母親の事情で転校を繰り返す、つばめちゃん。人と深く付き合うことをやめ、無表情に無感動に、学校生活を送っています。
そんなつばめちゃんが出会ったのは、自称ハードボイルド探偵のアニ。抜けていて、様にならない場面も多々ありますが、彼の明るい人柄は頑なだったつばめちゃんの心を解きほぐしていきます。
けれど、転校を匂わせるつばめちゃんの母親。せっかくつばめちゃんはアニと出会えて笑顔を見せるようになったのに、また諦めたような顔に戻ってしまうのでしょうか?
この作品は、とにかくみずみずしい!十代ならではの甘酸っぱさや不安さやもどかしさが、ぎゅっと詰まっています。
舞台は、1999年。ノストラダムスの予言で世界が滅びると言われた年です。
その不安な空気の中、つばめちゃんとアニのやりとりが青春そのもので微笑ましいです。
つばめちゃんには、ある想いがあります。それは決して難しいものではないのですが、転校続きの人生と抑圧的な母親の元では、叶えるのが困難なもの。
それはまるで青空がそこに広がっているのに、ラムネ瓶越しに見るような、現実味のない未来。
けれど、つばめちゃん一人では叶えるのが難しくても、アニと一緒なら……。
作品のキャッチコピーである『あの未来で、待ってて』
あの未来とは、どんな未来なのか。そこにつばめちゃんとアニ、二人はいるのか?
物語はまだ完結していないので、どんな未来が二人を待っているのか。ハラハラワクワクしながら読み進めたいと思います。
母親の仕事の都合で転校してばかりの生活を送る少女、つばめ。今度の転校先である乃寿美高校も所詮は通り過ぎるだけのものだと達観し、いつも通りひとりで過ごすつもりでいたのだが……もう5月だというのに探偵部なる部活の募集をしていた眼鏡男子に好奇心をそそられ、つい声をかけてしまった。そして始まるのだ。宝物のような4ヶ月間が。
つばめさんはある事情からずっと自分の意思を抑え込んできました。そこで出遭ったのが奇人な眼鏡男子、コードネーム“アニ”くんです。彼女の灰一色だった世界は彼という奇しき色が差し込まれ、一気に彩づきます。それによって彼女の心情が大きく動いていく描写は鮮やかのひと言なのですよねぇ。
そして本作はふたりの視点切り替え式で進行するのですが、つばめさん視点は物語を主観的に語り、アニくん視点が客観的に見せる役割分担していることも特徴的ですね。両者が並ぶことで物語がより鮮明になる。この構造にも目を奪われました。
夏に終わることが定められたふたりの物語、エンディングが気になります!
(「忘れがたし夏の恋」4選/文=髙橋剛)