受験生ラーメン啜り神頼み
すみません、この俳句のエピソードは、この俳句からイメージした散文(掌編)です。
本当は太宰府天満宮の近くに某有名ラーメン店があることを知り、そこからイメージして作句したのですが、掌編は書いているうちに全然異なる内容になってしまいました。
掌編 エピソード1 「波乗り天神」
「あれ、ミワさん、ちわーす!」
と何だか軽い調子の声がした。振り返ると、長身の同年代、アラフォーくらいの男性と二十代と思われる女性が店の入り口に立っていた。しかし、特に見知った顔ではないので私は目の前のラーメンを啜りはじめた。
「いや、俺ですよ、俺!」
こいつはオレオレ詐欺か、と思いつつ無視してラーメンを啜る、せっかくの麺が伸びてしまうではないか、どアホ。
「おじさん、人違いじゃないの」
と女の子の囁き声がしたが、その直後、
「水泳部のサワダですよ、ミワ先輩!」と今度は低音で話しだした。
「え、、サワダ?」
ようやく私の中の何かを揺さぶった。
「何や、サワダやんか!分からへんかったわ、がはははは!」
「お久しぶりです!先輩!」
横の女の子は唖然としていたがお構い無しに、お互いの肩を思い切り叩きあった、二十年前と同じように。
「で、サワダ、なんでここにおるん?」
と私は口の中のチャーシューを呑み込んでから尋ねた。
「実は姪っ子に頼まれまして、久しぶりに天神様にお参りしまして、じゃ、つい「」でにここのラーメンも、というわけで来た所、先輩に遭遇した、いうわけです。」「なるほど、うん、うん。」
「で、先輩はなぜここに?お宅はこの近くでしたね、そういえば。」
「いや、ウチもいろいろあってな、あれから、、、。それで久しぶりに天神さん行ってきた、その帰りつーわけ。」
「そーすか」
ほとんど意味のない会話だが、久しぶりに楽しんでいる自分がいる。
しばらくとりとめのない近況報告が続いた後、サワダ姪っ子がおずおずと会話に加わった。
「先ほどは、大変でしたね、あの境内で。」
「せやな、最初は気づかんかったけど、何だかナイフを持った男が侵入しててんね、わからん間に捕まってくれて良かったわ。」と私は安どの顔で答えた。」
「え!というか、先輩、やばかったすね!あの男が先輩に向かって突進してきた時に助けてくれた人がいたけど、知り合いなんすか?」とサワダから言われても良く事態が呑み込めない私は「助けてくれた人?」と答えた。
一瞬、サワダとサワダ姪っ子が顔を合わせた後、「先輩、先輩と一緒にいた男の人ですよ!そういえばここにいないようですが、旦那さんとか彼氏さんとかじゃないんですか?」
「え、いやあたし一人で来たしー」
またもやサワダコンビが顔を見合わせたので、私はさすがに気になって尋ねた。 「さっきから誰かがウチを助けてくれたような口ぶりだけど、気が付かなかったわ、本当ならお礼を言わないと、、、、。」
「ええ!気が付かなかったんすか?隣にいて?」
サワダが素っ頓狂な声をあげる。サワダ姪っ子も何やら怪訝な表情だ。そこでいろいろ聞いてみると、どうやら私の隣にいたどこぞの殿方が、ナイフ男が私に向かって突進してきた時に、足払いか何かをしてくれて男を転倒させてくれたおかげで周囲からの難なく取り押さえられたらしい。私にはそんな風には感じられず、気づいた時には男は取り押さえられていたようにしか見えなかったのだが。。。そもそも私は一人で来たし、列のとなりには、誰もいなかった、それは確かだ。だとするとその殿方は多分私の後方に並んでいた見知らぬ他人ということになる。
とりあえず私達はラーメンを黙って啜り続け、完食した。多分三人人ともそれぞれさっきの捕物事件のシーンを頭に思い浮かべているはずだ。私はサワダコンビが美味しい豚骨ラーメンを完食したのを見計らって、自分の認識している状況を二人に話した。
お腹が満たされたせいか、先ほどのような絶叫はなかったが、二人とも神妙な顔つきだ。
「するってーと、先輩はお一人で、隣には誰もいなかったと、、、。」とサワダが噺家のような口ぶりで切り出した。
「そうそう。」
「でも、我々には、先輩と彼氏さんが親しげな雰囲気を醸し出していたように見えました。だからてっきりご主人かと、、、。」
「だから、」私は思わず声がワントーン高くなる自分に気づいたが、自分の感情を抑えられなかった。
「ウチの亭主は昨年死んじゃったの!」
「え!」
「そんでもってウチは一人で来たんじゃ!」
そう私が言い放った瞬間、ラーメン店の空気が凍りつくのを感じたが、手遅れだった。サワダはきょとんと表情がなくなり、サワダ姪っ子ははっと息を呑み込んでいた。
三人とも黙りこくり、その話題には触れないまま、ラーメン店を出て、何となく気まずいまま、サワダコンビと私は別れ、一人で周囲の受験生の集団の中に混じって歩き、まるで透明人間のように集団に混じりながら帰路についた。
だけど、実は何となく感じていたのだ。お参りに行く途中の路でも、境内の行列の中でも、何となくアイツの気配を感じていた。というか、心の中で一緒に行っていることを演じていたのだ。あの神社には二人のお気に入りの散歩コースで、死んだ亭主のヒロシとはよく歩くコースの途中にあったのだ。
待てよ、そうだ、亭主のヒロシは生前、高校受験、大学受験、そのほか何でも受験のときは、あそこの神社によく行っていたと聞いたことがある。
「あそこの天神さまは、『波乗り天神』って言われてるんだ、だからサーフボードのオブジェとかあるんだよな、、、」と確か私に話していたっけ、、、。
もしかして、サワダの見た男の人ってヒロシのことなんじゃないか、、、、。
ありがとう、私を守ってくれて、でも成仏してね。。。。
(了)
俳句 お題「受験」 よひら @Kaku46Taro
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