スケルトンなボクは君にテイムされたい
うなぎ358
スケルトンなボクは君にテイムされたい
ここはダンジョンの最下層。人間にとってSS級の魔物達が沢山いる危険な場所。
なんだけどボクはここが大好きだ。
だってボクは、このダンジョンで産まれた猫スケルトンだからね。
「ねー。ねー。爺ちゃん今日も外の話してよ」
「おぉ、おぉ、いいぞ。今日はどんな話をするかなぁ?」
ドラゴンスケルトンの爺ちゃんは、優しくて凄く強い。最下層は爺ちゃんとボクしかいないけど、爺ちゃんの身体がデカイから部屋の半分くらいは、爺ちゃんの身体でうまってる。なんだか狭そうだ。
「人間の話が聞きたい」
「カッ! カッ! カッ! ニャーは本当に人間の事が好きだなぁ」
顎骨を大きく開けて楽しそうに笑いながら、太い骨の尻尾を床にバシンバシンと叩きつけた。砂埃がモワッと舞い上がる。
「うん! 人間も気になるけど、外の世界も見てみたいんだ!」
「では今日は七百年前に初めて、最下層までやってきた冒険者達の話をしてやろうかなぁ」
「え!? 人間がここまで来たことあるの?」
「儂が生きてきた五千九百年の間で、たった一度だけだがなぁ」
「うわぁ! その人間強かったんだねー」
「あぁ、さすが七十七階層まで降りてきただけあって根性があったなぁ。儂には敵わんかったが、その意気込みと覚悟は素晴らしいものだったなぁ」
「それでその人間達、殺しちゃったの?」
「いや、殺してしまうには惜しい人間だったのでなぁ。ズタボロにしてからダンジョンの入り口まで吹っ飛ばしてやったわ」
「爺ちゃんかっこいいー!」
誇らしげな爺ちゃんは、やっぱりボクの自慢だ。ちなみにダンジョンボスである爺ちゃんは、人間達からはSSS級魔物とされて攻略不可能と言われてるみたい。だからそんな爺ちゃんに認められて生きたまま、外に出してもらえる人間も凄いと思う。
ますます地上への興味が膨らむ。
「ニャーは地上に行ってみたいのだろう?」
「うん! でもボクは爺ちゃんみたいに強くないからダメなんだよね……」
猫スケルトンはSランク魔物で珍しいみたいだけど、ボクは引っ掻きと尻尾鞭くらいしか攻撃スキルは持っていない。
「カッ! カッ! カッ! そんなことか。スキルや強さなど、どうにでもしてやる」
「え!? どうにかなるの?」
「儂が力になってやる」
「一緒に行ってくれるの?」
「ニャーよ。近くに来い」
「う、うん」
近づくと爺ちゃんのゴツゴツした逞しい前脚の骨が、ボクの頭を優しく撫でてくれる。そしてゆっくりじわじわと、温かい爺ちゃんの魔力がボクに流れ込んでくる。
「爺ちゃん! これ以上、魔力をボクに流したらダメだよ!!」
「カッ! カッ! カッ! 儂は長く生きすぎた。人間共もここまでくる者もいないだろう。だがここにとどまり続けるのにも飽きた」
「やめて! 爺ちゃん! ボクもう外に行きたいなんて言わない! だから!!」
「泣くな。儂は死ぬわけじゃない。ニャーと一緒に生きていくんだぁ……」
「爺ちゃん、爺ちゃん、爺ちゃん……」
「……一緒に……旅を……しよう……なぁ……」
部屋の半分はあった爺ちゃんの身体は、青白い光の粒子に変わり、ボクの身体に吸い込まれていく。同時に数えきれないくらいのスキルと強さが身に宿るのを感じた。
目玉が無く、がらんどうなはずの眼から、ほろほろと雫が床に落ちていく。
爺ちゃんの居なくなった最下層は、主を失ったからか熱を失い、ひんやりとした石畳と巨大な石扉があるだけの寒い部屋へと変貌した。
しばらく床にうずくまっていたけど、前脚で涙を拭って立ち上がる。
「泣いてちゃ爺ちゃんに怒られちゃうよね」
扉を開いて走りだした。
魔物達をすり抜け、冒険者達もすり抜け、ひたすら猛スピードで一気に地上を目指す。爺ちゃんのスキル超加速のおかげで、まったく疲れない。
道の先に光が差し込むのが見える。
ついにダンジョンの入り口が見えてきたようだ。
ダンジョンを飛び出すと、あまりの眩しさにクラクラしてしまう。
走りながら上を見上げる。
空は透きとおる青、ギラギラ輝きを放つ暑い光の塊は太陽。
「爺ちゃんの言ってたとおりだ!」
ひとり呟くと、まるで爺ちゃんが返事をするかのように、胸のあたりがトクンと震える。
「一緒にいてくれてるんだね。爺ちゃん……」
ダンジョン内の埃っぽい空気とは違う、透明な新鮮な風がボクの骨の隅々を通りすぎる。
「気持ちいい!」
時折すれ違う人間と話をしてみたいけど、今は我慢。人間にとっては魔物は敵だから、攻撃されるかもしれないからだ。
草原を駆け抜け、森を抜けて、山を登っていく。
頂上までくると座りこむ。刺すように冷たい空気、辺りには降り積もったまま溶けない雪。見下ろすと今、通ってきた森や草原、そして人間達の住む家々が見える。ボクにとっては、全てが初めて見るものばかりだ。
「綺麗だなぁー!」
きっとこれが、感動って気持ちなんだと思う。骨だけの細い尻尾を、ご機嫌に揺らめかせ鼻歌まで歌う。爺ちゃんがよく歌っていたものだ。
