火星の骨

稲垣博輝16

火星の骨

 自然溢れるといえば聞こえはいいが、実際は都会化の話しもなくただ時代においてかれたような町。

 その町に暮らす女子中学生雨乃シズクは学校でいつものように弁当を広げて昼食にしていた。

 教室に備え付けられた薄型のテレビからニュースが流れる。

『○○国の無人探査機が、火星において骨らしき物を発見しました。 その時の映像をごらんください』

 テレビのモニターには無人探査機に取り付けられた機械の腕の先が火星の土をゆっくりと優しく掘り起こし、埋められていた骨らしき物を取り出した。

 その映像を見てシズクは小さくつぶやく。

「おばあちゃんが”おじいちゃんの骨は火星にもある”ってよく言ってたけど、もしかしてアレが?」

 シズクは自身の言葉に首を横に振る。

「そんなわけないよね」

 ニュースをさらに見ると骨を拾った無人探査機は既に地球へと戻っていることが伝えられた。

 シズクたち生徒が食べ終えた弁当をしまうと、昼の休憩時間の終わりを告げるチャイムがなり響いた。

 教師が教壇に立ち、生徒たちが教科書を開く。

 その時一人の生徒が窓の外の景色の中に奇妙な形の物体が飛んでいることに気づいた。

「あれ、ユーフォーじゃない!?」

 他の生徒も一斉に外を見る。

 飛行機でも鳥でもない変わった形のその物体は山のほうへと消えていった。

 校内放送が各クラスの教師に職員室へとくるよう伝える。

 授業を自習に変えて、教師が教室を出る。

 生徒たちが自習をするわけもなく、先ほど見たユーフォーのことを話す。

「なんのために来たんだろうな」

「侵略? 友好?」

 テンションが上がり騒音に近くなり始めたとき教師が戻ってくる。

「あの山に落ちたと思われる飛行物体だが、街から調査隊がくるらしい。 その準備があるので生徒は今日は帰らせるように決まった」

 シズクは樹が立ち並ぶ道をゆっくりと歩く。

「本当に何もないよね、ここは」

 教室から見たユーフォーが消えた山に向かってシズクは叫ぶ。

「おーい宇宙人、コンビニとかペンギホーテとかこの町に作ってよ。 買い食いとかしてみたいぞ」

 シズクの言葉に返ってくるのは静寂のみ。

「ダメか、宇宙人は本当になにしにきたんだろう?」

 答えの出ない疑問をかかえたままシズクは家へと帰ってきた。

 立て付けの悪くなった玄関のドアを開けようとした時声をかけられた。

「ここが雨乃ハレゾウのイエか?」

「それはおじいちゃんだけど、おじいちゃんはもう」

 シズクは振り返るが誰もいない。

「あれ、確かに声が聞こえたんだけど」

「こっちだ、こっち」

 足下から聞こえる声、シズクが顔を下に向ける。

 そこにはひざほどの身長をした円状の体で真ん中に大きな穴が開き、その上に逆三角形の顔を浮かべた生物がいた。

 その生物は顔に浮かんだ記号らしき物から声を出す。

「お前がハレゾウの娘か?」

「ちがう、私は孫のシズク。 それよりあなた何?」

「オレか? オレはノアト、じいちゃんがなくなったからハレゾウの娘にそのことを伝えるため火星からキタ」

「山に来たユーフォーはあなたのな?」

