⑫亜雲の白魔法使い(その②)
白魔法使いは、陣営の中央に築かれた祭壇の上に立っていた。
発光する鉱石の彫刻が祭壇を囲んでいる。彫刻はかつて亜雲人たちの人格統合を試みた異星人たちの個体識別器官(異星人たちは、それぞれの個体で固有の在り方をする器官を持っていた。異星人たちにとって、この器官の在り方そのものがその個体の名であり、自己同一性であった)を模している。上空には魔法使いたちが配置した無数の火球が浮かんでいる。この魔法星で急速に進む寒冷化から陣営を守っているのだ。
白魔法使いは祭壇の上からワタシを見下ろした。
「ソナタ、名を申しなさいな」白魔法使いが言った。水晶の杖を突いている。
「ワタシは、火の子供です。名はありません」
「そうでしょう、そうでしょうとも。なにせ名というものは神によって力ある魔法使いにのみ与えられるのですから。ワタクシのように」
祭壇を囲む他の魔法使いたちは羨望の意思を白魔法使いに向けている。
「ソナタは先ほどの戦いで大きな功を上げたと聞きました。その褒美に、ワタクシの白魔法に俗することを許可します」
「ありがたき幸せ」
白魔法使いが行使した白魔法は、ごく低度の白魔法だった。写像したワタシの亜雲人の肉体は束の間、四次元に拡張(写像)され、元に戻された。
「どうですか。どうですか、と聞くまでもないですね。素晴らしいでしょう。実に素晴らしいでしょう。ワタクシの白魔法は、実に素晴らしいでしょう。言葉にすることもできないでしょう。ワタクシの魔法に俗したモノは皆、オノレがどれほど矮小な存在であるかを、世界がどれほど広大であるかを悟るのです。さあ、悟ったでしょう。ソナタも悟ったでしょう、世界の無限性を。この有限に見える世界の真の姿を見て、悟ったことでしょう」
ワタシは現在、ワタシを三次元に写像しているだけである。そのため、たとえ四次元に拡張(写像)されたとしても、その無限性を感覚することはないのだ。四次元に拡張(写像)されることにより無限性を感覚するのは三(またはそれ以下の)次元上に在る存在だけである。
「ありがとうございました。ワタシはアナタに感謝を申し上げます。アナタの白魔法に感謝します」三次元魔法星においては、低度であっても白魔法が現れることは極めて貴重である。
「ウゥーン、きもちいい。ヤッパリ、下位の存在がワタクシに向ける畏敬の念、崇拝の念はとってもきもちいい」
白魔法使いが水晶の杖を掲げると、周りの魔法使いたちは跪き、賛美の言葉を斉唱した。
アナタこわれている。 @oeee
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