【GL短編】女聖騎士は女吸血鬼を討伐する予定が、逆に……【百合】
月詠 透音(つくよみ とーね)
【GL短編】女聖騎士は女吸血鬼を討伐する予定が、逆に……【百合】
女吸血鬼:ルセーリア……可愛い女子が大好き。今日の獲物は誰かしら?
女聖騎士:レティシア…‥生意気な聖騎士、吸血鬼退治にやってきたぞ!
*
月光が静かに降り注ぐ森の奥、そびえ立つ漆黒の館。
重厚な扉はまるで外界を拒むように冷たく閉ざされていた。しかし、その静寂は突如として破られる。
——ドンッ!
銀色の閃光が走る。聖騎士の一蹴りによって、扉は鈍い音を立てて開かれた。
「ヴァンパイア・ルセーリア! この地での悪行、今日こそ終わらせてくれるわ!」
白銀の鎧を身にまとい、蒼氷の瞳に輝く銀髪がながれる。
凛とした佇まいで立つ少女。
その名はレティシア。
鍛え抜かれた肢体を覆う鎧は月光を反射し、彼女の姿を一層神々しく見せていた。
瞳は怒りをたたえ、抜き放った聖剣が静かに空気を裂く。
しかし、彼女の声高な宣言に応じた存在は、想像とはまるで異なるものだった。
「……まあ、なんて勇ましく、そして可愛いお嬢さまなの?」
艶やかな声が館に響く。ゆったりとした足取りで階段の上から現れたのは、黒きドレスを纏った一人の吸血鬼。
その名はルセーリア。
闇よりも深く、絹のようになめらかな黒髪。
妖艶な紅の瞳が淫靡に光る。
どこか退屈そうに瞼を伏せ、それでも微笑を浮かべる彼女の姿は、まさにこの館の主にふさわしい優雅さを漂わせる。
「ようこそ、私の館へ。聖騎士様。無粋な訪問ですが、おもてなしはいたしましょう」
「茶番は結構! 貴様を倒して——」
レティシアは迷うことなく踏み込む。聖剣が閃き、狙うは吸血鬼の首元。
——のはずだった
次の瞬間、視界が反転する。
「な……っ!?」
背中を冷たい床に打ちつけられ、思わず息を呑む。剣は手元にある。だが、動かない。
否、動かせないのだ。
「まあまあ、どうなさいましたの? 少しは楽しませてくださるかと思いましたが……拍子抜けですね」
優雅に歩み寄るルセーリア。その指先が、白いレティシアの頬をなぞる。
ゾクリとするほど冷たい。
その冷たさが、むしろ肌を熱くするような錯覚を覚えた。
「くそっ……殺せ……!」
レティシアは奥歯を噛みしめる。しかし、ルセーリアは微笑んだまま首を横に振る。
「お断りします。あなた、私の好みですもの……」
耳元で囁かれる声に、レティシアの背筋が粟立つ。
「……っ、ふざけるな!!」
怒りと屈辱が胸を焦がし、レティシアは仰向けに寝たまま必死に聖剣を振るった。その刃は確かに吸血鬼の腕を切り裂く。
だが——
「ふふ、やんちゃなお嬢さまだこと」
ルセーリアは優雅に黒髪をゆらすが、眉はひとつも動かさず、斬り落とされた腕を拾い上げた。花弁をなぞるかのように、その指を滑らせると——次の瞬間には、腕は元通りになっていた。
「な……なんだこいつ……」
レティシアは息を呑む。
「さて、そんなお嬢様を、どう可愛がろうかしら」
ルセーリアはその指先を滑らせる。鎧の隙間を縫うように、繊細な指が首筋へと触れる。
そのままその……首筋に、ゆっくりと紋様を描き始めた。
「やめ……ろ……っ!」
「これは特別な紋様。あなたの心を、私に捧げるように仕向ける魔術です」
「ひぃっ! 心を捧げるだと? 貴様っ、ふざけるな……!」
叫ぶ声とは裏腹に、頬は紅潮し、心の奥に奇妙なざわめきが生まれる。
何かが、確かに揺らいでいた。
ルセーリアの冷たい指が触れるたびに、肌が焼けるように熱を帯びる。
鎧の下で脈打つ心臓の音が、自分のものとは思えないほど大きく響く。
「このっ……くそ、やめろっ……やめろぉっ!」
じたばたと寝た姿勢で剣を振るう。しかし、ルセーリアの身体を斬り裂いても、その傷はすぐに塞がる。
どれだけ傷つけても、彼女は美しいままだ。
「可愛いわね、あなた……必死に抵抗して。でも……どうしようもないでしょう?」
「っ……ち、違う……こんなの、絶対に……!」
だが、ルセーリアの指が唇に触れた瞬間——心地良さに全身が震えた。
「この感覚……何……?」
「ふふ、あなたはもう私に逆らえません」
甘く囁かれるたびに、胸の奥がざわめく。
心が攫われる。
息が詰まるほどの恐怖——ではない。
「嘘だ……! 私は……こんな……っ!」
レティシアの心の奥には、すでに『心地よい』とすら思い始めている自分がいた。
***
数日後。
夜。
「くそ……私、なんで吸血鬼のアイツに、ドキドキしてるんだ……?!」
重厚なシルクのカーテンが揺れる、豪奢な寝室。その中心、深紅のベルベットが敷かれた大きなベッドに腰掛け、美しい衣装を着せられたレティシアは頭を抱えていた。
胸の奥が、まるで誰かの手でぎゅっと握られたようにざわめく。ルセーリアの冷たい微笑が脳裏をかすめるたび、呼吸が乱れ、熱がせり上がってくる。
こんなの、おかしい。
あの吸血鬼の冷たい指先が爪を立てて首筋をなぞった時の感触が、まだ肌に残っている気がする。穏やかでありながら執拗な声が、耳の奥で響き続ける。
レティシアは拳を握り締め、悔しげに唇を噛んだ。
「……あの紋様のせいだ。あの紋様……絶対に……!」
それ以外に考えられない。あんな女吸血鬼に惹かれるなんて、何かの魔術が作用しているに違いない。
「ふふ、可愛いですね、レティシア」
背後から響いた艶やかな声。
瞬間、レティシアの全身が硬直した。
背中に感じる冷たい吐息。
耳元に触れる柔らかな唇の感触。
「ひゃっ……! あわっわぁ!」
情けない声を上げてしまったことに気づき、レティシアは慌てて飛び退いた。振り返れば、月光を背にしながら優雅に佇む、紫に染まったルセーリアの姿。
漆黒のドレスが流麗なシルエットを描き、長い髪が夜の闇に溶け込むように揺れる。その紅い瞳がじっとこちらを見つめていた。
「う、うるさい! 見るな! 来るな!」
震える声で叫ぶが、身体はルセーリアの温もり(?)を求めているのが分かる。彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐるたび、レティシアの心はますます落ち着きを失っていく。
「お願い、やめて……来ないで!」
レティシアは逃げようとするが足がもつれて転ぶ。それでも床を這うように逃げようとした。
ルセーリアは歩み寄りしゃがむと、レティシアの顎をつかみ上げ、目を見つめた。
「どうしてそんなに、必死に抵抗するの? それが、私を一層興奮させるのよ?」
ルセーリアはレティシアをさらに引き寄せ、甘い唇で耳たぶをそっと舐める。
聖騎士レティシアは吸血鬼ルセーリアの力に屈していく自分を感じた。何かが解けるような感覚。
心の奥深くで、何かが開かれていく音がした。
「ふふ、可愛いわ、レティシア。もっと私に堕ちていきなさい」
ルセーリアの低い囁きが、静かにレティシアの全身を包み込む。レティシアの心に残っていた最後の一縷の抵抗も、ルセーリアの手のひらで消えていった。
*
数日後
*
「……そういえば、この紋様ってどんな魔術なんだ……?」
ふと疑問が浮かぶ。
確かに、これほどまでに心を乱されるほどの強力な呪いなら、どんなものかをちゃんと確認しておくべきではないか?
