生き急いでるバトルモノライバル系転生者

暁刀魚

第1話

 ホビーアニメやゲームを題材にしたゲームなんかだと、その競技に命を賭けてるんじゃないかってくらい情熱を燃やしている人たちがいる。

 全力でゲームを楽しんで、情熱を燃やし尽くして。

 それを最高だと臆面もなく叫べる人達がいる。


 それは所詮、物語の登場人物だからと言ってしまえばそれまでだけど。

 だからこそ、その情熱には譲れない信念とかが一本筋の通った形で存在していて。

 羨ましいと思ってしまうのは、間違いだろうか。


 現代の人間は、そんな一つのゲームにバカみたいな情熱を燃やせる人間はそういない。

 いたとしてもそれは一握りの才能みたいなもので、普通の人間からしてみれば憧れの対象だ。


 少なくとも俺には、無理だった。

 幼い頃から好きだった作品があって、大人になってもその作品は大好きだったけど。

 それに命を賭けれるかと言えば、全然そんなことはなくって。

 本気でその作品が好きなら、人生を賭けてその作品に熱中するか、その作品を作る側に回って命を燃やすのが当然じゃないか?

 そう思いながら、何もできずに毎日を浪費していく。


 そんな時間を過ごしていたんだ。

 だから、やり直す機会を手に入れたとき。

 大好きだったその作品の世界に転生したとき。



 ――今度こそは後悔しない人生を、送りたいと思ったんだ。



 =



 剣と剣がぶつかり合う。

 お互いに、光を一振りの刃に変えてぶつけ合っている。

 相手が上段から、俺が下段から。

 振り下ろすように放たれた剣と、抜き放つように放たれた剣がぶつかり合う。


 一瞬、向こうの剣がこちらを押した。

 だがその瞬間、俺は更に踏み込みを加えて剣を振り抜く。

 打ち勝ったのは、俺だった。

 しかし、向こうもそれで諦めたわけではないようで、弾かれた剣をその遠心力を使って一回転。

 さらなる剣戟を加えてくる。

 俺はそれを、余裕を持って弾きながら踏み込み――


 ――一閃。


「――っく!」

「――――」


 確かに一撃が入った。

 しかし甘い。

 その一撃は致命的とはいい難い。

 相手の身体に、光の剣痕を残すにとどまった。

 一気に距離を取って仕切り直しを図る相手。

 当然俺はそれを追いかけて剣を叩き込む。

 激突、一度では留まらない剣の雨。

 俺の剣が、相手の剣が、光の軌跡を描きながら何度も何度も――何度も何度も何度も何度もぶつかり合う。


 終わりがないのではないのかと思う剣戟の嵐の中で、意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 いわゆる、トランス状態とでも呼ぶべきもの。

