⑪諸宇宙の大統一仮説

 カレらがワタシのもとにやって来たときには、カレらはすでに完全なる重複状態にあった。

「ワレワレは**(意味:多色)世界を代表してやってまいりました」使者の一人(重複状態であるので厳密には単なる一人ではなく、「意味的には複数人である一人」である)が発語した。

「アナタたちの世界が重複状態に陥った理由を教えてください」

「ワレワレの世界は、大統一仮説に基づき諸宇宙の大統一を試みたのです。つまりワレワレは真に一なるものになろうと試みたのです」

 大統一仮説は多色世界の知的生命のほとんどが信奉している思想である。宇宙を統一することで、「真に一なるもの」になることを最上の目的としている。大統一仮説と同様の思想は他の世界にも存在し、数多くの宇宙国家が試みてきたものの、いまだ実証されたことはない。

「しかも、アナタたちは諸宇宙の大統一、と言いましたね。すなわちアナタ方は、いままでどの知的生命も試みたことがない、一個の世界の大統一を試みたのです」

「左様でございます」重複状態の使者が発語した。「真に一なるものに至るためには、すべてを一つにすることが必要なのです。すべて、とはすなわち世界。よってワレワレは世界の大統一を試みたのです」

「なるほど、だからです。だからです。だから、アナタたちは失敗しました」

 ワタシが言うと、カレらは怒り、体表の温度を上昇させた。使者の一人が言った。

「ワ、ワレワレが間違っていると!? ワレワレの大統一仮説が、間違っていると!? 心外ですな。心外ですなそれは! ****(これは多色世界人特有の発語で、自身に向けて発語している。いわゆる独り言である。この発語は発語者自身にのみ理解できるという概念を有している。つまり、この発語が例えば「心外だ」というような意味を持っていたとしても、カレ以外の存在は決してその意味を理解することはできない)

 ワタシはカレらに同情した。

「アナタたちは間違ったのです。大統一とはすなわち真に一なるものの実現でありますがしかし、真に一なるものとは、全てを大統一することであり、全ての大統一とは、諸世界、全世界の大統一であるわけなのです。アナタたちはたった一つの世界を大統一することで真に一なるものに至ろうとしたわけですがそれでは圧倒的に不足しているわけですよ。だからアナタたちは失敗したのです。不足しているがゆえに、不足する世界を補おうとし、重複状態が発生したのです。しかし、アナタたちは「全て」の内容物の一部であるわけですから、どれだけ重複しようと「全て」の全てにはなりえないのです。つまり、アナタたちが大統一をやめない限り、アナタたちは無限に重複していくでしょう」

「ナニィ!?」「ワレワレの」「大統一仮説が」「間違っているゥ!?」使者たちは無限に重複しながら発狂を始めた。重複が無限に近づくため、可算性を失いつつあるのだ。またカレらは多色世界によって定義されている。すなわち多色世界も同様に可算性を失いつつあるということである。

「一なるものに」「ワレワレは一なるものに」「大統一仮説」「ワレワレの真理」

「アナタたちはもはや、何らかの思想を信仰できるような状態ではなくなりました」

「わわワワヮヮ」

 無限の重複により、使者たちの可算性が完全に失われた。カレらは可算性の喪失に耐え切れず崩壊した。

 多色世界は不可算世界となったのである。

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