第5話

散々秀をいじり倒し、食いたい物を食べ、冴島は立ち上がった。



「そろそろ、行こうかな」



……俺の休憩、こいつの世話かよ?!



「あ、和泉。ストラックアウトしてよ」



体育館に行く途中、冴島が思い出した様に言う。



「あー、良いけど……。なんでだよ?」



冴島が俯いた後、顔を上げる。


「最後に、和泉のかっこいいところ見ておこうかな、って」




その顔は多分、今日見た冴島の中で一番、俺をドキッとさせた。




「……じゃあ、行くか」



野球部の教室に戻り、ウサからボールの籠をもらう。



「あれ、先輩。どーしたんですか?

まだ休憩、終わってないですよ?」


「ウサ、悪いんだけど少し席を外してくれない?」


「……分かりました」



ウサが立ち上がり、俺はボールを投げた。



「ねぇ、和泉」



三番と、八番を抜く。



「なに?」



一番を抜いた。


二番と九番を冴島が黙っている間に抜く。




俺、これでも野球歴10年以上だからな。



「私さ、アメリカに留学する」




七番が抜けた。



「……いつ、帰ってくる?」



冴島を見たら笑っていた。




「当分、帰ってこないかも」




その声はなぜか透き通っていて。



「11月に出発。だから、まだまだだよ」



四番と五番を抜いた。




「まだまだって……、再来月じゃん。

彼氏は知ってんのかよ?」


「まだ和泉にしか言ってない。

家族と和泉しか知らない」


「……そうか」



冴島が鞄を持って立ち上がる。



「じゃ、映画、終わるからさ。もう行くね」



もしかしてこいつ、今日で俺と会うの最後のつもりか?



「この前のメールなんだったんだよ。

男といて泣いてたって大澤が言ってたんだけど」



そしたら俺も聞かなくちゃいけないことがいくつもあるんだよ。



「じゃあ、ばいばい!」


冴島は何も答えずに笑って、教室を出ていった。



だけど俺はそれを追い掛けるような立場じゃない。



「……冴島、」



あっという間に教室から出ていってしまう冴島が、なんだか違う人みたいだった。




高校に行って冴島と離れて、それでも、いなくなるとは思っていなかった。


だけどさすがに国境またがれたら、俺だって別れを感じる。




「……先輩?」


「ウサー、休憩行っていいぞ。

ヤマトナデシコ決定戦しっかり見てこい」



ウサは軽く返事をして中庭に行った。


もしかして、あいつはもう、とっくに俺との別れを感じてたのかな。




最後の一球、投げたけど六番には当たらず、ボードには6の数字だけがさみしげに残った。






2010.03.24

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No.6 斗花 @touka_lalala

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