考えさせられるテーマ性のある、非常によく練り込まれた作品でした。
本作では、「異常な頻度で事故が起こり、次々と人命が失われて行く町」が舞台となっています。
主人公は事故が多い代わりに殺人事件などが起こらなくなったことを知り、何かの因果関係があるのかと疑うようになる。
この作品の面白いところは、物語がただのミステリーでは終わらないところです。
命の保証、命の重さ。そういう世の中では「当たり前」になっているはずのこと。それが揺らいだ時、人々の意識にはどんな「変化」が起こるのか。
そうした基盤の揺らぎを作ることにより、社会がまったく異なる顔を見せるようになる。
本作はそうしたシミュレート的、同時に社会風刺的な側面を持ち、ただ謎の答えを追うだけの大多数の作品とは一線を画するクオリティを引き出しています。
謎の現象を追いかけるサスペンス性。それに伴う社会の変化から読み取られるメッセージ性やテーマ性。
読んだ後に強く読者の心に残り続けるような、強い存在感を持った作品でした。