第29話

気がつくと、光に満ちた空間に俺はいた。

体を動かそうとしても、まるで金縛りにあったかのように身動きが取れない。

だが、首から上だけは自由に動かせるようで、周囲を見回すと、ふわふわと浮かぶ無数の光の玉が空間を漂っていた。


「ここは……どこだ?」

ぽつりと呟く。


ふと、遠くに人影が見えた。しかも、徐々にこちらへと近づいてくる。

何かを伝えようとしているようだが、声はまったく聞こえない。

(何か話してる……でも、聞こえない)


口の動きを読み取ろうと目を凝らす。

「あ……と……もう、少し……?」

唇の動きからそう推測してみるが、意味はわからない。


しばらくその動きを見つめていると、次第に意識が薄れていくのを感じた。


「い……てら……しゃい?」


(なんだよそれ……いったい、お前は誰なんだ!?)


そこで、俺の意識は途切れた。


気がつくと、見知らぬ天井が視界に飛び込んできた。

不思議な夢を見たような気がするが、内容はぼんやりとしか思い出せない。


(……まぁ、夢はどうでもいい。それより、ここはどこだ?)


周囲を見渡すと、清潔なベッド、赤い花が飾られた花瓶、整然と並んだ家具。

どうやら、病院のようだ。


(……なんで、俺は病院に?)

記憶があいまいで、何が起きたのか思い出せない。


(何か、とても大切なことをしていた気がするんだが……)


そんなことを考えていると、

ガラガラッと扉が開く音がした。


扉の前に立っていたのは――ゼクトとアリシアだった。

俺の顔を見るなり、二人は血相を変える。


アリシアは勢いよく駆け寄り、そのまま俺に抱きついてきた。


(うおっ!?い、痛い!)

そのまま頭を彼女の胸に押しつけられ、窒息しかける。


(息が、できねぇえええ……!)


慌ててアリシアの背を叩いて、必死に助けを求める。

ようやく俺の異変に気づいたのか、アリシアは顔を真っ赤にして飛びのいた。


少し呼吸を整えてから、俺は彼女たちに今の状況を尋ねようと口を開いた。


「ッッ……(なんで、俺は)」


(あれ?)


「ッ……ッッ(なんで、声が……出ない!?)」


声を出そうとしても、まったく喉から音が出ない。何度試しても、声にならない空気だけが漏れていく。


アリシアが青ざめた表情で呟いた。

「コア様……もしかして、声が……」


俺はゆっくりと頷いた。肯定の意を示すために。


「そう……だったのですね。あの時、盗賊団の頭領が……コア様に、声が出なくなる呪いを……」


アリシアの顔が曇る。部屋の空気が一気に重くなった。


(盗賊団の頭領……?)


その言葉を聞いた瞬間、記憶の扉が一気に開いた。


(そうだ。アリシアを守るために……俺があの攻撃を受けたんだ)


あの時は、本当に反射的に体が動いた。

自分の運動神経を考えたら、よく間に合ったものだと、今更ながらに思う。


(……待てよ)


(俺が声を失ったってことは――)

(リリアナが呪いを受ける運命を変えられたってことじゃないか?)


(物語の展開を……俺が変えた!?)


原作の流れを自分の行動で変えられた――その事実に、俺は歓喜すると同時に、ある疑問が頭をよぎった。


(今までいくつかの場面では原作の通りになってしまったのに、なぜ今回は改変できたんだ?)

(もし、原作を変える“条件”が分かれば――俺の領地の破滅も、この国の被害も、止められるかもしれない!)


俺は、未来を変える鍵を探るべく思考を巡らせていた。


そのとき、不意にゼクトが口を開いた。


「コア、声を出せなくなる呪いを解く方法、聞いたことがあるんだ。」


「ゼクト様!それは本当ですか?」


「本当だ。昔、歴史書を読み漁ってた時に見つけたんだ。」


(そういえばこいつ、歴史オタクだったな……)


「で、その方法っていうのは?」


(たしか、原作でもリリアナがその方法で解呪されていたはず……)


「昔の勇者も同じ呪いをかけられた時、風の精霊に治してもらったらしい。」


風の精霊――今は王国領の西、エルフたちの住む森深くで祀られている存在だ。

原作では、リリアナが精霊の加護を受ける代わりに、いくつものお使いをこなしていた。


(ただし、今回は俺が対象……条件が厳しくなる可能性もあるな)


「精霊様のもとへ行きましょう、コア様!」


「僕も同行するよ、コア。」


少しの不安を感じつつも、自分のために動こうとしてくれる二人の言葉が胸に沁みた。

俺は感謝の気持ちを込めて、しっかりと頷いた。

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