トッケンカイキュー

大星雲進次郎

トッケンカイキュー

「先輩、トッケンカイキューって知ってます?」

 愛おしいが無知な先輩に尋ねてみた。

「特権階級?まあそりゃ、それくらいは……あ~」

 またまた、見栄張っちゃって。知らない事を知らないと言えることが、本当の勇気なのよ。先輩、あなたの勇気を私に見せて。

「本当に?知ってるんですかぁ?」

「何で無駄に煽ってくるんだよ。その感じからしたら、俺の知っている特権階級とは違うようだな。また何を考えついた?」

 この人基本、負けず嫌いなんだから……好きだけど。

 たまに拗らせてキレちゃうんだわ……でも好き!

「え?先輩、逆ギレですか?知らないなら知らないって素直に言って下さいよ」

「まあ、俺もベテラン社会人だ。長い社会人生活の中で聞いたことがある気がしてるんだ。な?完全に知らないとは言いきれないんだ」

 ん~不完全だけど、譲歩してきたのだから、良しとしてあげようか。

「じゃあ教えてあげます。あ、違いましたね、答え合わせしましょうね、先輩。さて、合ってるかな~?」

「こんな煽りまで可愛く感じるなんて、俺も焼きが回ったか……」

「おっと!その話は後でじっくり聞かせて下さい。出来れば定時後のお洒落なバーとかで!」

 そうなのだ、先輩が私をやりこめるなんて簡単なのだ。ちょっとおだててくれたら、有頂天。

「で?答えは?」

「フフフ、正解は……私の考えた可愛い言葉!で~す」

「なんだそりゃ」

「まず、「トッ」のトコロ。単語の最初なのにいきなり足止めですね。可愛いです。次に「ケン」のトコロ。つまづいて転けた感。可愛いです。そして「カイ」。踏ん張りましたよ。最後に「キュー」。キューって意味を必要としない可愛いさですよ?」

 先輩は分かってくれただろうか?私はプレゼンが下手なんだ。先輩のアドバイスなしで果たして伝わるのか?

「おまえそれ、アレに似てるよな、「水金地火木土天海冥」、太陽系の惑星の順番憶えるやつ」

 あ、それだ!

「それだ~!なんか昨日からずっと、そのテンポだけ頭に残ってて。あーそれか、それそれ。間違いないわ」

 これが腑に落ちるという感覚。なる程、スッキリストンだ。落ちた落ちた。

「おまえ、そんなので俺を煽ったり、このフロアを絶望に……見ろよ、課長がもう死にそうな顔の青さだぜ」

 課長、また良くない食事環境ですか?他は良い奥様なのに……。今度お話に行こうかしら?

「何か知らんがやめとけ。原因はおまえだ……あ、ヤバい、部長だ」

「君たち、さっきから馬鹿話で長々と……減給するぞ」

 ちょっと先輩のトコに長居しすぎたか。でも部長も経理の子の所にしょっちゅうお話に行くじゃないの。

「……めった」

 ふと、私が勝手に部長に設定した語尾を思い出す。

 ガタン!と大きな音。椅子が倒れた時くらいの音だわ。

「課長~!」

 倒れたのは課長。主任があわてて駆け寄る。

 周りの人たちも部長も集まっていった。

 課長、おなかを押さえて、苦しそう……笑いを堪えてるような顔にも見える。個人差ね。でも……

「課長、ナイスプレイですわ。……先輩、そしたら先輩の言ってた「特権階級」ってどういう意味なんですか?」

「今聞くか?そうだな」

 先輩が意地悪な顔で笑う。あ、これキュンって来るやつだ!ちょっと待てぇ。 

「おまえが可愛いって事だよ」

「あう……」

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