》のおかげで、魔術を並列起動するまでのスキルは揃っている。
ゴーレムハントは俺一人でも十分に遂行可能だ。
「それと同時に、可能であれば五階層の偵察とマッピングを同時に行いたいんだ」
『……えっと、それは上杉さんが分裂するという話ですか?』
「それができたら苦労しないんだけど、そうじゃなくて、そろそろそういうスキルが生えてきてもおかしくないと思うんだよね」
と、俺はそれなりに勝算があるつもりで端末くんに訪ねる。
「端末くん。テイマー関連のスキル、表示してくれないかな。特にリンクに関わりそうなやつを」
『かしこまりました』
リンク系スキル。
現在では、俺自身と配下のステータスをリンクさせるステータスリンクと、パッシブスキルを共有するスキルリンクの二つが解放されている。
だが、本来のテイマーであれば、スキルやステータス以外でもリンクできるものが生えてきていてもいい頃だ。
『現在習得可能なスキルはおよそ以下の通りです』
──────
【スキル習得】
所持EP:5288
[パッシブスキル]
好感度上昇(獣):20EP
好感度上昇(闇):800EP
好感度上昇(悪):800EP
好感度上昇(夜):800EP
好感度上昇(魔):800EP
好感度上昇(虫):800EP
好感度上昇(混沌):1600EP
好感度上昇(アンデッド):1600EP
使役強化(力):1600EP
使役強化(魔):3200EP
使役強化(体):800EP
使役強化(速):3200EP
使役強化(運):1600EP
異種族交信:2000EP
群体強化:4000EP
使役潜在能力開花:20000EP
[アクティブスキル]
視覚リンク:500EP
聴覚リンク:500EP
嗅覚リンク:1000EP
感覚拡張:1000EP
グループリンク:1500EP
フィードバック:2000EP
インスタントテイム:5000EP
レベルブースト:5000EP
──────
「…………ヨシッ! アクティブスキルがいい具合に生えているな!」
『上杉さん。パッシブスキルから目を逸らしましたよね』
「…………」
そうだよ、逸らしたよ?
おそらくだけど、この好感度上昇とかいうシリーズは、自分がどれだけテイムモンスターやサモンモンスターを使役してきたかで変わってくるスキルだ。
これを見れば、俺がどういった系統のモンスターと関わり、それを使役してきたのか一目でわかるわけで。
ネクロマンサーだってもう少しおとなしい感じになるだろうよ。
ずっとテイムしてるアリさんより、めちゃくちゃ囮に使いまくってるスケルトンの方が絆が増えてるよこれ。問題だろ。
その下の使役強化は配下のモンスターのステータスを強化するやつ。
絶対に余裕があったら取らないといけないやつだよ。
まぁ、それ取るとただでさえ上位互換なクミンさんが、俺をさらに引き離していくんだけどね。
テイマーのつらいところね、これ。
コストCPの問題もあるしね。
その他のパッシブは、まぁ、気にはなるから後でチェックはしておこう。
とりあえず、今回に限っては簡単な説明だけ。
異種族交信は、全く話が通じないモンスターとテイム交渉を補助するためのスキルらしい。
これがあってもうまく行くとは限らないが、これがないと始まらないみたいな種族がいるらしい。
……ゾンビとかってもしかしてこれ必須か? わからない。
とにかく、テイマーとしてやって行くなら必須な感じがある。
群体強化は、モンスターの数が増えれば増えるほどステータスアップみたいなスキル。同じ種類だとボーナスが入る。
取って損はない系のスキルだが、CPとの兼ね合いかな。
使役潜在能力開花ってのは、雑に言うと『テイムモンスターの特殊能力が一個増えますよ』みたいなやつ。
これ一個取っておけば配下が強力なスキルを覚えるので、テイマーとしてはありがたいだろうな。
その分CPも重いけど、普通のテイマーはテイムモンスター全ツッパだから問題ないんだろう。
「というわけで、パッシブは余裕があったら取る。俺が欲しいのは今回はアクティブな方だ」
パッシブは軽く目を通しただけに留めて、俺は求めていたスキルに目をやる。
今回、俺が欲しいのは偵察にやったモンスターから、より情報を集めるためのスキルだ。
前に言っていた、鳥のモンスターの視覚を共有したり、聴覚を共有したりといったやり方で、未知の場所の情報をより正確に集めたいと思ったのだ。
「さてさて、スキルの確認を行っていこうじゃないか」
目星自体はついている(目星先生は関係ない)のだが、ここは未知のスキルの可能性も感じながら、一つずつスキルを確認していくことにしよう。
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