ミッチェル!

みつきみみづく

ミイラ取りがミイラになる

 平坂冬樹は焦っていた。 所持金が十九円しかない。


 解雇された鬱憤うっぷんを晴らそうと高額を費やしたパチンコに負け、その損失を取り戻そうと全財産を突っ込んだ競馬にも負けた。手渡された最後の給与もただの紙切れと化した。

 もちろん口座残高はゼロで入金の予定もない。


 数時間前まで所属していた介護ビジネスの会社は、冬樹に利用者暴行と売上金窃盗の疑いをかけた。冗談じゃない。お年寄りを殴って何が楽しい。

 しかし、そんなことはしていないと何度説明しても信じてもらえず、嫌気がさして辞めてやった。首ではない、こちらから辞めてやったのだ。


 あんな生産性のない仕事、辞めてせいせいしたが、会社の寮も追い出されたので、帰る家がない。

 唯一の肉親である母親とは、数年前、冬樹が詐欺罪で起訴されてから絶縁状態だし、友だちも恋人も、やはりそれ以来連絡がつかなくなった。

 着古したジャンパーに寒風が吹き抜ける。懐も寒ければ気温も低い。


 この世は無情。頼れる人は誰もいない。


 ビルの隙間にたたずんで寒さをしのいでいると、


「今夜の惑星直列、マンションの屋上から見えるかな」

「わくせい……? なにそれ」

「太陽に向かって惑星がほぼ一直線に並ぶ現象のこと」

「へえ。それってすごいの?」

「たくさん並ぶのは六千年に四回だって」

「えー、なんかすごい。じゃ、見てみなきゃね。ビールのおつまみ買っていこうよ」


 どこかの若いカップルが寄り添って歩きながらコンビニエンスストアに入っていった。大学生だろうか。年は冬樹より少し下に見える。

 末永く爆発しろ、と唱えながらその後ろ姿を見送り、ふと閃いた。

 

 惑星直列という珍しい天体現象について、聞き覚えがある。

 二十年ほど前、金持ちの老婦人と一緒に夜空を見上げていた時教えてもらった。


 冬樹の荒んだ幼少期に天体観測などという高尚なものが入る隙はなかったが、その頃住んでいた街には、元貴族だか華族だかの別邸といわれる立派な洋館が建っていた。育児放棄の母親が連れてくる交際相手に虐待を受けていた冬樹は、家に帰るのが嫌で、故意にその洋館に迷い込んだことがある。


「いらっしゃい、小さなお友だち」


 さすが金持ちは言動に余裕がある。

 庭を手入れしていた六十代くらいの上品な老婦人は、勝手に敷地内に入り込んだ未就学児を咎めることなく、


「お腹空いていない? 良かったらクッキーがあるのよ」


 お茶とお菓子をふるまってくれた。

 その時、生まれて初めて紅茶というものを飲み、カルチャーショックに慄いた。世の中には、こんな絵本のキャラクターうさぎのような世界もあるのか、と。


 老婦人は「ミッチェル」と名乗った。日本人に見えるけど海外の人なのかな、と思いきや、本名は「なんとかミチコ」という筋金入りの日本人らしい。


「ねえ今度は星空を見にいらっしゃいよ」


 恐らくミッチェルは冬樹の境遇を見て取ったのだろう。

 定期的に天体観測に誘い、屋敷の広大な庭で天体望遠鏡を覗かせてくれた。その時はいつも手作りのクッキーと紅茶が添えられている。


「大丈夫。宇宙は広いわ」


 それがミッチェルの口癖だった。


 母親の仕事か交際相手の都合か、冬樹に確かなことは知らされなかったが、その街から唐突に引っ越すことになった。ミッチェルにはお別れも言えず、それ以来会ってもいない。


 小学校に入ってからはいじめや万引きで忙しく、中学生になってからは傷害や窃盗の容疑で児童相談所や少年鑑別所に出入りしていたからだ。成人してからは闇バイトの受け子になり、ついに逮捕起訴されて刑務所に入ることになってしまった。


