『の』

ハマハマ

九本と一本で十本

 ワタシの普段やってるお仕事を紹介したいと思います。


 まずこの白い箱です。

 というかこの箱と、もう一つの黒い箱の中身だけに用がある仕事なんですよ。


 白い箱のフタを開けて中を覗くと、箱と同じ白色の、紐状のモノがたくさん入ってます。


 ここから一本ずつ、ゆっくりと手に取っていきます。

 この一本一本に想いを馳せながら、時には労いながら集めます。


 そしてそれを九本集め終わったら、今度は黒い箱です。

 白い箱の蓋をパタンと閉じて、黒い箱を開きます。

 左手に九本の白い紐を持ったままですから、落とさない様に気をつけて開きますよ。


 こちらも白い箱同様に、箱と同じ色の紐状のモノがたくさん入ってます。


 こちらからは一本だけ。

 そっと一本拾い上げ、今度は上手くいく様にと願いを込めて、先ほど集めた白い九本と一緒にまとめます。


 合わせて十本になったそれらを両手で挟み、グッと力を入れて、掌をズラす要領でり合わせるんです。


 何度かそれを繰り返して、ちょうど良い具合に撚り合わさったのを確認したら、真ん中で緩く結んで専用のトレイに置いておきます。『の』の字みたいになる様に緩く緩く結びます。


 このトレイにちょうど十個の『の』が置けますから、さらに九回繰り返し、それを主人あるじのもとへと届けます。


 主人あるじ? あぁ、この仕事をワタシたちに命令してる人ですよ。偉い人ですね。


 すぐそこですから自分の羽でピューッと飛んで届けます。


 ワタシが作った『の』を十個。

 主人はジィッと見詰めて、フッと柔らかく息を吹きかけます。


 そうすると、『の』の字がうごうご蠢いて、綺麗な真ん丸になってくれるんです。

 ほら、これが新たなですよ。


「ではお昼休みとった後にまた十個作って持ってきます!」


 主人に元気よくそう言って、ピューっと持ち場に戻ります。


 勘の鋭い方ならもうお分かりでしょうか。

 そうです、ワタシの仕事は輪廻転生のお手伝い。


 ――え? 魂の総数減っちゃう?


 なに言ってるんですか。ちゃんと、死んだ魂をから撚り合わせるんだから、総数は同じですよ。


 転生? 生まれ変わり?


 厳密に言えば『ない』と言わざるを得ませんね。せいぜい十分の一ですから。


 でも、そうですね。

 奇跡的に、ランダムに十本集めて、それが十本とも同じ人の魂ってことがあるかも――、あ、無いです。


 白は天国行きの魂、黒は地獄行きの魂ですから。

 どんな強運でも十本集まることはありませんから完全な転生はあり得ませんね。


 でもそんなこと言ったって、どうせ地上の生活なんて辛いことばっかりなんですから。

 同じ魂でもう一度、なんて望む人いないんじゃないですか?


 へぇ、いるんですか? 奇特な人もいたもんですね。

 全て忘れて新たな魂で、イチからやった方がまだマシな気がしますけどねぇ。


 どうせ人間なんて地上に蠢くムシケr……――――あ、ごめんなさい。失言でした。

 聞かなかったことにしてください。


 じゃぁ春から、同じ職場で働けるの楽しみにしていますね!

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『の』 ハマハマ @hamahamanji

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