「隙間の向こう」

浅間遊歩

「隙間の向こう」

 一人暮らしを始めて半年、浩太は新しい生活にもようやく慣れてきた。小さなワンルームだが、窓から入る光と風が心地よく、休日はカーテンを開けて読書をするのが習慣になった。


 しかし最近、どうにも気になることがある。カーテンの隙間だ。少しだけ開けた時にできるカーテンの隙間から、なんとなく視線を感じるのだ。


「誰か見てる…?」


 外を見ても、アパート前は静かな住宅街で、人通りもない。とはいえ、気味が悪い。彼は次第に、カーテンの隙間を少しずつ狭めるようになっていった。それでもなお、誰かが見ているような錯覚は消えない。


 ある日の昼下がり、浩太は本を読んでいる最中に、ふと妙な違和感を覚えた。カーテンの隙間の向こうで、微かに何か動いた気がしたのだ。


「やっぱり誰かいるのか…?」


 浩太は息をひそめ、そっとカーテンに近づく。窓から見えるのは普通の景色。けれども風でカーテンが揺れ、隙間が広がった一瞬、その一瞬の間に、確かに人影らしきものが見えた気がした。


 とうとう浩太は意を決し、カーテンを一気に開け放った。外には……誰もいない。


 気のせいだと思おうとしたが、どうにも納得がいかなかった。翌日も、また翌日も、読書をしていると隙間の向こうから視線を感じた。そしてついに、浩太はカーテンの「向こう」を明らかにしようと、スマホで録画することにした。


 窓に向けてスマホを設置し、カーテンが揺れる様子を撮影する。結果を見るのは怖かったが、数分後、回収したスマホ画面の再生ボタンを押した。


 映像に映っていたのは、浩太が気づいていない事実だった。

 風が吹き、カーテンが揺れるたび、隙間の向こうに見えていたのは――「彼自身の影」だった!


 読書に熱中するにつれ、浩太は無意識に姿勢を変え、その姿が窓ガラスに奇妙な角度で映り込んでいた。それが揺れるカーテン越しに映り、窓の外に人影が動いているように見えていただけなのである。


 浩太は思わず吹き出した。


「なんだよ、俺が俺を見てただけか!」


 その日以来、浩太はもうカーテンの隙間を気にしなくなった。

 隙間の向こうにいるのが自分だと分かれば、別に怖くない。人影らしきものが動いても、視線を感じた気がしても、康太はそのまま読書を続けた。

 そんな浩太を見て、窓ガラスに映った浩太は、ニヤリと笑っていた……

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「隙間の向こう」 浅間遊歩 @asama-U4

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