巡り巡る

文月 澪

逢瀬

 眩いネオンが煌めく。


 私はひとり、フラフラと街を歩いた。


 酔っ払いが何か言っているけれど、何も頭に入ってこない。


 視界は滲み、嗚咽が漏れる。


 どこ?


 ねぇ、どこなの?


 幼い頃から胸に開いた、空虚の穴。


 探して、探して、探し続けて。


 もう、耐えられそうにない。


 枯れた手を見つめる。


 私は、年老いてしまった。


 シワだらけの顔、白い髪。


 きっと、見つけても気付いてくれない。


 ぼんやりしていたら、いつの間にか橋に差し掛かっていた。


 暗い川を見下ろす。


 いっそ、このまま……。


 そうすれば、また若い姿に戻って探せる。


 欄干に手をかけた。


 その時、肩を引かれる。


 振り返れば、小さな少年。


 夜の街にそぐわないその背には、塾の物だろうリュックが背負われていた。


 その大きな瞳には、涙が輝く。


 そして、ふわりと微笑んだ。


 それは紛れもない、探し続けたもの。


「あ、あ……あぁ……」


 私は少年にしがみつき、大声で泣いた。


 優しく髪を梳き、幼い声が囁く。


「久しぶり……会いたかった……探しに行けなくて、ごめん」


 きつく抱きしめる手は、暖かい。


 やっと巡り会えた、愛しい人。


 その小さな胸に縋り、僅かに残った力で抱きしめる。


「私も、会いたかった。でも、もう無理みたい。今度は、必ず……」


 しゃがれた声は、喉につかえ、消えていった。


 そんまま力が抜け、崩れ落ちていく。


 薄れていく意識の中で、微かに愛の言葉が聞こえた。


 その言葉だけを抱きしめて、また、私の旅が始まる。

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巡り巡る 文月 澪 @key-sikio

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