追放された魔術師は拾った子猫と婚約をする?

フィステリアタナカ

追放された魔術師は拾った子猫と婚約をする?

 僕は所属しているパーティーで討伐クエストをこなし、今日も誰一人欠けることもなく無事にダンジョンを抜け出すことが出来た。正直今のパーティーメンバーとは仲が良くない。僕が魔術師で前衛が必要だったこと、パーティーメンバーが後衛の魔術師を探していたこと。お互いの利害が一致していたからパーティーを組んでいたまでだ。そう、おそらく今回のクエストで僕は追放されるクビになるのだろう。この前、メンバーがギルドで有能そうな魔術師に声をかけていたから、きっと後任は彼女だろう。


「今回はラッキーだったな」

「ああ、ツイているぜ。ハイポーションが手に入ったもんな」

「おい、ジョセフ。お前、魔法使いだからハイポーションいらないよな? 一つ少ないから俺らで分けるわ」

「その代わりと言っちゃなんだが、あの小瓶はくれてやる。お前にはピッタリだろ?」

「あっ、持ち逃げするなよ。というかハイポーション寄越せ」


 僕は「何だそれ?」と思いながらカバンに入れていたハイポーションを取り出す。


「これでいいですか?」

「おう、サンキュー」


 ハイポーションを一人一人に手渡し、僕はハイポーションではない小瓶エリクサー(霊薬)を見つめる。「これを知らないってバカなんだな」そう思いながら、また小瓶をカバンの中にしまった。


「あれ? 馬車がやられてる」

「どこ?」

「ほら、あそこの街道」

「お前、目がいいな」

「だろ? こう見えて視力は五あるからな」

「じゃ、お宝が残っているかもしれんし行くか」


 クエストの帰り道、魔獣に襲われたと思われる馬車を発見。メンバーがそこへ行くというので、僕も取り敢えずついて行くことにした。


「この馬車、王家のモノじゃん」


 馬車に近づくと、思ったよりも酷い惨状であることがわかった。護衛の兵士は血を流して死んでいて、馬車には老齢の魔術師が息絶えていた。


「金目のもん無えじゃん」

「この剣は良さげじゃね?」

「王家が使っているだからイイもんだろ? 全部貰っちまおうぜ」


 パーティーメンバーと共に馬車を物色。メンバーは金になりそうなものを探していたが、僕は馬車にあった魔導書グリモワールに目を輝かせた。これはきっと良いものだ。


「ん?」


 散乱している服の下に何か気配を感じる。僕が服をゆっくりと持ち上げると、そこには銀色と白の混ざった綺麗な毛並みをした子猫がいた。


「ジョセフ、何かあったか?」

「猫がいる」

「猫? ちなみにお前の持ってる本は何だ?」

「誰かの日記だよ。王家に関りがあるかもしれないが大したこと書かれていないんじゃないかな?」

「なーんだ、つまんねぇ。それお前にやるよ」


 僕は平然と嘘をつきながら、この子猫をどうしようかと考えた。たぶんこのまま放置していたら、水も取れずに死んでしまうだろう。間借りしている部屋で子猫を飼うか――、うーん。


「じゃあ、そろそろ帰るか」


 パーティーメンバーのその言葉を聞き、僕は子猫を持ち帰る決断をした。貯金もあるし、パーティーをクビになってかせげなくなったとしても、最悪このエリクサーを売ればいいし。子猫の世話をする時間が取れるので、その方針で行くことにした。


 ◆


「ということで、ジョセフ、お前クビな」


 ギルドでクエスト報告をした後、予想していた言葉をかけられる。特に言うことも無いので、適当に返事をした。


「はいはい、わかったよ」

「ジョセフ、何か生意気だな」

「まあ、僕がいなくなってもちゃんとギルドの手続きするんだよ」

「馬鹿かてめぇ。今度入るヤツはお前より優秀なヤツなんだよ。そいつに任せりゃ大丈夫さ」

「そうなんだ。今までありがとう」

「そうだぞ。俺らに今までのこと感謝しろよ」


 僕は部屋に帰る支度をする。ギルド併設の売店で夕食のお弁当と、子猫のエサになりそうな食べ物を適当に見繕みつくろう。


 ◆


「ただいま」


 誰もいない部屋にランプを灯し、荷物を床に置く。カバンに入れていた子猫を取り出し、ベッドの上に運んだ。


(大丈夫かな――この子メス猫か)


