❄️8👨

 あの面会から数日経ったある日、ユキのデバイスに突然マキさんから電話がかかってきた。


 その日はちょうどオレもユキもウチにいて、二人でマキさんの話を聞いていた。


「あの人、ホントに骨になっちゃった」


 面会からたった三日後。

 容体が一気に崩れて、ユキの親父はそのまま病院で息を引き取ったらしい。


「火葬して、こっちですぐ海洋散骨する事にしたから。ま、一応報告ってコトで」


 それから後の手続きはマキさんの方で全部終わらせる事、お金の工面は一切しなくていい事を淡々と伝えて、マキさんは電話を切った。



 それから何日か経った朝、ユキがオレに珍しく頼み事をしてきた。


「アキオ。僕を、海に連れてって」




 磯のにおいのする冷たい風がゴォっと勢いよく吹き付ける


 明日から四月だってのに浜風のせいでここの海はすぐ手足が冷えるぐらい寒い。こんなじっとしてられないぐらい寒さの中でも、ユキはコートのポケットに手を突っ込んで、遠く向こうの海を静かに見つめながらたたずんでいた。


「昨日マキさんから連絡来て、父さんの散骨式終わったって」


 独り言みたいにユキがぽつりと言う。


 っつー事は、ユキの親父は今頃この海のどっかを漂ってんだな。


 これで文字通り全部水に流せるって話でもないんだろうが、ユキん中でとりあえず一区切りついたんだって、オレは思ってる。

 オレはと言うと、実はちゃんと整理がついてない。マキさんは自分を「無責任な部外者」って言ってたが、オレの方こそずっと部外者だ。


 ただ、そんなオレでも一言言ってやりたい。

 今日ぐらいはソレが許されるだろう。


「ユキとオレを会わせてくれてぇー!! ありがとうございまぁあああああーす!!」


 腹の底からバカでかい声で叫ぶと、ユキが顔を真っ赤にさせて「ちょ、バカバカっ! な、なに叫んでんの!」と背中をポカポカ殴ってきた。って言っても全然痛くねーけど。


「や、せっかくだしお礼的な? ユキを産んでくれて感謝じゃん」


 するとユキは「お礼、かぁ……」と二、三度目をぱちくりさせた。それから何か思いついたように口を両手でかこって、大声で叫ぶ。


「父さぁーんっ!! さよならっ……さよーならぁーっ!!」


 上ずった涙まじりのサヨナラが、さざなみに掻っ攫われて流されていく。

 遠く、遠く——ここよりも遥か遠くに、オレ達の言葉はきっと届いてる、はずだ。


「オレがユキを世界でいっちゃん幸せにしまぁああーす!!」


「ちょ、またっ! アキオってほんっとにアキオだよね!」


「え、なに、どゆこと?」


「そのまんまの意味っ!」


 キラキラと向こうでまぶしいぐらい光る海に、いつものくだらねぇ会話に笑うオレ達の笑い声と波の音だけが響いていた。

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サヨナラの向こう側 トヨタ理 @toyo_osm12

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