そして私は骨になった

ノノ

第1話

 私は死んだ。享年16歳だった。

 そして、骨になったのだ。


 そう、に。


「なんで、骸骨がいこつなのーーーー!?」


 道のど真ん中で思いの丈を叫ぶが、誰1人として振り向く人はいない。

 それはそう。だって、私は幽霊なんだから。


「でもさー、幽霊って普通、死んだ時の姿じゃん。よりによって、なんで骸骨なのよ」

 つるっとした頭を撫でて「全然可愛くないし」と口を尖らせた(つもり)。


「せっかく幽霊になったんだから、生前できなかったおしゃれしたりとか、遊びに行ったりとかしたかったのに。この格好じゃなぁ……」


 唯一身に着けている水色のワンピースの裾を、ピラピラと持ち上げる。

 ビルのガラスを鏡代わりにしようとしたけれど、残念ながら映らなかった。最期の思い出に、とお母さんが買ってくれたワンピース。骸骨姿じゃ似合わないだろうから、映らなくてよかったのかもしれない。


「どうしよっかなー」

 青い空を見上げる。病院の窓から眺める小さな枠じゃなくて、大きくて広い空。なんだか気分が上がってきた。


「よし!まずはお散歩ね」

 こんないい日に歩かない手はない。入院していた時期が長いので、道に詳しくはないけれど、逆に冒険みたいでワクワクする。

 私は自然とスキップをしていた。骸骨だから体が軽い。骨がガッシャン ガッシャンなるけど気にしない、気にしない♪


「あ!公園じゃーん」

 小さな公園を見つけた。公園なんていつぶりだろう。懐かしくなって、思わず走り出す。


「ひゃーきっもちいいー!!」

 すべり台を滑り、ブランコを思い切り漕ぐ。


「ママー!ブランコゆれてるー」

 目の前には私を指差す男の子。

「やっほー」

 声をかけてみるけれど、男の子は不思議そうに、揺れるブランコを見つめるだけだった。

「べろべろばぁ~」

「だれかのってるのー?」

 渾身の変顔をスルーされた。残念。

「ええ!?……か、風よ、風!」

 男の子のママは青ざめた顔で、急いで手を引いて行ってしまった。

 

「ちぇー、気づいてもらえないの寂しいなぁ」

 コツン、と石ころを蹴る。コロコロと転がって行った先にいたのは――


 犬だった。


「ワン!」と私を見て鳴いた。うん、鳴いたよね。

「ワンちゃん~!!キミ見えるの?やっぱり動物って霊感あるだね~」

 私は嬉しくなって、わしゃわしゃと犬の頭を撫でた。赤いバンダナを首に巻いている柴犬だ。もっちりとしたほっぺがかわいらしい。

「いいこ、いいこ~」


かぷっ


「あー!!私の親指ー!!」


 犬は私の左手の親指の骨を咥えて走って行く。


「待って、待って!返して、私の指ー!!」

 ガッシャン ガッシャン追いかける。

 あぁ、疲れ知らずの体ってなんて素晴らしい!――とか思ってる場合じゃなかった。


 犬はある1軒の家の前で、ようやく立ち止まってくれた。

「やっと止まったよー。さ、返して」

 私は親指の欠けた左手を出した。


「ワン!」

 吠えた拍子に親指がポトリと落ちた。それを拾って「骨ってどうやってくっつけるんだっけ?」と首を傾げる。


 そのとき「ふ、うぇ、うえーん」と、小さな子の泣く声が聞こえてきた。私はとりあえず骨をグリグリ押し込んでから、庭を覗く。

 女の子が横たわった犬の前で泣いていた。

「ほら、もう泣かないの」

 隣のお母さんと思われる女性が女の子の肩を抱いた。

 しゃがみこむ女の子。犬が駆け寄り、そのほっぺを舐めた。


「キミ……」

 横たわっている柴犬の首には赤いバンダナ。

 そっか、キミも幽霊だったんだね。


 犬は「ワン!」と吠えると、女の子の回りをクルクルと回る。女の子はそれに気づかない。

 私は「うーん」と考えてから、『なかないで』と地面に書いた。

 女の子は目をぱちくりとさせて固まった。ビックリして涙は引っ込んだようだ。

「ママ、これ――」隣のママの服を引っ張る。


「わ、また怖がらせちゃうかも」

 慌てて字を消そうとした手を、犬がパクッと咥えた。

「あー!私の右手!!」


「……ポン太が心配してるみたいよ。笑顔で見送りましょ」

 女の子のママは私の心配をよそに、女の子を優しく撫でた。

 怖がらないでくれてよかった。

 女の子は横たわっている犬、ポン太の頭を撫でると「うん」と目をこすって頷いた。


「よかった、よかった。さ、じゃあ骨、返して?」

 私の右手を咥えたままのポン太を見る。

 ポン太はきゅるんとした愛くるしい瞳で私を見上げると、元気よく走り出した。


「ちょ、ちょっと返してってば!私の骨ーーーー!!」


 こうして、私とポン太の輪廻転生の旅は始まったのだった。


(つづきません)

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