何もない街

その街には、何もない。

ただ生きて、生きて、生きて、死んでいくためだけに生きて

そのことを、薄ら笑いを浮かべ、バカにしている、髭面の神の像が

……これ以上言うのはやめようか。やっぱり。


その街には、何もない。が、

わたしの住む、この街にも、何にもないのだ。

ただ生きて、生きて、生きて、必死で生きて、死んでいく、

わたしの耳を引っ張る、天使と仔猫。

「お前の人生は無駄だったのだ」「にゃあ」

「お前は天国には行けない、永遠に地獄で苦しむのだ」「にゃあ」

「それでも、地獄には行けてよかったね、そこで長生きできるよ、永遠に」

「にゃあ」

「にゃあにゃあうるさいな、このチビ猫め、えいっ!」「ふぎゃー!!」


あいつはいつもにやにやしている。

わたしはあなたたちのために死んだのだと、

べつにそんなこと、たのんでないし。

遠く海のむこうから来たやつらはいつもそうだ。

頼んでもないのに有難迷惑量産機さ。


あいつはいつもにやにやしている。

すっぽんぽんで、さも苦しそうな顔をしながら、

じぶんは神様だもんねと、腹の底で笑ってる。

とんでもないやつだ。ほんとうに、とんでもないやつだ。


この街には、何もない。

鏡に映った、つかれきった自分の顔を見る。

どこか笑っているようにも見える、若干困ったように。

笑うしかないじゃないか、どうせ、永遠なのは、あいつだけなのだから。ふんっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

溶ける脳  ー 詩集 ー トンジちゃん @butaouzi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