第三十五話 固守、ガウゼン市

「攻撃要請!陣地北東、マンティコアβが何体も来てます!」


Hホテル-1了解、攻撃に移る」


俺はゆっくりと操縦桿を倒し、照準器にマンティコアを収める

飛ぶだけなら簡単だが、攻撃させるとなると細かい操縦が効きにくい


縦に薙ぎ払う様にロケットを何度か斉射すると、マンティコアの群れは爆炎と土煙に包まれ、それが晴れる間も無くヘリを上空から退避させる


「命中!命中!支援に感謝する!」


ヘリは敵の進軍ルートを囲む様に旋回しつつガンナーが撃ち、支援に応じてロケットを叩き込んでいる

ロケットの残弾は30発ほど、機関銃80mmロケット弾のリップル射撃は、頑強なマンティコアβを容易に破砕するだけの威力があった

12.7mm機関銃とPK機関銃も地上の歩兵を次々と殺傷するも、攻撃は止まることを知らない


「デュース、操縦を預ける。攻撃を続行しろ」


「預かりました、了解です」


ロケットの残弾は30発ほど、機関銃弾も多くはない

次の着陸で補給に入り、別のヘリを召喚しなければ、処理能力が飽和しかねない


「ロケットの残弾無し、どうしますか?」


「南下してヘリを着陸させよう。補給後、こいつの操縦はデュース、コパイをダルトンに任せる。カヤは俺についてこい」


「了解」


最後の機銃掃射を終えた後に、デュースの操縦でヘリをグッと南下させる

着陸してすぐにカヤを連れてヘリを降りると、1分ほどでMi-8のロケットを再装填し、機関銃をチェックしてから、すぐに戦場へ蜻蛉返りさせた


「カヤ、ガンナーを頼む。マニュアルは?」


「こんなこったろうて、事前に読んどきましたよ。あんまりにも唐突すぎですがね」


「しょうがない、事態が事態だ。武装はS-8ロケット40発、Ataka対戦車ミサイルATGM16発、機関砲弾250発。少し離れておけ」


俺は少し離れたところに場所を決めると、新しいヘリを召喚した

Mi-28NM Havoc、ロシア製重攻撃ヘリであり、「すみません、ハインドの新型、輸送能力抜きでください」と言ったら出てきた様な子である

4パイロンに合計20本の対戦車ミサイルを搭載できたりするが、今回はさっき言った通り16発のミサイルと40本のロケットを抱えての出撃だ


「狭っ苦しい上に視界が悪いですねぇこの子」


「守られてる感があるだろ?よし、MFDを起動してカメラを熱画像に切り替えろ。レーザーを常にスタンバイ、機関砲はそちらに任せる」


「ミサイルとロケットはそちらと。了解、準備できました」


「よし、離陸する。ここからはHホテル-1と協同するぞ」


太く重厚なフレームに囲まれたコックピットから、ゆっくりと地上が遠ざかる

こうして薄緑と乳白色の体表に包まれた機械仕掛けの怪鳥は、狩場へと飛び立った



━━━━━━━━━━┫




攻撃ヘリの効果は絶大だった

陸から視界や射線の通らない地点へミサイルを叩き込み、30ミリのAPDSは機速の影響を受け威力が若干増し、上からの射撃ということもあって、敵の中核を成すマンティコアβに大きな打撃を与えていた


「マンティコアβと歩兵の小隊が陣地から北方2km地点に出現」


「機関砲とロケットで掃射する」


機動性も他のロシアヘリに比べれば良好だ、どこかのカモフのような二重回転ローターによる癖もなく、ハインドのように純粋に重いわけでもない

確かに高速域特有の癖はあるが、安定した機体だ


「ロケットを8発叩き込む!」


「機関砲で掃射します!」


S-8ロケット弾が大きな爆煙を巻き上げ、マンティコアは文字通り血煙となって消滅した

機関砲は人体を一瞬で破砕し、対空砲火に晒されることのないその空飛ぶ砲兵は存分に火力を振るう。効果を判定し、攻撃を終えた機体を再び陣地上空へと差し向けた


「戦闘もだいぶ落ち着いたか」


機を傾け、コックピットの側面から高地を見下ろす


「少なくない損害ですが、陣地は固守しました」


「装甲車両はいい、問題は人だ。人が足りなきゃ戦車も何も鉄屑同然だぞ」


見下ろした先、陣地は過酷な攻勢に晒され惨憺たる様相を呈していた

BMP-3は1両が完全に撃破され、T-72B1も2両を損失、2両が大破と見える


「周辺に敵影は?」


「認められません。市街地の方も……見える範囲にはいません」


「一旦は凌いだか。とりあえず……燃料弾薬の補給と休息のためにH-1と共に降りて……そのあとは部隊の再編に、補充……クソ、色々と面倒だ。敵の第二波にも備える必要があるし……」


