ロボットと人間

西悠歌

第1話

「ロボットに求められるのは外形かな? それとも性能なのかな?」

 答えを求めるわけでもなく僕はそう呟いた。友達の友達と、友達と、親友と僕の四人で科学館に来ていたときのことだ。


 はじめに、すぐ前にいた友達の友達が反応した。

「俺的には外形大事だと思うな。見た目よくないと誰も選ばねえだろ? まあルッキズムっぽくはなるけどさ」

「なるほど」

「やっぱ第一印象って大事だから。手軽なのは見た目じゃね?」


「いやでもさあ、」


 唐突に友達が割って入ってきた。僕たちの話が聞こえていたらしい。

「俺は性能のほうが求められてると思う」

「何でだよ」

 友達の友達が絡むように言う。友達はそれをスルーして、何となく僕の方を見る。館内の薄暗い照明に顔が透けて見える。


「だって見かけ倒しじゃどうしようもないだろ? 上げて落とすぐらいなら中身の方が良いくらいで丁度いいと思うけど」

「おー、なんか頭良さそうに聞こえる」

「黙れ」

「嫌だ」



 掛け合いのようなテンポ感で会話しながら前に進んでいく二人を親友と並んで眺める形になる。

「楽しそうだね」

「……どっちも大事だけど、どっちもなくても問題じゃない」


 親友が突然そう言った。少しして先ほどの答えだと分かる。それと同時に彼が僕を見た。僕にも彼の目が見えていた。

「君は人間だ。ロボットとは違う」


「うん」

 僕はなるべく軽く頷く。そんな事は分かってるよ、そんな事は気にすることじゃないよという思いを込めて。


「だから外形とか性能とかって言葉も使わないでほしい」

「じゃあルックスとスペックとか?」

 わざとグレーゾーンを選ぶ。こうすると親友が困ったような顔をするからだ。僕はその顔を見るのが楽しくてたまらない。


「外見と才能、くらいかな」

 慎重に言葉を並べるような調子で彼は言う。


「君は自分が外見に突出したところがないし才能はどの分野においても皆無だと思っているかもしれない。でもそんなことはないんだよ。誰がなんと言おうとそんなことは無い。君に足りないのはまともな感情と人間性だけだ。それのどこが悪いって言うんだ」

 静かに怒りを放つような温度で彼は言う。彼の頭の中にはきっと、僕の悪口を言った人たちの顔が浮かんでいる。



「普通そうは考えないだろ。頭おかしいんじゃないの?」

 普通ってなんだよ。

「人の気持ちが分からないんでしょ? だからそんなこと言うんだよね」

 人の気持ちなんて分かるわけがない。

「そういうの、人としてどうかと思う」

 じゃあいいよ。人じゃなくても。



 僕の頭の中にも彼らはいる。いつまでもいつまでも凍ったような目でこちらを見ている。まるで僕みたいな目で、こちらを見ている。


 でも。


「そんな人間に優しくする必要はないよ。いつも言ってるだろ? 僕のことなんて早々に切り捨てて幸せな人生を送ってほしいって。……それのどこが悪いって言うんだ?」


 彼は黙り込む。優しい彼は僕の言葉にむやみに同調して誰かを悪く言うことも、反論して僕を攻撃することも絶対にしない。こういう人間だから僕は彼に早く自由になってほしいと思っている。


「俺がこんな感じなのは昔からだ。君のせいじゃない」

 ああ、それは僕が言いたい言葉だ。

「だから君が俺の行動を気にする必要なんてない」

 それも僕のセリフだ。


「俺は君がこれ以上傷つきに行くのをやめさせたい。なんとしてでも止めたい。それで、普通の幸せをつかんでほしい」

 ……どうして彼はこう。


「僕の言葉、取るなよ」

 その声は多分、少し不機嫌で不貞腐れたような声だったのだろう。


 彼が心底嬉しそうに笑った。

「ほらやっぱり人間だ」

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ロボットと人間 西悠歌 @nishiyuuka

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