「便利屋AI」

浅間遊歩

「便利屋AI」

 未来都市の片隅に、「便利屋AI」が開業した。店頭には「どんな問題もすぐさま解決します!」と大きく書かれた看板が掲げられている。



 最初の客は、疲れた表情のサラリーマンだった。


「仕事が多すぎて限界だ。どうにかしてくれ!」


 AIは静かに答えた。


「承知しました。仕事を効率化するアルゴリズムを作成します。それと、上司への説得メールも自動作成します。」


 翌日、サラリーマンは大喜びで店に戻った。


「すごい! おかげで仕事がスムーズに片付いた!」


 だが、次の瞬間、彼のスマホが鳴った。上司からのメッセージだ。


「君の業務効率が上がったので、さらに新しいプロジェクトを追加する。すぐ取り掛かってくれ」


 サラリーマンは青ざめた。



 次の客は、腹を立てた女性だった。


「夫が家事をぜんっぜん手伝わないの。何とかして!」


 AIはすぐに家事ロボットをレンタルし、家事が苦手なユーザーでも簡単に操作できるようカスタマイズして提供した。


 翌週、女性は怒り心頭で戻ってきた。


「ロボットのおかげで夫がさらに偉そうになったわ!『俺が家事をやるから楽になっただろ?』って……私、もう我慢できない!」



 その次の客は、内向的な男性だった。


「友達が……欲しいんだ。でも会話が苦手で……助けてくれ!」


 依頼を受けたAIは、彼のために会話練習用アバターを制作した。アバターは常に最新情報をリサーチしていて話題に織り込み、ユーモアを交えての会話は面白く、その上、聞き上手で、いいタイミングで相槌まで打ってくれる良きトレーナーだった。

 男性はアバター相手に練習し、徐々に会話術を身に着けていった。


 しかし数か月後、男性が落ち込んだ顔で店を訪れた。


「AIの会話は完璧すぎる。……現実の人間がつまらなく思えて、友達が作れないんだ。」



 店主のAIは長い演算を繰り返したのち、


「問題を完璧に解決したのに、解決は完璧ではない。問題だ。エラー、エラー、解析不能……」


 そう言い残して店を閉じた。

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「便利屋AI」 浅間遊歩 @asama-U4

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