 去年ようやく出所して、役所が探してくれた介護ビジネスの会社に就職したのだが、半年足らずでこのありさまである。つくづくついていない。


 ……いや。

 今宵の惑星直列は神様が冬樹にくれた最大のプレゼントではないか。


 冬樹は駅前に放置されている違法駐輪自転車を拝借して、記憶を頼りにミッチェルの洋館を目指した。

 人のいいミッチェルは苦境に陥った冬樹に金を貸してくれるに違いない。忘れられていたとしても、彼女は困っている人を冷たくあしらったりしない。


 夜半より少し前に記憶にある小高い丘を登ってミッチェルの洋館に到着した。二十年ぶりに訪れたが、相変わらず何かの記念館のような瀟洒しょうしゃな造りで、厳重な防犯対策がとられていた。


 大丈夫。俺たちは親友だ。ミッチェルが冬樹を追い返すはずはない。


 逆に堂々と門柱に添えられた訪問チャイムを鳴らすと、ウィーンという機械音と共にハイテク機器が出てきて、指紋やら眼球やらで生体認証されたのち、意外とあっさり門が開いた。


「ヨウコソ、イラッシャイ。ボク、ユッキークン」


 しばらく見ないうちに屋敷はハイテク仕様になっている。子どもの頃見た時は、明治時代の鹿鳴館を彷彿とさせる作りだったのに。


 誰かに似ているような子どもAIロボットに案内されて、冬樹は巨大なコンピュータルームに足を踏み入れた。いつの間にこんなアニメや映画に出てくる宇宙船のような内装になったんだろう。


 宇宙船のコックピットを思わせる部屋は、何に使われるのかよく分からないハイテク機器が溢れていて、秘書を思わせる女性型のAIロボットがせっせとパネルを叩いている。

 その隣で玉座のように設えられた椅子に座り、奇妙なヘルメットを被っている小柄な老婦人がゆっくりと立ち上がった。


 ……ミッチェル!


 ミッチェルは見た目がほとんど変わっていない。二十年も経っているのだからそれなりに年を取っているのだろうが、冬樹の記憶にあるままだ。優しげな眼元も、にこやかな表情も。

 

 胸に熱いものが込み上げてきた。まだ純粋だった頃の感情が蘇る。この世の中には味方がいる。自分を必要としてくれる人がいる。そう信じていた頃の。


 冬樹の中にいる幼い日の彼が、衝動のまま飛び出してミッチェルに抱き着きそうになるが、世間のせちがらさを叩きこまれた今の自分がそれを押し留めた。

 

「ミッチェル、俺だよ、俺。覚えてるかな。困ったことがあったらいつでも来てくれって言ったよね」


 平静を装って軽い調子で言うと、ミッチェルは微笑んで頷く。


「もちろん覚えているわ。ユッキー、よく来てくれたわね」


 そういえば、ミッチェルは冬樹をユッキーと呼んでいたっけ。

 

 そんなことを漠然と思い出した時、音もなく近づいてきたAIロボットに背後から何かを被せられた。


「何するんだ……っ」


 と、騒ぐ間もなく強力な電気エネルギーが体内を駆け抜けるのを感じる。電気ショックというやつか。冬樹は思わず膝をついていた。


 強烈な衝撃は一瞬で収まった。いったい何が起きたのかと霞む目をしばたたいて確認すると、にやりとした「自分」と目が合った。


 短髪で浅黒く、人相の良くない若い男。

 二十五年間見慣れた平坂冬樹。間違いない。 


「やったわ、キャサリン。成功よ!」

「やりましたね、ミッチェル!」


 どこからどう見ても自分にしか見えない男が、秘書のようだった人型AIロボットと手に手を取ってキャアキャアはしゃいでいる。これは一体どういうことだ。夢でも見ているのか。


 立ち上がろうとすると頭が重く、耳鳴りがする。足に力が入らずによろよろと目の前の椅子に倒れ込む。と、染みと皺だらけの枯れ枝のような細い手が目に入った。


「なんだ、これえええええ~~~~~っ!?」


 驚いてあげた声は、思っていたのとは全く違う、弱弱しくしわがれた老人のそれだった。


 ミッチェルは本名を北千院道子と言い、旧華族の出身らしい。

 現在はこの広いお屋敷で独り暮らしをしているが、海外のロボット開発ベンチャー企業に長年多額の投資をしており、開発したサンプル機器を使わせてもらっているという。そのため、屋敷の中がハイテク仕様になっていたのだ。