「ソウダナ。 ソレヨり、ハレゾウの娘に会いタイだが」

「お母さんなら、今なら居間でテレビを見てるはず」

 シズクが玄関を開けてノアトを入れる。

 段差になってる床に上がろうとノアトが二本の腕を伸ばすが届かない。

 それを見たシズクはしゃがみノアトの体を両手を伸ばして途中で止めた。

「あなたの体って触っても大丈夫電撃とか流れてこない?」

「だいジョウぶだぞ」

 シズクがノアトの体を掴み、そのまま床に上がる。

 居間に来ると煎餅を食べながらテレビを見ている母親に話しかける。

「お母さんに宇宙からのお客さんだよ」

 母親は煎餅を食べる手を休めシズクのほうを見る。 そしてノアトに気づいた。

「なに、その生き物?」

「お前がハレゾウの娘か、オレのチチのノマンがナクナった。 あとお前のハタチの時にこれワタすようたのまれてタから届けにキタ」

 ノアトの手に火星の光る石をはめこんだペンダントが出てくる。

「きれいね。 でも二十歳なんてとっくに過ぎてるのよねー」

「まだヨンジュウ年しかたってない、ハタチになるのはサキだろ?」

「いや、生まれて二十年たったらハタチだし」

 シズクの言葉にノアトが驚く。

「そうか火星とはカズのかぞえカタちがうノカ」

 ノアトは手に持つペンダントを見る。

「コレどうしタラよいかナ」

「それじゃあ娘のシズクが二十歳になった時のプレゼントってことでどうかしら?」

「ソレよいナ、そうシヨウ。」

 ノアトがシズクにペンダントを渡す。

「ソウダ、ちきゅう二はハカマイリとかいうのがアルらしいな。 ソレやってみタイ」

「わかった、連れてってあげる。 その前にペンダント閉まってくるから待ってて」

 シズクが自分の部屋に鞄とペンダントを仕舞い、自転車用ヘルメットを被って戻ってきた。

 ノアトの体を抱きかかえて家の横に置いてある自転車のカゴに入れる。

「お墓はちょっと遠いから着くまでそこで我慢してね」

 自転車にまたがりペダルを漕ぎ始める。

 下り坂に入るとシズクは軽くブレーキを掛けながら速度を落としノアトに話しだす。

「それにしても意外だったな。 火星人ってタコっぽくないんだ」

「チチからキイタがハレゾウも同じコトいってタらしい。 マアいろんナしゅるいイルからサガせばミツかるかもな」

「そうなんだ。 ねえ、あなたのお父さんと私のおじいちゃんどうやって知り合ったの?」

「お前たちがユーフォーとヨブやつがコショウして父ノマンこのホシきた。 そのトきハレゾウと出アって家にトメテもらったラシイ」

「火星人泊めるって、みんなびっくりしなかったのかな?」

「おどろイてはイタらしいな。 トコろでそのカセイジンとイウのはスキじゃない。 父ノマンのようにカセイトモダチとヨバレたい」

「火星トモダチ、いいねそれ」

「父ノマンのようにオマエたちのことチキュウトモダチってヨンデいいか?」

「いいよ」

 シズクが火星で見つかった骨のニュースを思い出す。

「おばあちゃんが火星にもおじいちゃんの骨があるって言ってたけど、本当なの?」

「父ノマンはハレゾウのソウシキにも出てハレゾウのホネをカセイにもウメたぞ」

(じゃあニュースで見た骨っておじいちゃんの……)

