The Winding Road~追放された僕らのサイコウ物語~

一ノ瀬悠貴

プロローグ

 長らく死闘によって大半の壁を喪った聖堂の天守に、眩い夕焼けの陽が挿し込む。

 今もなお砂煙がひどく立ち込める中、数多のひび割れと隆起を繰り返す石畳の通路の上を、漆黒のローブを纏った男が歩いていく。

 杖を唯一の支えにしながら、とぼとぼと鈍重な足取りで、息も絶え絶えときた。

 状況を何も知らない者がこの無様極まりないを見たら、果たしてどんな反応を見せるのだろう。


「ハッ、ハハハ……老いぼれでも、もう少しまともに歩けるだろうに」


 凄絶なる戦いの果てに破壊され尽くした魔王の根城は、もはや建物の体裁を成しておらず、瓦礫の山と形容する他ない様相を呈していた。


「なんて綺麗で……虚しいんだろ、っ!?」


 意識が一瞬白んで、深手を負っていた男の身体が、いよいよ崩折れる。

 両膝を地面に付き、そのままうつ伏せに倒れる寸前に意識を取り戻した男は、残った力を振り絞ってどうにか仰向けに寝転がる事が叶った。


 男がローブの内側へと手をまさぐり、かざしてみる。べったりとこびり付いた黒ずみかけた赤を見て、改めて命の体温が失われつつあることを自覚させられる。

 痛覚はとうの昔に喪っていた。


「ままならないね……最高の終わりに、したかったのに」


 それでも。最高とはいかなくとも、最善の終わりには至れた。

 己らの無事と引き換えに。魔王による支配もこれでおしまい。


「この犠牲で、平穏が訪れるのなら……安い買い物だよ」


 男の眼前に映し出されていた茜空が、暗くぼやけ始める。

 瞼も刻々と重くなって、意識も沈下の一途を辿るばかり。


 男は悟った。もはや別れ目まで待ったなし、と。

 ゆえに、忘れないうちに最期の一語を唱えなくては、と。


『――執行エクセキュート



 未練や後悔? もちろん一杯ある。

 でも、全部捨て置くことにするよ。

 数百年続いた悲劇に終止符が打てるのならば。

 こんな名もなき魔術師の命一つで、新時代の始まりが告げられるのならば。



 だから。残されたみんな、あとは頼んだ。

 遺言通りに、この身体を手順通りに――











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