 五分くらい時間が経つとスヤスヤと寝息を立てていた子猫が目を覚ました。彼女は周りを見てから僕の存在に気づき、僕に対し威嚇をした。


「ミヤァァーー!」

「驚かせてゴメン。馬車で倒れていたから、助けるつもりで僕の部屋まで連れてきた」

「シャァーー!」


 完全に警戒されている。無理もない。カバンから弁当とエサを取り出し、テーブルの上に置いた。


「器――、あった」


 器にエサを盛り、子猫の前に。


「シャァーー!」

「これ君のご飯。食べて」


 そう子猫に言うと、彼女はきょとんとした顔になった。僕はテーブルに戻って椅子に座り、弁当を食べ始める。


「ん? どうしたの?」


 子猫は自分のエサが気に入らないせいか、弁当の臭いにつられて僕のところに来る。彼女は僕の太ももに乗り、弁当を見てクンクンと臭いを嗅いでいた。


「ダメ、これは僕の」


 子猫の手がテーブルの上に。完全に弁当を狙っている。仕方ないか。


「細かくするから、ちょっと待って」


 弁当を上に持ち上げ、僕は彼女にそう言った。僕の言葉が通じたのかテーブルの上にあった手は離れ、彼女はおとなしくなった。僕は弁当に入っている肉を細かくちぎり、器の上に置いた。


