怪奇!恐怖のヘビ人間!!
遊月奈喩多
ヘビ人間、現る!
先生さようなら!
皆さんさようなら!
夕焼けチャイムの帰り道。
冬の夕方特有の、曖昧で薄ぼやけた暖色の空の下。
下校班と分かれ、家まであと少しというところ。最近テレビで観た怖い話の影響で電柱の陰に怯えた拍子に、帰り際先生が言っていたことを思い出す。
『皆さん、今この街は、変な人や危険なものがいっぱいいます。だからおうちに着くまで寄り道しないで、知らない人とかおかしなものからは離れて、安全に帰ってくださいね』
街にいっぱいいる変な人や危険なもの。
佳乃が知っているのは、その中でもごくわずか。
100mを1.2秒で走り、捕まえた人に卵を産み付けてしまうゴキブリ人間。
雑木林を縄張りにして、近付くと大人でも大ケガをしてしまう暴れツチノコ。
川の深みで獲物を待ち構えて、近付いてきた人をすかさず食べてしまう人食いウナギ。
廃線の駅に住み着いて、仕掛けた罠で人を捕まえて肥料にしてしまう腐葉土お化け。
そして、夕方になると街の至るところに出没して、出会った人を皆殺しにするヘビ人間。
誰もその姿を見ていないけど、ヘビ人間に出会った人の口には、みんなヘビ人間の脱皮した皮がつまっているのだという。皮を口のなかに詰め込まれて、みんな息ができなくなってしまうのだ。
「……昨日も、4組の
まだ小学生2年生なのに身長3m超え、体力テストでもプロスポーツ選手と比べてちょうどいいくらいで、『天上天下、唯我独尊ってなァ~!』が口癖だった偉武羅彼くん。
佳乃には「天上天下」の意味も「唯我独尊」の意味もわからなかったが、なんだかすごい男の子ということで佳乃も知ってはいた相手なので、ヘビ人間がどれほど恐ろしいのかと嫌な想像が膨らんでしまっていた。
一昨日は合気道と剣道、そしてグラディアトリクスの経験者でもあった6年生の
「ハンデだって預かったポーンの駒が、形見になっちゃうなんて……」
首が据わった直後から向かうところ敵なしといったチェス名人ぶりを発揮していた松埜斎くんの姿を思い出し、幼い胸をぎゅっと握る佳乃。
もう、どれだけ特訓しても松埜斎くんにチェスでリベンジすることはできない。その悲しみが改めて押し寄せて、心が押し潰されそうになったとき。
佳乃は、自宅の前に落ちていた
それは、大人の人間ひとり分の体積のある皮。
カサカサに乾いて、風に
「お゛ぅ……っ、」
瞬間。
風に運ばれて鼻腔をくすぐったのは、言い様のない匂い。
頭のなかが塗り潰されて、そのままヘビの太い胴体で脳を締め付けるかのように、この匂いのことしか考えられなくなってしまう。
有り体にいうなら、中毒性のある匂いだった。
すぅー、すぅぅ~~~♡
気付けば佳乃はアスファルトに座り込み、吸い込むように皮の匂いを嗅いでいた。それが脱皮したヘビ人間の皮であることは薄々感じていたが、もう止められなかった。
「すぅ~~~、ふぅぅ、
鼻腔にねっとり絡み付く皮脂の匂い。
脳髄まで痺れてしまう湿り気を帯びた匂い。
臭い、本当に臭い。
本物のヘビとは違って汗もかくのだろうか、汗が蒸れたときの酸っぱいような匂いもして、
「くっさ、く……っさ……おぅえ゛ぇ、臭ぁ~い♪ 鼻曲がっちゃう、胸苦しい……♪ お腹もむかむかするし、最悪……♡ くさ、くっさ、くっっっさ……うえ゛っ、」
吐き気に見舞われながらも、佳乃はヘビ人間の皮を嗅ぎ続ける。鼻腔はおろか気管や肺、胃の腑に至るまでヘビ人間の匂いに満たされて、先程まであった松埜斎くんへの哀惜の念などどこかへ消えてしまっていた。
臭い、ほんとに臭い、信じられないくらい臭い。
頭がおかしくなりそうに臭い、ありえない。
臭すぎ、こんな臭いものがあるなんて……。
ほんと臭い……♡
「あむっ、はぉぉ、あむぉ、むうぉっもおっ、」
じゅるじゅる、ずずっ、ずぅっ、
気付けば佳乃は激臭を放つ皮を自ら口に含み、飲み込むように頬張っていた。小さな口を大きく開けて、唾液をまぶして、鼻をぴすぴす鳴らして。
もっ……、もっ……
んも゛っ、んぅも゛っっ!!
頭のなかが真っ赤になって、真っ暗になって。
それでも、ヘビ人間の皮を飲み込もうとする手と口は一切止まらなくて。
………………………………………………………………………………………………………………………………んぐっ、
* * * * * * *
……続いてのニュースです。
昨日の午後4時過ぎ、再び街にヘビ人間が現れました。今回も痕跡だけ残してその姿は見られず、犠牲になったのは近所に住む小学生、桜坂佳乃さんで…………
怪奇!恐怖のヘビ人間!! 遊月奈喩多 @vAN1-SHing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます