理想の一日を考える

下東 良雄

二〇二五年一月二十四日

 理想の一日――


 それってどんな一日だろうか。

 安くて美味いランチの店を見つけた一日?

 旅に出ていい温泉に巡り合った一日?

 綺麗な女性と一杯呑んだ一日?

 そんなことを考えながら眠りについた。


 午前四時、起床。

 今日は出勤日(週二回出社、残りは在宅)。

 冷たい水で顔を洗い、歯を磨く。

 自然解凍OKの冷凍食品を弁当箱に詰める。おっ、まだ冷凍塩サバがまだ残ってた。好きなので、忘れずに詰めた。

 パックのご飯、ふりかけ、アウトドア用のカトラリーと一緒にランチラッパーで包む。今日もお昼が楽しみだ。


 午前四時半、出発。

 バックパックに弁当とノートパソコン二台、諸々の機材を詰めて駅へ向かった。日も昇っておらず、暗い中をちんたら歩く。ヘッドフォンからは、重厚なギターリフが目覚まし代わりに鼓膜を震わせていた。


 午前五時過ぎ。

 始発電車が駅のホームに滑り込んでくる。やった、座れた。いつもは埋まっているけど、いやはやラッキー。日頃の行いは良くないけど、こんなこともある。会社の最寄り駅まで居眠りに耽った。


 午前六時半。

 オフィスで業務開始。各種システムの稼働状況をチェック。特に問題なし。良き良き。全部再起動だけしておくか。

 空いた時間は、日々のルーチンワークを前倒しで対応。ガシガシとキーボードを叩く。早朝出勤はこれができるから良い。


 午前八時。

 出勤してきた会長に声を掛けられる。役員会議室に設置されたWEB会議の機材が壊れたらしく、どうにかしてくれと。九時からWEB会議らしい。いや、前日のうちに秘書に言いなさいな。私の担当ではないけど、急ぎ実機を確認。機材の再起動とライセンスの再認証で直る。故障じゃなくて良かった。

 対応のお礼だと、小分けされたキットカットを三つもらう。下東はこんなんで大喜びする安上がりな男です。


 午前十時。

上長「(某大手IT企業)の仕様変更で、VM仮想環境が使えなくなるかも」

下東「はぁ? マジですか。解決策は?」

上長「OSのバージョンアップ」

下東「俺、念の為最新バージョンのマスターも作ってありますよ」

上長「おぉ、エラい!」

下東「仕様変更はいつです?」

上長「三月から」

下東「じゃあ、二月頭の月例メンテナンスで対応……あと二週間しか……」

上長「ユーザー周知、どうすっか……」

下東「VM仮想環境の利用ユーザー、五百人以上いますよ……」

上長「…………」

下東「とりあえず、スケジュールと対応策の叩き台作ります」

上長「おぅ、頼んだ。午後イチの会議で使うからよろしく」

下東「うぃっす(面倒だったけど、準備しておいてラッキーだったわ……)」


 正午。

「下東さん、行ってくるね」

「はーい、いってらっしゃい。ごゆっくり」

 同僚のみんながランチに行くのを見送って、私はランチョンマット広げて、お弁当をパクパク。サバの塩焼き、美味しい。

 同僚が旅行のお土産をくれた。抹茶のミニケーキ。キットカットもあるし、今日はデザートが充実しているなぁ。幸せ。


 午後三時。

 RPA(業務自動処理プログラム)を動かすVM仮想環境の構築がうまくいかず、打ち合わせ。話し合っていく中で、原因が見えてきた。SYSPREP一般化処理プログラムでエラーが起きていた。原因さえ分かれば対応できる。

 問題クリア! WEB会議は便利だけど、お互いに顔を合わすと話が早くていいね。今日は定時で帰れそうだ。


 午後七時。

 ターミナル駅で特急を一本見送った。駅の改札前のコンビニで缶ビールを買って、大きな公園で一杯。近くの繁華街で呑んでもいいんだけど、インバウンド客だらけで落ち着かん。公園のベンチで、寒さに震えながらのビールも乙なもんだ。


 午後八時半。

 帰り道、自宅マンション近くのスーパーで買い物。帰りの電車の中でスマホにメモしておいたモノをカゴに入れていく。夕飯は半額シール付きの鉄火丼。量が心許ないので、お刺身売場をウロウロ。三割引のミニ五種盛りを手にしたら、店員さんに声を掛けられて、半額シールを貼ってくれた。マジ感謝です。


 午後九時半。

 ご飯を食べている間にお風呂を沸かす。

 司法書士の先生から封書が届いていた。例の件もこれで対応完了。長かったけど、これで重い荷物を下ろすことができた。週明けにでも経費を振り込もう。

 拙作「シアワセノカタチ」の状況を確認。二ヶ月弱の連載。今日、無事に完結を迎えることができた。色々と稚拙な内容ではあったのかもしれないけど、本当にたくさんの読者様に支えていただいた作品だと思う。すべての読者様に心から感謝。中間選考、通過できるといいな。


 午後十時。

 浴室にスマホを持ち込んで、YouTubeで「玉ちゃんねる」を見ながら、湯船でホッと一息。極楽、極楽。


 ふと考えを巡らせる――


 今日は一日、何事もなく、色々ラッキーなことがあったり、カクヨムでも良いことがあった。

 なんか、理想の一日ってこういう日を言うのかな。

 理想なんだから、夢のような一日を思い描いても良いのだと思うけど、私にとってはこんなストレスの無い日々が続くのが最高だし、これが理想みたいなものなのかなと。クソみたいな人生を送る中で、キラキラとした華やいだ生活を送った経験なんかないけど、住むところがあって、食うに困ることもない。好きなことやって生きているんだから、これでいい。いや、向上心が無いだけだな。だから出世もしなけりゃ、田舎のマンションで満足しているんだろう。

 なんか情けなくなって、湯船のお湯で顔を何度も洗った。


 明日も理想の一日でありますように――



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