 中でもミッチェルのお気に入りは、企業が極秘に開発している「幽体離脱ヘルメット」。冬樹と対面した時、頭に被っていたのがそれらしい。

 脳に特殊な電気刺激を与えることで身体の感覚と脳の機能を切り離すことが出来るそうで、最終的には非再生である脳の神経細胞を再生させることが目的だという。

 ミッチェルは幽体離脱ヘルメットの積極的な被検者となっており、老いていく肉体を抜け出して、魂だけの自由な生活を満喫しているのだとか。


 そんなSFみたいな話も今や現実になっているのだろうか。


 応接セットに倒れ込んだ冬樹に、ミッチェルの秘書でキャサリンというらしい人型AIロボットが紅茶とクッキーを用意してくれた。懐かしい香りと味わいに涙が出そうだったが、なかなか噛めないし飲み込めない。咀嚼そしゃく嚥下えんげも一苦労である。


 ……つまり、どう考えても冬樹は老人になっている。多分恐らく、八十八歳の北千院道子に。


「それで、幽体離脱と今の俺の状況にどんな関係が?」


 しわがれた冬樹の質問に、向かい合わせに座ったミッチェルが生き生きと語り出す。冬樹の見た目。冬樹の声音で。


「なんと今夜は惑星直列なの」

「……さっき聞いた」


 今夜は地球が太陽系の惑星と直線状に並ぶ惑星直列が起こる特別な夜である。そこでミッチェルは惑星直列のわずかな潮汐力ちょうせきりょくの変動を使って、ある実験に取り組んでいた。

 すなわち、浮遊した魂で他人の身体に入り込む「人体入れ替わり実験」。


「人体入れ替わり~~? そんなのできるわけないじゃん」


 鼻で笑ったつもりが、かすれた老婦人の囁き声にしかならない。

 何ということだ。入れ替わり実験が可能だという生き証人がここにいる。


「実はあたし、十年前から魂を浮遊させてユッキーのこと見てたのよ。なんとまあ若く健康で、程よく身寄りがないこと。やりたいことも特になさそうだし、まさに最適の人物だわと思って、今日ここにご招待したってわけなの」


 うふふ、とミッチェルが嬉しそうに言う。

 筋肉質な若い男が口元に手を当て、しなを作っている様は我ながら気色悪いとしか言いようがない。ああ、一体俺は何をさせられているんだ。


「あのカップル、うまくやってくれましたね」

「ビールおごった甲斐があったわね」


 秘書AIとミッチェルがひそひそと喜んでいる。

 惑星直列でミッチェルを思い出し、この館に来たのは偶然ではなかった。最初から仕組まれていたのだ。


「くそう、俺の青春を返してくれっ」


 言葉とは裏腹に弱弱しい老婦人の声で吠えると、


「大丈夫。潮汐力の影響は三十日でなくなるから、その時元に戻るわ。ただそれまで北千院道子としてお留守番をお願いしたいの」


 ミッチェルはドーンと胸を叩き、「あら、思った通りの見事な胸筋」と妙な感心をしながら請け負った。


「留守番……?」


 まあ、いずれ元に戻れるのならいいか。どうせ平坂冬樹のままでは無一文で帰る場所もない。


「そう。日課を必ずこなしてね。この家は秘書のキャサリンが仕切っているから言うことを聞いてちょうだい。ちなみにあたし、オーダーメイドの介護看護サービスを受けていて、二十四時間体制でボディーガードに警護されているの。何か異変があったらすぐに飛んでくるから、くれぐれもよからぬことはしないでね」


 金持ちはスケールが違う。

 だいたい、こんなか弱い老婆の身体で良からぬ何が出来るというんだ。


 抵抗する元気もない冬樹は、八十八歳の老女の身体で、AIロボットキャサリンの指揮下に入り、よく分からない七つの日課をこなす羽目に陥った。


 日課その①ラジオ体操。その②教科書の音読。その③庭の鯉の餌やりと散歩。その④ブランチを楽しむ。その⑤オペラの鑑賞。その⑥『ミッチェルちゃんねる』の配信。その⑦就寝前のストレッチ。