 下り坂を終えると寺の門が見えてきた。

 シズクがブレーキを掛け寺の前で自転車から降りる。

「ここにおじいちゃんの墓があるの」

 ノアトを抱えて門をくぐり、墓地のほうへ歩く。

 空きの目立つ墓所の一箇所に立つ墓の前に立つ。

「これがおじいちゃんのお墓」

「カセイのハカとはダイぶチガウな」

 シズクが目を閉じ両手を合わせる。

 その動きをノアトは真似する。

 目を開けたシズクは自分の真似をしているノアトに気づく。

「そのまま伝えたい言葉を心に浮かべるの、天国にいる人に届くように」

「ソウか」

 ノアトが心で言葉を浮かべ終えたあと目を開ける。

「ナンだかサビしいナ」

「そうだね」

 時おり吹く小さな風がシズクの頬を冷やす。

「さっき聞こうと思ったんたけど火星で見つかった骨って、もしかして私のおじいちゃんの?」

「ミツかったホネ?」

「うん、ニュースでやってたんだけど」

「ニューす、それハえいぞうデみえるノカ?」

「見えるよ」

 ノアトが両手を広げると、四角い枠が宙に浮かぶ。

 その枠内に映像が広がる。 それはシズクが昼に見たニュース。

「このホネ、ハレゾウのだ。 カエシてモラオウ」

「返してもらうって、どうやって?」

「ハナす、チキュウトモダチはなせバかえしてクレるだろ」

「ダメだって、宇宙から来たってわかったら捕まっちゃうよ」

「ナンでダ?」

「なんでって、珍しいから? 理由はよくわからないけど研究とか解剖とかされるだろうし」

 シズクは昼に聞いたことを思いだした。

「あのユーフォーって隠してある?」

「いいヤ、なんでダ?」

「ユーフォーを調べに街から調査隊が来るの。 彼らが来る前に隠さないと」

「カクす? そんナどうぐハもってきてナイゾ」

「え、なんか高度な技術持ってそうなのに」

「デキルことデキナイことアル」

「あのユーフォー以外で火星に帰る方法は?」

「ナい!」

 シズクがノアトを慌てて自転車の籠に入れ、山へと向かう。

 山の入り口に着いた時、すでに教師と調査団らしき人達が話しをしていた。

「これ、絶対やばいよね」

 シズクは自転車で整備されてない道に入り、そこで自転車から降りた。

 ノアトを両手で抱きかかえる。

「ねえ、ここからユーフォーのある場所わかる?」

「ナビならアル」

 シズクの前に緑の矢印が浮かぶ。

「そのナビどおリすすめバつく」

「なんでこんな事できて、ユーフォーは隠せないのよ」

 軽い泣き言を吐いたあとシズクは矢印に従い走り出す。

 シズクは額を時々小枝にぶつけながらもユーフォーに辿りついた。

 抱えていたノアトをユーフォーの前に降ろす。

「おワカレか?」

「うん、ここにいたらノアトは捕まっちゃうよ」

「そうカ」

 ノアトがユーフォーの扉を開け乗り込み、シズクのほうへ振り向く。

「いつか父ノマンのハカマイリにもキテくれ」

「うん、行ける日がきたらね」

 ユーフォーの扉がしまり、空へとあがっていく。

 一定の高度に達すると方向を変えてユーフォーは飛んでいく。

「雨乃なんでここに?」

 背後から聞こえた声、振り返ると教師と調査団の一員の女性が立っていた。

 その女性は飛び去っていくユーフォーを見つめたあとシズクへと話しかける。

「あのユーフォーを逃がしたとう認識でいいのかしら?」

 女性の質問にシズクは静かにうなづいた。

 教師に滅茶苦茶怒られた後、シズクは調査団の監視対象ということになった。




 学校が終わり、シズクはいつもの帰り道を歩く。

 手につけられた二十四時間居場所のわかるリストバンドを時折見ながら。

 家に戻ると調査団の女性が来ていた。

 監視対象となっているシズクへと女性は色々な質問をする。

 特に支障のない質問のあと女性はあることをシズクへと聞いた。

「ノマンは元気だった?」

「いえ、ノアトのお父さんはもう、なんでノアトのお父さんの名前を?」

「ノマンとこの星に来たのは他にもいたのさ。 擬態を得意とする私はこの星が気にいって残ることにしたのさ。 ハレゾウのソウシキをノマンに教えたのも私だしな」

 考えてみれば教える者がいなければ火星に葬式の日がわかるわけはなかった。

 その女性はノマンと一緒にきた時のこと、ハレゾウたちが優しかったことなどを話てくれた。

 シズクも次第に心を開き、ノアトと出会った一日を話す。

「そうか見つかった骨はハレゾウのか。 研究が始まるまえに適当な動物の骨とすり替えておくよ。

 あとは仲間に連絡を取って火星にもどしてもらう」

「あの、もう一つ頼んでいいですか?」

 返事を聞くより早くシズクは居間に向かい、母親と話して小さな箱を渡してもらった。

 女性のところに戻ってきたシズクが箱を開けると、中には骨が一つ。

「これおばあちゃんの骨なんです。 なくなる前に『おじいちゃんと一緒の場所に入れてほしい』って言ってたんです。 だから火星にも埋めてあげてください」

 数日の時が流れた。

 火星で見つかった骨が鹿の骨だとニュースが伝え、世間では少しだけ騒ぎになった。

 シズクは空に浮かぶ星たちを眺めていた。

「この星のどれかが火星なんだよね。 都会じゃ星を見れない場所があるらしいけど私は空を見ればいつでも火星を見ることができるんだ」

 コンビニもペンギホーテも無いこの町をシズクは好きになった。




                               ~おわり~

 


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火星の骨 稲垣博輝16 @hirokisama

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