部隊の損耗具合にもよるが、どのみち第6中隊戦闘団はカザンの2個中隊と交代させる必要があるだろう。この調子で前線に拘束し続けてしまえば士気崩壊を起こしかねない


「負傷者はガウゼン市内に輸送、保護してヘリでカザンに後送だな。あの規模の攻勢で馬鹿みたいにコストも溜まったし、ガウゼンを前進拠点として確保、要塞化して……」


「後退するのも手だとは思いますが……」


「一考の余地はある。だが俺たちがカザン正面とこの都市を抑えることで少なくない数が帝国軍への攻勢から割く必要が生まれ、下手な攻勢作戦よりも大きな戦果をあげているらしい。ここで後退することは帝国軍に予期しない損害を与えかねない」


「実質的な死守命令、という事ですか」


「どの道そうだ。ともかく、早急に戦力を補充する手段を確立しなきゃ後退もままならない」


「現状ガウゼン市における神聖国軍の壊滅は確認できています。帝国軍からの命令自体は達成しているんですから、即座の撤退も可能だったはずです」


「ああ、風の前の塵も同然な”難民”達を見捨てればな。3000人を見捨てれば、俺達は今よりもっと少ない損害でカザンに帰還していただろうな」


「……それができないと?」


「ああ。パルチザンを構成する人員のほぼ全てが難民だった者だ。そんな彼らを前にして『難民は見捨てて帰りましょう』なんて言ってみろ、指揮官としてに全てを失う。それに、折角協力的な難民を3000人も見つけたんだ。有効活用しない手はない」


「そっちが、本音ですか?」


「どっちもだ」



━━━━━━━━━━┫



神聖国軍の攻勢を跳ね除けた数時間後、俺はガウゼン市内に構えた戦闘団本部で事務作業に当たっていた。幸いにも戦闘団の本部人員は健在だったので、滞りなく行えている


は」


「IFV2両と戦車1両、トラック4台とBM-21を3両損失、重機関銃4基、軽機6丁、迫撃砲1。人員は戦死27、重傷63。軽傷者はほぼ全員です」


「2個小隊が壊滅か。中隊戦闘団としては全滅手前だな」


「補充はどうされますか」


「補充というか、第6中隊戦闘団は順次、第3 第4 第5自動車化狙撃兵中隊と交代させる」


「交代ですか。どれに3個中隊というと500人弱、大隊に迫りますね」


「ああ。輸送手段だが、安牌を取って空輸にする。Mi-8AMTSh-VNを新たに3機、Mi-28NMを1機召喚する。それで、まずは戦死者を……どうするべきだ?」


「と、言いますと」


「亡骸をそのまま後送するか、こっちで葬ってしまうべきか」


「私としては、こちらで火葬と簡易的なセレモニーを行ったのちに、遺骨と遺品をヘリで後送するべきかと」


「文化的に火葬がタブーとかはないか?なまじ多文化なだけに、そこらへんは妙にシビアでな」


「おおよそどこの文化圏でも、火葬が望ましいですね。土葬ではリビングデット生ける屍になるかもしれないですし。もっとも、土壌の魔素が枯渇しすぎてその心配はなさそうですがね」


「じゃあそうだな、戦死者の火葬については任せていいか。なんともこっちの文化には疎い、セレモニーがあれば参列する」


「了解です。そうだ団長、工兵の分隊長がお話ししたいと」


「わかった、下がっていいぞ」


「失礼します」


そう言って彼女が天幕から出るのと入れ替わるように、新しい者が入ってきた


「第3工兵分隊のダッツです。ヴィクター団長、お時間よろしいですか」


「ああ、問題ない」


彼女は戦闘装備に6B49バラクラバという半分特殊部隊のような格好をしている

おおよそ戦闘工兵とは思えないが、工兵のようなより危険な兵士には好まれている


「ありがとうございます。今回お伺いしたのは、先の攻防で主攻勢を受けた高地のについてです」


「手酷くやられていた。具体的にはどうしたい」


「ガウゼン市の守りを固めるため、高地をはじめに全周囲へ、ДОТトーチカを建設します」




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