 なにそれ。だるそう……。


「で、その間俺の身体はどこにいるの?」

「よくぞきいてくれましたっ」


 きゃっはーとミッチェルが冬樹の顔で満面の笑みを浮かべた。


「あたし、ちょっとばかり、宇宙まで行ってくるわ」


 おいおい。勘弁してくれ。


 しかしミッチェルは本気だった。

 彼女はまずくだんの海外企業からプライベートジェット機を派遣してもらい、海外に飛び立つと、企業の宇宙開発部が手掛ける十日間宇宙滞在プログラムに参加した。


「Hi, Fuyuki.  Your body is amazing!」


 それは宇宙空間で過ごすための検査や研修を受けるプログラムで、意気揚々と弾んでいるミッチェル(外見は冬樹)の映像がリアルタイムで日本のミッチェル邸に届く。冬樹の肉体は優秀であるらしく、あらゆるテストで好成績を残し、思いがけない称賛を受けている。


「さすがユッキー。あたしが見込んだだけあるわ」


 ウキウキと冬樹の肉体を撫でくり回すミッチェルに、何から突っ込めばいいか分からない。ここは素直にお礼を言うべきか。


 しかし冬樹にそんな余裕はなかった。

 留守番を任された彼は、ミッチェルの日課をこなすのに精いっぱいだったのである。


「この頼りない足取りで庭の散歩? くそ寒いのに? 大人しく部屋の中でテレビでも見ない?」

「日課は必ずこなします。ミッチェルの体力が落ちてしまいますからね」


 キャサリンはスパルタで、日課をさぼることは断固許さない。


 老体とは、なんと繊細であることか。

 刑務所の職業訓練で老体疑似体験を受けたが、さっぱり実感がなかった。しかしこうして丸ごと入れ替わってみると、その大変さが骨身に染みる。

 楽勝だと思っていたラジオ体操や散歩は重労働で、くだらないと思っていた小学校以来の音読や音楽鑑賞は意外と楽しい。


「はい、フユキ。タイトルコールよろしく」


 この身体で『ミッチェルちゃんねる』なるユーチューブチャンネルを、ほぼ毎日更新しているミッチェルのバイタリティには感服する。

 しかも、これがなかなか面白い。子どもAIロボット『ユッキーくん』と掛け合いながら、料理をしたりゲームをしたり老婦人の気まぐれな日常をお届けしているだけなのだが、老人と孫は時間のペースが合うらしく、のんびりと微笑ましい映像が撮れるのである。


 きっと、俺は覚悟が足りなかった。


 八十八歳の身体で数週間を過ごし、ようやく冬樹は実感した。

 人は皆等しく老いる。

 健康な身体であることは決して当たり前のことではなく、いつか誰かに手を借りる時が来る。介護など、刺激も生産性もないつまらぬ仕事と思っていたが、それは明日の自分にとって必要なことだった。


「ユッキー、やっぱり宇宙は広いわ。あたしたちの可能性は、まだまだ無限大よ」


 プログラム研修を経て、ついに宇宙空間に飛び立ったミッチェルは、三日間滞在する宇宙ステーションから衛星中継で呼びかけてきた。宇宙食を食べたり実験をしたり、ミッチェルははち切れんばかりの笑顔を見せる。


 彼女はいつも言っていた。


『大丈夫。宇宙は広いわ』


 広大な宇宙空間の中で、今生きていることは奇跡だ。

 生きていること。出会ったこと。一緒にいること。


 奇跡をくれたミッチェルのために、自分に出来ることはあるだろうか。


「ただいま、ユッキー。いい子でお留守番していてくれてありがとう」


 本当に宇宙まで行ってきたのだろうかと疑問に思うほど、絶好調に元気な様子でミッチェルが帰還した。


「あたし、宇宙に行くのが夢だったのよね。これでもう思い残すことはないわ」


 慌ただしくヘルメットを被り、魂と肉体を入れ替えて元の自分に戻ると、小柄な老婦人が急に縮んだように見えたので、冬樹は焦った。


「そんなっ。たった三日間の滞在なんて勿体ないよ。いつでも俺の身体を貸すから、また一緒に宇宙に行こう」


 そう言うと、ミッチェルがぱっちりと目を見開いて満面の笑みを浮かべる。


「やったわ、ユッキー。またお願いねっ」


 ばっちん、とウインクが飛んできて冬樹は悟った。

 またミッチェルの誘導に乗ってしまった。全く彼女には敵わない。


 でも、それが少しも嫌ではない。


 元の身体に戻った冬樹は、仕事を探すことにした。

 もちろん、生きるためには働かなければならないのだが、どうせなら、やりたい仕事に就きたい。それしかできないのではない。どうしてもそれをやりたいのだ。


 冬樹は一月ぶりに解雇された会社を訪れた。

 暴行と窃盗の疑いをかけられた彼は、この業界でブラックリスト入りしている可能性がある。しかし何としても誤解を解かなければ、やりたい仕事に就けない。


 深呼吸して強く手を握りしめた。

 罵られるに違いない。話も聞いてもらえないかもしれない。


 でも、大丈夫。宇宙は広い。


 覚悟を決めて門をくぐると、会社は思いがけない反応をした。


「平坂君。この度は申し訳なかった」


 どうやら売上金を盗んでいた真犯人が捕まったらしい。一緒に働いていた他の社員で、高学歴で温厚そうな見た目だったが、暴行も彼の仕業であったという。


「頭ごなしに疑ってしまって、本当に申し訳なかった」


 社長はこちらが申し訳なくなるほど、何度も頭を下げる。


「いえ、俺も、舐めた態度だったから。申し訳ありませんでした。それで、あの、出来れば、というか、どうしてもなんですけど。またここで働かせてくださいっ」


 息を止めて深く頭を下げると、社長は二つ返事で承諾してくれた。


 介護ステーション『そら』の職員、平坂冬樹の評判は上々だ。


 利用者さんとはいつも笑顔で丁寧に接し、力仕事には進んで手を貸す。理不尽な叱責や横柄な態度の利用者さんもいるが、笑顔で流した。これは明日の自分の姿だ。そして、こんなにも手がかかる大変なことを、母が自分にしてくれていたのだと思い至ったから。


「コンニチハ。ボク、ユッキークンニゴウ」

「あらあ、元気な男の子ねえ」


 更に、老人と孫の穏やかな時間の流れを取り入れたいと思い、子どもAIロボットを介護業界に広く参入させることを提案した。

 社長は積極的に検討してくれ、ミッチェルの人脈を介して海外ベンチャー企業と提携を試みることになった。


 また、冬樹は刑務所を訪れて企業説明をし、出所者と介護ビジネスを繋ぐパイプ役としても活動した。そこで自分の未熟さを痛感し、介護職員研修に通ったり、介護福祉士を志したり、と、忙しく充実した日々を過ごすようになった。


「ミッチェル、俺だよ俺。今日はどうだった?」

「いらっしゃい、ユッキー。もちろん絶好調よ」


 しかし、どんなに忙しくとも、毎日必ずミッチェルに会いに行く。

 一緒にラジオ体操をしたり、天体観測をしたり、紅茶とクッキーをたしなむ時間を大切にしている。


 惑星直列は、肉眼で見える五つの惑星だけであれば、およそ二十年に一度の頻度で起こるという。その時にまた「一緒に」宇宙に行けるよう、冬樹とミッチェルは幽体離脱ヘルメットの実験も続けていた。


「フユキハ、ボクノ、成長シタ姿ナンデスネ。ドンナ大人ニナルノカ、楽シミダナー」


 『ユッキーくん』という名前から推して知るべきだったが、ミッチェル邸にいる子どもAIロボットのユッキーくんは、幼少期の冬樹を模して作ったものらしい。

 ミッチェルは恐らく、二十年前、急に姿を消してしまった子どもの行方をずっと案じていたのだ。十年前から冬樹の様子を見ていたというのも、若く健康な肉体を得るためだけではないのだろう。


 世界は広い。

 自分を見てくれている人は必ずいる。


『いらっしゃい、小さなお友だち』


 どうかあの日のミッチェルに恥じない自分であるように。

 ユッキーくんの期待には応えたいと思っている。

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