第192話 一番早いと思います


 アクティブスキルを確認するにも、まずは基本っぽい五感情報の共有スキルからにした。



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 視覚リンク:500EP


 自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターの視覚情報を共有する。その際、テイマーの持っているスキルによって視覚情報に補正が入る。

 モンスターとの感覚の差異もある程度補正される。

 消費CP:5

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 聴覚リンク:500EP


 自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターの聴覚情報を共有する。その際、テイマーの持っているスキルによって聴覚情報に補正が入る。

 モンスターとの感覚の差異もある程度補正される。

 消費CP:5

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 嗅覚リンク:1000EP


 自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターの嗅覚情報を共有する。その際、テイマーの持っているスキルによって嗅覚情報に補正が入る。

 モンスターとの感覚の差異もある程度補正される。

 その他、一時的にステータスによる補正も発生する。

 消費CP:5

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 とりあえず、習得に必要なEPに差はあるが、性能自体は概ね変わりないようだった。

 あと、さっきまで意識してなかったが、種族の違いによる感じ方の違いもある程度スキルが自動補正してくれるらしい。


 そりゃそうだよな、今の俺にいきなり複眼の視覚を与えられても何もできないからな……。

 並列思考で力技で処理することならできるかもだが、それじゃリンクする旨味がないだろう。


 あと気になるのは、嗅覚リンクだけ値段が二倍で『ステータスによる補正』という一文が追加されていること。

 多分だけどこれは、俺が今まで使役してきたテイムモンスターであるクミンが特に嗅覚に優れた種族だから、なんじゃないだろうか。

 つまり、嗅覚に関しては拾える情報が他の感覚に比べて優れている、みたいな。



 反対に、味覚や触覚に関してのリンクスキルが生えてないのも、そのあたりの影響なのではと思う。

 よく使っているスケルトンとか、触覚はどう考えてもないからな。骨だし。

(それ言ったら視覚もなさそうだけど、補正は入るみたいなこと書いてあるし……)



「よし、基本はいいとして、次は」



 基本らしいリンクスキルの次は、俺が欲しいなと思いそうな『グループリンク』を見た。



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 グループリンク:1500EP


 自身のテイムモンスター、またはサモンモンスター間でリンクした要素をグループで共有する。

 グループの組み合わせ、および共有する要素についての取捨選択はスキル起動者が自由に設定可能。

 また、プリセットの登録も可能(プリセット数は魔の数値によって変動)


 消費CP:20

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「ビンゴ」


 俺が欲しいなと思っていた要素にドンピシャであった。

 これは今まで獲得してきたスキルリンクやステータスリンクも強化できる上に、感覚共有スキルにも応用できる優れものだ。


 まず、このスキルがあれば、暗視を何も考えずに全体に共有することができる。その時点で払ったEPでおつりがくる。


 その他に、以前レギオン戦でステータスリンクをスケルトン軍団に付与した時は、一体一体個別に付与するという力技でどうにかしたが、それがCP20を払えばスマートに解決するようになるのだ。

 これだけで、群体としてのサモンモンスターの扱いがめちゃくちゃ良くなる。


 なにより、毎回毎回一からリンクする情報を選択せずとも、プリセットを作っておけるらしい。

 こんなの、普段使いしてくださいと言わんばかりだ。


 まぁ、サモンモンスターの本懐である戦闘を考えると、一戦ごとの負担はバカにならないわけなので、あまり戦闘でばかすか使うことはできないだろうが。

 少なくとも、こと偵察にかけては破格の軽さだろう。



「視覚リンクとグループリンクだけあれば、目的は達成できそうだな……」



 と、言うのもこの二つがあるとどうなるのか。


 本来視覚リンクを行うと、俺と使役したモンスター一体の視覚情報が共有されるようになる。これは一対一の共有だ。

 そこにグループリンクを使うと、視覚リンクのやりとりをグループ化して、俺と使役したモンスターたちの視覚情報全てを、俺一人が受け取るみたいな設定をすることができる。

 かつ、ここにクミンを噛ませれば、俺と一緒にクミンにもその処理を任せられるようになる。


 普通に考えたら頭がパーンってなるわけだが、現在の俺には並列思考スキルがある。

 多分、思考の一つに監視カメラの確認役みたいな仕事をさせることができるわけだ。

 ……どんどん自分が人間離れしていく気がするが、システムの補助ありきの話なので深く考えないようにしている。



「まぁ、実際にどれくらいの情報を処理できるか、とかは検証しないとなんとも言えないわけだが」



 ただ、俺の考えは現状、机上の空論に過ぎない。

 視覚共有がどんなものなのか、スケルトンから共有された視覚はどんな感じなのか、その共有状況で本当に『敵』の情報収拾ができるのか、など。

 考えたことが実際に成功するかは現時点では分からない。



『視覚情報を確認することがそれほど大事ですか?』


「それはね。やっぱり攻撃方法とか、姿とか、実際に確認できるのは大きいはずだからね」



 クミンの疑問には、通り一遍のことしか言えない。

 俺はそう思ってはいるのだが、いかんせんまだ実行していないことに関してはなんとも言えないのだ。

 やり直しがきく範疇のEP消費で試せるのなら、試してみて損はないとは思う。


「とりあえず、現状では取る方向で考えつつ、他のスキルも確認しておこう」


 パッシブスキルに関してはコストCPの問題があるが、アクティブスキルに関してはそれはない。

 EPの使い道の優先順位は難しいところはあるが、有用なアクティブスキルがあればレベルアップよりも優先して取っておきたいのだ。


 ということで、残っていたアクティブスキルに関しても、一通り確認することにした。


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 感覚拡張:1000EP


 一時的に五感を拡張する。

 また、自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターから情報を得ている場合は、その対象の五感も同時に拡張できる。


