『殺し屋ポルターガイスト』のスピンオフと謳われている本作ですが、関係性はあまりなく、ほぼ独立した一作品として楽しめます。
舞台は私立真里孔(マリアナ)大学の遅念ゼミ。遅念「准」教授のゼミは通称『呪詛ゼミ』と呼ばれ、悪霊の『降霊』と『憑依』を研究し、ときおり外部から持ち込まれる憑依に関する相談をゼミ生たちと解決していきます。
『殺し屋ポルタ―ガイスト』動揺、これまたホラーコメディなのですが、前作よりさらに人間の闇に踏み込み、シニカルな視線が鋭さを増した内容になっています。
何かを問おうとするとき、正々堂々と正面突破しようとしてもうまくいかないことがあります。北風と太陽のように、相手の心をそれと知らぬ間に動かしてこそ、感じとってもらえる何かがあったりします。ジロギンさまが選んだホラーコメディは、それにしっくりくるジャンルのひとつではないでしょうか。
面白いけれど、馬鹿笑いするだけではない。怖くないホラーで、ときどき笑えないコメディで、後味が悪いところも多々あるけれど、そのシュールさに社会への強烈な皮肉が込められているようにも感じます。実はジロギンさまの社会への不信感や憤りってかなり根深く、人間のどうしようもないさがにあきれながらも、人間くささを嫌いにはなり切れないのかしら、などと邪推してしまいました。
何かかすかに引っかかり、いつまでも心に残り続ける。そんな読書体験ができる作品です。
憑依や呪いをテーマに自由自在。多種多様な物語が味わえます。
主人公である遅念(ちねん)は憑依や呪いを研究する「呪詛ゼミ」で教鞭を執る人物。学生たちを指導する一方で、憑依がらみの霊的事件を解決することも。
本作ではそんな遅念たちが関わる様々な「憑依事件」を扱っているのですが、ここで出てくる事件のバリエーションの豊富さが何よりもの見所です。
「憑依という形によってハッピーな人生に乗り換え、異世界転生みたいな状況を作ろうとする男」、「人形に死んだ人間の魂を憑依させて一緒に暮らそうとする者」など。
登場するアイデアの豊富さと、その先で人々が迎える思わぬ結末。一話一話で発想の斬新さに驚かされると共に、「憑依」を巡って掘り下げられる様々な人間模様を覗き見ることができます。
憑依。それは「霊という形を利用し、別の人生、別の可能性を作り出すこと」を意味する。それが人間の奥底に眠る様々な感情を生み出していくことに。
超常現象を軸に、ホラー、人間ドラマ、ミステリーなど様々な物語を楽しめる作品です。
これまでにない発想がいくつもあり、本作を読めば「憑依」という事象に対し新たな認識を持てるようになるかもしれません。