レティシアは震える指で襟元を引き下げ、寝室の隅に置かれた大きな鏡の前に立った。
そして、見た。
「……は?」
そこにあったのは、子供の落書きのような『ハートマーク』と『可愛いリボン』。
「え? ……なに、これ……?」
あまりの衝撃に思考が止まる。
その背後から、ルセーリアのくすくすとした笑い声が響いた。
「ただの落書きです」
「……がっ! 落書き……だと」
吸血鬼の涼しげな声が、レティシアの絶望を深くする。
「別に、魔術なんて使っていませんもの。あなたが私に夢中になるのは、ただのあなたの本心……でしょう?」
ルセーリアの指先が肩に触れた瞬間、レティシアは弾かれたように後ずさった。
「……そ、そんなわけ……あるかぁぁぁぁ!!!」
絶叫が館の奥深くに響き渡る。
それを聞いたルセーリアは、満足げに微笑んだ。
「ふふ、やっぱり可愛いですわね……レティシア」
* *
後日
* *
夜の帳が降り、館の広間には淡い燭火が揺れていた。
巨大なシャンデリアが天井から静かに輝き、黒と赤のベルベットのカーテンが風にそよぐ。
レティシアはその荘厳な空間の片隅、やはり深紅のソファに腰掛けていた。
「う~ん……なんで私、こんなところでくつろいでるんだ?」
頭を抱えたくなる。
ついこの間まで、ここを破壊して吸血鬼を討つつもりだったのに、今はルセーリアが淹れた紅茶を手に、まるで高貴な姫のように過ごしている。
そんな彼女の隣に、吸血鬼ルセリアが優雅に座る。その姿は闇夜に咲く薔薇のように美しく、長い黒髪がしっとりとソファの上に広がっていた。
「お疲れですか、聖騎士さま?」
「べ、別に……!」
ルセーリアはそんなレティシアをからかうように、ゆっくりと彼女の頬に指を滑らせた。
「顔が赤いですわね。どうしました?」
「なっ……! だ、誰のせいだと思ってる!」
ぷいっと顔を背けるレティシア。しかし、すぐにルセーリアの指が顎をそっと捉え、くいっとこちらを向かせる。
「逃げないでくださいます? 今夜はたっぷり愛でて差し上げますわ」
「わわっ……!?」
その言葉に、レティシアの心臓が跳ね上がる。
ルセーリアの顔が近づく。
吐息がかかるほどの距離。
レティシアは慌てて立ち上がろうとしたが、次の瞬間、ルセーリアの腕が腰に絡みついた。
「どこへ行くのです?」
「あ、あわぁわ!?」
「可愛い聖騎士様がこうして私の腕の中にいるのに、放っておけるわけないでしょう?」
ルセーリアはゆっくりとレティシアを抱き寄せ、その銀髪を指で梳いた。優雅な仕草なのに、どこか独占欲に満ちた動きだった。
レティシアは必死に反抗しようとした。しかし、身体は思うように動かない。否、動かないのではなく――動かしたくなかった。
「き、貴様は……本当に……!」
罵倒しようとして、言葉が詰まる。
ルセーリアの指が爪を尖らせ、耳元をなぞるように触れたせいだ。
「……ふふ。やっぱり敏感なのですね」
「う、うるひゃい!! そんなところ触るな!」
「そんなところ? 耳元に触れただけですのに? あんなとこに触れたら、どうなるのでしょうか」
ルセーリアはくすくすと笑い、さらに距離を詰める。密着と言っていい。
「私の血を飲んでみますか?」
「はぁ!? な、なんで私が!」
「そうすれば、あなたも私と同じ永遠を生きられるかもしれませんわ。……ずっと一緒にいられますのに」
ルセーリアの言葉に、レティシアは目を見開く
「な……っ!? はぁう……いいかも」
まるで、囁くような甘い誘い。
「いいや!……ダメだ! ダメっ、絶対!」
そのまま、ルセーリアの顔が近づく。
薄く開かれた唇から、白い牙が覗く。
「嘘ばっかり、レティシア。ねえ、あなたは、私のものになってくださる?」
甘く囁かれ、胸が震える。
逃げなければ……………や、逃げちゃ、ダメだ。
ルセーリアの指が首筋を撫でた瞬間――重なる唇に、レティシアは息を呑むことしかできなかった。
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