冷たい風が吹くなか、飽きることなく地上を見下ろしていると異変に気づいた。
「あのままじゃ崖に落ちちゃう」
かなり遠くまで見渡せるボクの眼に、複数の魔物に追いかけられてる人間の姿が見えた。
今は、人間は見るだけ、接する時は慎重にと思っていた事も忘れ走り出す。
一気に風のように、まるで瞬間移動のように人間の元に駆けつけ、木々と草の生い茂る合間から様子をうかがう。
十一頭の大型一つ目四足魔物は、ギラギラ金色に光る目、鋭い牙がのぞく口元はヨダレを垂らして人間を取り囲んでいる。
「こ、来ないで!」
中央には、長い赤毛を振り乱し、白い肌は傷だらけ血が滲み、服も破れてボロボロな人間の少女が、目を閉じたまま手探りで足を、もつれさせながら後退る。
ジリジリと背後の崖に近づいていく。
「ギガァオォォー!!」
「キャァーーー……」
そして魔物が一歩踏み出した瞬間、少女が崖から落ちる。
「助ける」
草むらから飛び出し、落下する少女を猛スピードで追いかけた。
迷うことなく、少女の腰のベルトを咥える。
そして浮遊スキルで、ゆっくりと着地して地面にソッと少女を横たえた。気絶してるみたいで意識はない。
崖上を見上げると、未だに魔物が徘徊しているのが見える。
「この子から離れたりしたら、また狙われそうだよね」
でも目を覚まして、スケルトンなボクがいたら怖がらせてしまうかもしれない。
「どうしよう……」
思わずグルグルと、少女の周りを回ってしまう。
「ん……んんー……。私、生きてるの?」
悩んでいるうちに少女が目を覚まして、起き上がって辺りをキョロキョロ見渡す。けど相変わらず目は閉じられたままだ。
「ねぇ。もしかして、あなたが助けてくれたのかしら?」
なのに、しっかりボクを見ている。
「うん。危ないって思ったから」
「やっぱりそうなのね。ありがとう」
「ボクのこと、怖くないの?」
「あら、どうして?」
「ボク、魔物だよ?」
「そんなこと関係ないわ。それに助けてくれたのに怖いはずないじゃない」
少女は立ち上がってボクの前まで来ると、両膝を地面につき優しく抱きしめて「助けてくれて本当にありがとう」と、もう一度言ってくれた。
温かい少女の体温が、骨だけのボクの身体に伝わる。
「ふふふ。小さくて可愛いわね」
「ボク、可愛い? 牙も爪も鋭いし、見た目は骨だよ?」
「私は目が見えないけど、その分ね色々な事が分かるのよ。あなたは、とても綺麗だわ」
初めて出会った人間は、優しい盲目の少女。
決めた。
ボクは、この子を守る。
そして一緒に生きる。
「ボクの名前はニャー、猫スケルトンのニャーだよ。君の名前を教えて?」
「私はサアヤよ。ニャーさんよろしくね」
「うん! よろしくサアヤ」
サアヤの額にボクの鼻先を、コツンッと、くっつける。
瞬間、複雑な紋様の魔法陣が地面に浮かび上がり、オレンジ色の光が、ボクとサアヤを包み込む。
サアヤの瞼が、ゆっくり開く。グリーンの美しいキラキラ輝く瞳がボクを見つめる。
「!? 目が見えるわ! ニャーさん何をしたの!?」
「サアヤがボクの主になったんだよ」
ボクの答えに少し驚いた顔をしたけど、すぐにサアヤは、ふわりと笑って「沢山のありがとうと感謝をニャーさんに!」と、額にキスをしてくれた。従魔契約をしたからだろう。サアヤの目が見えるようになったみたいだ。
「やっぱり、ニャーさんは、とっても可愛いじゃない」
「え! あれ!? ボク人間になってる!?」
「耳と尻尾が生えてるから猫の獣人かしらね」
頭を触るとピクピク動く耳があるし、お尻を触ってみるとユラユラ動く尻尾が生えている。顔も体も弾力ある肌で覆われて骨だけじゃない。
「スケルトンじゃなくなってる!」
「ふふふ。あとこのままじゃいけないわね。ボロボロになってしまったけどコート羽織って」
着ていた服を一枚、脱ぐとボクの肩にかけてくれた。茶色のコートは所々、破れてしまってるけど十分に温かい。
「ボクって女の子だったんだ」
「知らなかったの?」
「今までスケルトンだったからね」
「ふふふ。そうなのね。スケルトンのニャーさんも見てみたかったわ」
「変幻、出来るよ?」
ぽふんっと、音を立てて猫スケルトンに姿を変えてみせた。
「ふふふ! 思ったとおり可愛いわ」
「もふもふじゃ無いのに?」
「ニャーさんの魂そのものが綺麗で可愛いの。だからどんな姿でもかまわないし、私には可愛いと思えるわ」
スケスケの骨なボクを、ふわりとまるで壊れ物を扱うように抱きしめてくれる。その腕に頭を、こすりつけると撫でてくれた。爺ちゃんのゴツゴツの手とは違い、柔らかな手だ。
「サアヤありがと! ボク、嬉しい!」
優しく温かい光のようなサアヤと一緒にいたいと、心から願ってしまった。
だけど同時に、ダンジョンにいた時、爺ちゃんと二人で過ごした優しい日々も忘れることはない。と、思った。
スケルトンなボクは君にテイムされたい うなぎ358 @taltupuriunagitilyann
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