 極限に高まった集中力が、時間の流れすらも超越して行く感覚。

 それは決して、俺だけが到達しても意味のない状態だ。

 お互いの呼吸が一致して、お互いの意識がシンクロして。

 お互いの相手を倒したいという思いが全く同じ熱量でぶつかりあって初めて至ることのできる場所。


 ああ、素晴らしいと思う。

 こんな感覚、前世ではあり得なかった。

 何より素晴らしいのは、その極限の集中状態で思う存分に身体を動かすことができるということだ。

 人には肉の重りが存在していて、それ故に動きが束縛されている。

 下手な動きをしてしまえば、即座に肉の身体は軋み、悲鳴を上げてしまう。

 だがこの電子の海ではその心配がない。

 思う存分に、思い描いたように身体を動かすことができる。

 なんと、幸福なことだろう。


 ――だがその幸福な時間も、永遠ではない。


 今、俺達がプレイしているのはどれだけリアルな空間に思えても、電子の海に浮かぶ”ゲーム”だ。

 だからそこには、当然リソースというものが存在する。

 多くのゲームにおいてMPと呼ばれるそれは、このゲームに置いても同じ呼び名で。

 そして、強力な攻撃を解き放てば解き放つほどそれは減っていく。

 MPが底をつきたときが、この楽しい楽しい時間が終わる瞬間だ。

 ああ、なんて口惜しい。

 なんてもったいない。


 だがそれは、相手が俺との戦いあそびを本気で、最後まで、心ゆくまで楽しんだという証にほかならない。

 これが、どちらかに力関係が偏っていればこうはいかない。

 MPが尽きるよりも先にHPが尽きる。

 お互いのMPが尽きるまで戦うということは、お互いの力関係が完全に拮抗し状況が膠着しているということ。

 しかし、MPが尽きれば完全に千日手となってしまう。

 だからそうなる前に、決着をつけなくてはならない。

 本当に、惜しいことに。


 故に、その決着は己の全てを投じたものでなくてはならない。


「っへ、やるな――!」

「――――」


 相手の言葉に、俺は無言で視線だけを向けて返し。

 それがお互いの切り札を切る合図となる。


「こいつを喰らえ! <バーニング・ゴー・アヘッド>!」


 相手の剣が、炎を帯びる。

 その現象はこれまでも何度か起きていた。

 今までとの違いは、その炎があまりにも巨大であるということ。

 まるで船首の如く巨大な剣は、突きの構えで相手が放つことで炎の船、もしくは刃となる。

 純粋な火力で相手を焼き尽くす、まさしく必殺技と呼ぶのに相応しい一撃。

 それを、俺は――


「――スタイルチェンジ」


 ポツリと零し、剣を――の剣を、巨大な炎の刃に突き出す。

 そして、一言。


「――<パリィ>」


 途端。



 甲高い、耳に残る音とともにその炎は掻き消えた。



「――な」


 呆ける相手に構わず、俺は突撃する。

 慌てて相手はそれに対応しようとするが、遅い。

 すでに俺は致命への一撃を頭の中で完成させている。

 相手にMPがあれば、その予測を上回ることはできるかもしれないが。

 今の相手は、完全にMPを使い切った状態。

 故に、もはや打つ手はない。


「なんだ、いま、の――!」


 なんとか、最初の一撃を防ぐ。

 しかしそれでも、二振りになった俺の剣を防ぐ事はできない。

 そう、二振りだ。

 先程までは、一般的な長剣の形をした剣。

 けれども今俺の手にあるのは、細剣に分類されるような細く、鋭い剣。

 剣を二つに分割したかのような、それは。

 片方が防がれても、もう片方が相手の急所を貫いて見せる。


「――――”ソード・ダンス”」

「ソード……ダンス」


 決着の瞬間、俺が使った戦法スタイルの名を口にして。

 俺は、相手のノドに細剣を叩き込んだ。


 ――――決着。


 俺と対戦相手は、気がつけば電子で構成されたフィールドからロビーへと帰還していた。

 途端、周囲から響く歓声。

 先程の戦いはロビーで中継されていたのだ。

 素晴らしい戦いを見せてくれた俺達への歓声だろう。

 だからこそ、対戦相手も笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる。


「ちえ、負けたぜ。ありがとな、いいバトルだったぜ」


 特徴的なツンツン頭の――どこからどうみてもホビアニ主人公な少年。

 ただ、俺の知っている”彼”よりいささか幼いが。

 ともかく、そんな彼の差し出してきた手を握り返し握手を交わす。


「ありがとう、こちらこそいいバトルだった」

「へへ、そう言われると照れるな。ってかお前つっよいなぁ、俺も結構強いつもりだったけど同年代に負けたのは初めてだよ」

「……鍛えれるからな」


 色々といいたくなるのを抑えて、努めて冷静に返す。

 お陰で、口数が少なくなっているな。


「せっかく出し、これからハントに行かねぇか? 俺、隣でさっきお前がやったヤツみてみたいんだ。えーと、ソードダンスだっけ?」

「……悪いけど」


 思ってもない申し出。

 しかし、受けるわけには行かない。


「俺には、時間がないんだ」


 そう言って、挨拶もそこそこにその場を後にする。

 そう、俺には時間がない。

 何故なら――



 ――――ああああああ主人公に強いって言われたあああああ!



 思わず叫びだしてしまいそうなのを、抑えなくては行けないからだ――!

 いやだって主人公だぜやべぇ本物だ! でもちょっと幼い、原作開始三年前だからそりゃそうだ!

 やべえやべえ本物だぁ強いまじ強いやべぇな小学四年生であの実力って才能の塊かようわああああああああああああああああああ――



 =



「――俺には、時間がないんだ」


 そう言って、あの少年――プレイヤーネーム”エント”は去っていった。

 対戦相手だった少年、”レツマ”はそれをどこか不思議そうに見送る。

 先ほどエントにも言ったが、レツマにとってそれは同年代に負けた初めての経験だった。

 間違いなく、悔しいという感情はある。

 しかし同時に、相手に対する興味も合った。

 そしてどちらかと言えばより強い感情は、興味の方だ。

 なにせ相手は――を繰り出してみせた。

 あの瞬間のワクワクを、レツマは一生忘れることはないだろう。


 だからこそ、最後の一言が気がかりだ。

 まるで、生き急いでいるようだった、と感じた。

 なにかに追いかけられているようだ、とも。

 しかしそれが何であるか、レツマにはついぞわからない。

 だから――


 ――まさかそれが、原作主人公と対戦してしまったことでオタクを隠せなくなったのを焦っている転生者の姿だとは、つゆとも思わないのだった。

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生き急いでるバトルモノライバル系転生者 暁刀魚 @sanmaosakana

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