 消費CP:20

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 フィードバック:2000EP


 自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターが死亡した場合に、それらが得ていた情報をフィードバックすることができる。

 フィードバックできる情報の質および量は、死亡時間と死亡した距離によって変動する。


 消費CP:5

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 インスタントテイム:5000EP


 システムに登録されていない生き物、またはシステムのテイム対象に認定されていない生き物を、一時的にテイムすることができる。

 ただし、テイムした対象を十全に使役できる保証はない。


 消費CP:1

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 レベルブースト:5000EP


 自身、または自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターのレベルを一時的に上昇させることができる。

 上昇幅はスキル熟練度により変動する(現在はプラス5まで)


 消費CP:(上昇レベル*20)

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「テイマー系のスキルって魅力的なのばっかだなおい」



 今までテイマー系統のスキルをしっかり確認できてなかったことを今更に悔いる。

 いやもちろん、値段との兼ね合いもあるし今くらい成長して初めて選択肢に入ってくるようなスキルばかりであるとは思うんだけど。

 それにしたって、俺が欲しがっていたスキルの役割を代わりに果たせそうなものまである。


 とりあえず感覚拡張は素直な強化スキルかな。

 使い道は多そうだし、普段から使っておいて慣れておきたい感じのスキル。

 EPの余裕をみて取るリスト、に入れておこう。


 次に、レベルブーストがどうあがいても有用なのは言うに及ばない。

 ボス戦や強敵戦でレベルの上乗せが出来るとか、超アドである。

 レベルブーストにおんぶに抱っこでクソダンジョンを攻略した俺が言うんだから間違いない。

 流石に上昇幅はそれより控えめで消費CPは無視できない範囲ではあるが。


 その他で、一番気になるのはフィードバックだ。

 これはひょっとして、真面目に視覚リンクとかで監視してなくても、死んだと判明したときにフィードバックさせれば、俺が欲しい情報が全部手に入る感じなんじゃないだろうか?


 もちろん一長一短はあるんだろう。

 情報の量や質がどう違うのかは試してみないと分からないし、監視していれば敵に襲われた際にこちらから遠隔で指示が出せて、より有用な情報につながるかもしれない。

 だが、フィードバックで十分な量の情報が手に入るなら、いちいち監視していなくても済むというのはあまりにも魅力的だ。


 悩むなら安い方、という考え方もあるが、かかるEPは同じ。

 消費CPは最終的にはグループでリンクした方が安上がりにはなりそうだが、手間の分がどうなるかは分からない。

 久しぶりに悩む選択肢が出てきた。


 最後のインスタントテイムは、思ったのと少し違ったな。

 戦闘中に限り強制的にテイムできるとかかと思ったら、むしろ最も戦闘から遠いスキルだった。

 つまりはその辺の鳥とか虫とかの、テイマーがカバーしていない生き物をテイムできるスキルなんだろう。


 さっきの感覚リンク系と極めて相性が良さそうなのだが一つ問題がある。

 それはこの階層が、基本的に虫も鳥も全然見ない死んだフィールドであることだ。

 今思って見ても、虫の羽音だの鳥の鳴き声だのが全く聞こえない。

 ダンジョンの外だと相当猛威を振るいそうなのだが、いまは保留で。



「というわけで悩みどころは、感覚リンクかフィードバックかって感じだ」


『ふむふむ』



 とりあえず、直近の目的を考えると目下のところはその二つが競合している。

 スケルトンスカウトが死ぬことなくずっと動き続けるのなら、前者でいいんだろうが、現時点でフィールドに放った五体のスケルトンは全滅している。

 こうなると、生きてずっと探索し続けてくれるというのは望み薄であるし、物量作戦するにしてもどっちかを選ぶ必要はある。


 だから迷うところだ。



『迷ったら両方とったらいいんじゃないですか。それで比べてみたら?』


「そうすると、俺が残ってるEPを総取りすることになるし」


『そういえば、EP分配の話は保留にしてましたね。まずそこを話し合いましょうか』



 クミンに言われて思い出す。

 そういえば、アイアンゴーレム戦のあたりでちらっとそんな話をした気がしていた。

 心情的には、このまま二等分がいいのだが、効率を考えると答えは分からない。


 クミンの方で攻略に超有用なスキルが出ていたらそちらを優先すべきだし、そうじゃないなら俺の方にEPを集中させるのも手だろうか。


 そんな感じで思っていたところで、クミンははっきり言った。





『まず上杉さんのレベル25を最優先で考えましょう。それが多分、一番早いと思います』



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