「いいよ。食べて」


 彼女にそう言うと、肉を食べ始めた。取り敢えず弱ってなさそうだ。良かった。


 ◇


「ここが君のベッドね」


 ランプを消す前、僕は服を何枚か重ね、子猫の寝る場所を作る。それを彼女はお気に召さなかったようで、その場所へは近づこうとしなかった。


「ここが寝る場所」


 彼女にそう言うが、全然言うことを聞いてくれない。それどころか彼女は僕のベッドの中央を占領して、まるで「ここが私のベッド」と言わんばかりの様子だった。


「困ったなぁ。仕方ないか」


 僕は彼女を持ち上げ、枕元へ。ベッドの上で横になり、彼女に名前を付けることにした。


「名前、何がいいかな」


 彼女はそっぽを向いている。


「テレジア、アンソロ、ミカエル――」


 いろいろ名前を考えるがピンとくるものが無かった。


「マリア」


 彼女が振り向き僕の方を見た。これだ。


「君の名前マリアでいい?」


 ずっと僕を見ている。


「マリアで決まりだね。じゃあ、そろそろ寝ようかマリア」


 ランプを消して、目を閉じる。この日からマリアと一緒に暮らすことになった。


 ◆


「こらこら、魔導書の上に乗らない」


 マリアと過ごす日々は穏やかで気持ちが和らぐ。クエストをこなしているときは、いつも危険と隣り合わせだったから、こんな日はいつぶりだろうか。


「グルルルゥ」

「よしよし」


 マリアを優しく撫でる。彼女は気持ち良さそうだ。一週間も経つとお互い慣れてきて、僕は完全にマリアにメロメロだ。


「マリアが人間になったら結婚しよ。いや、人間じゃなくても結婚するぞ」


 自分でも気持ち悪いセリフだと思うが、彼女の醸し出す上品な雰囲気が自分には心地よかった。


 ◆


 気持ち悪いセリフを言った翌日、弁当を買いにギルドへ向かう。何となくギルドにあるクエストボードを見てみると、興味深いクエストがあった。


「探し人――第一王女か……」


 文章を読むと一週間ほど前に、第一王女の乗った馬車が襲撃にあったそうだ。そこには護衛の騎士の遺体はあったが第一王女の姿は無く、誘拐されたという旨が書かれていた。


「たぶんあの馬車だよな――僕らが気づく前に誰かが誘拐したってことか。しかし酷いな」


 もしかしたら誘拐犯が王女をどこかに売り飛ばしたのかもしれない。それか身代金要求か。どちらにせよ王女を攫った者達はロクデモナイ連中だと思う。


「弁当――何弁がいいかな」


 マリアが喜んでくれそうな弁当を探す。取り敢えず良さげなものを二種類買って、マリアに選んでもらおう。


 ◆


「マリアー、ただいまー」


 いつもならひょこんと現れ出迎えてくれるが、今日はそうではなかった。


「マリア、お弁当買ってきたよ」


 弁当をテーブルの上に置き、マリアを呼ぶ。


「マリアー、――ん?」


 ベッドの上でぐったりとしているマリアを発見。いつもとは違う様子に僕は慌てた。


「マリア! 大丈夫か」


 呼吸が苦しそうだ。どうする? 教会で診てもらう? マリアが死んだら嫌だ。僕は保管していたエリクサーを取り出し、指に付けてマリアの口元へ。


「これエリクサー、舐めて」


 僕がそう言うと、マリアが指を舐め始めた。無くなったらエリクサーを指に付け、無くなったらまた付ける。とにかく回復して欲しい。その思いで必死だった。


「マリア、大丈夫だよ」


 ランプを付けたままベッドの上で横になり、マリアの体を撫でる。何度も撫でると彼女の息は徐々に落ち着いてくる。僕は眠りに落ちるまで彼女を撫でるのを止めなかった。


 ◆


(何だかあったかいな――ああ、マリアだな)


 目が覚めるといつも見ている天井があり、マリアの方を向くとそこには綺麗な少女が――。


「なっ! ちょっ! はっ”!」


 慌てて飛び起きる。なぜ? 裸の少女がいる。思わず美しい体の曲線に見とれてしまったが、僕は息を整え彼女の上にシーツを被せた。


「うーむ」


 マリアにエリクサーを与える。マリアを撫でながら眠る。起きるとなぜか綺麗な少女が――。まあ、状況を考えると答えは一つだ。


「う、う、うーん」


 少女が目を覚ます。僕はどうしたらよいかわからずに、ただ立っていた。


「おはよ、ジョセフさま――、えーーーっ!」


 彼女は自分が裸でいることに気が付きシーツにくるまる。


「おはようございます? マリアだよね?」

「そうですよマリアです」

「君、人間だったの?」

「人間――、あー、それはあのですね。じいが魔法をかけたんですよ」

「魔法?」

「はい。説明しますと、私達は野盗に襲われたんです。爺がまずい状況だと考え、私を猫にし攫われないようにしたんです」

「野盗? 魔獣じゃなくて?」

「はい。魔獣なら馬車の下でシールド結界を張りながらやり過ごしたはずですから」

「そっかぁ」


 たぶんマリアは第一王女だろう。ただでさえ近衛兵が殺されてショックが大きいのに勝手に猫にされて混乱しただろう。


「あのー、ジョセフ様」

「えっ、ジョセフでいいよ。王女」

「いえ、ジョセフ様です。私のことは今まで通りマリアでお願いします」


 これはどうしたらいいんだろう。王女を呼び捨てにしたら、僕は国に――。


「あの、ジョセフ様。あの言葉は本当ですよね?」

「ん? 何? あの言葉って?」

「『マリアが人間になったら結婚しよ。いや、人間じゃなくても結婚するぞ』って言っていたじゃないですか」


 しまった。そんなこと言ってた。


「ジョセフ様をお父様に紹介しますね。私、この人と婚約するからって」

「婚約――、いや、あの、その、無理に婚約しなくても」

「何ですか! ジョセフ様は私との婚約が嫌なのですか? 私にあんなこと言って本気にさせたのに酷いです!」


 傍から見てもマリアは美しく上品であり、この世の男共の注目を浴びるだろう。そんな高嶺の花の人物に僕なんかが――。


「マリア、婚約は決定?」

「決定です。ジョセフ様は結婚しようと提案し、私はジョセフ様と結婚したいです。婚約は双方合意の元です」


 合意? 合意と言えば合意だろうが、それは猫のマリアのときの話であって……。僕の困惑をよそに、彼女は満面の笑みを浮かべて柔らかな声で言う。


「ジョセフ様。不束者ですが、末永くよろしくお願いしますね♡」

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