肉を食らって骨も砕く! 手羽先好きの大上さんは送り狼

ムタムッタ

大上さんは狙った獲物を逃さない


 手羽先てばさき──


 鶏の翼のつけ根以外の部位をそう呼ぶ。骨の周りにある肉を食べることが一般的であり、中部地方でよく見られるメニュー。中部で『手羽先』と呼ぶ場合、単なる肉の部位ではなく、『手羽先唐揚げ』のことを、この名称で呼ぶことが多い。


 香辛料で下拵えされ、高温の油で揚げられた手羽先は、気づけば何個も食べられてしまう美味しさ。食べ方にはちょっとコツがあって、よほど顎に自信がなければ、骨を包む部分である手羽中をしゃぶるように食べる……はず。骨は事前に分離させるか肉を食んで取り出してから、器へ入れておくのが普通。


 普通なら、である。


「んぅ〜やっぱり手羽は骨ごとだよね! すみませーん、手羽先おかわり〜!」


 肉に付いていた骨をバリボリ噛み砕きながら、同級生の大上おおがみマノは5人前の手羽先唐揚げを平らげる。毎度のことながらすごい食べ方だ。


「その小顔のどこに骨を砕く力が……?」

「ふっふっふ〜、女は歯が命なのよぉ」


 歯というか顎というか……骨が喉に刺さったりしないのだろうかと心配になっちゃう。毎度眺めていてもハラハラしてしまうのは果たして庇護欲でしょうか?


「それはいいけどさ、みんな遅くない?」

「あれ、言ってなかったっけ? 今日みんなパスだって」

「初耳なんですけど?」


 マノは頭の上の両耳をピコピコ振るわせながら視線を逸らした。まぁみんな来ると言っといて予約もしてないんだから何となく察したけども。


 追加でやってきた手羽先が来るなり、マノは再び噛みつき始める。相変わらず豪快な咀嚼だ。


「狼ってのはワイルドだねぇ」


 そう言いつつ、自分は手羽先の両端を掴んで骨を出し、肉と分離させる。できるだけ肉だけ食べたいからね。


「もー骨も美味しいのにぃ」

「そんなスナック感覚で食うなよ」


 器に骨を入れる。底が隠れるくらいには食べたかな。自分の食べた分しか骨は入っていない。


「ここが美味しいのにぃ」

「じゃあ肉のとこもらうわ」

「あーうそうそ! これはソフトクリームのコーン的なやつなの」


 正直でよろしい……よろしい? いやいや、手羽先の骨はコーンじゃねぇよ。そんな口直し的なポジションじゃないのよ骨って。骨髄が上手いとかケンタのチキンの骨でスープとか言うけども、直で行って堪能しないのよ人間は。


「何か言いたげ~?」

「ホントにうまいのかなーって」

「かぁーっ! このおいしさをわからないとはキッズだねぇ」

 

 手羽先の油をビールで流し込み、マノは言う。骨食えないだけで子供呼ばわりとは……煽ってくれますな。つーかお前も同じ21歳だろうが。

 

 毎度似たような話題で盛り上がるが、結局人目を憚らず噛み砕く、マノの顎を酒の肴にするだけだ。


「……」

「どしたの?」


 ちょうど新たな手羽先を剥き終えたところで、細身の骨とにらめっこ。ちょうど酒も回ったのか、思考が緩んだ頃合いで、ヒョイとパクリ。いつもよりやや顎に力を入れて、骨を噛む。


「えぇなにしてんの?」

「かってぇなぁ……」


 高温で揚げられているとは言え、さすがは骨。肉のように噛み締められるわけではない……が、そこそこイケる。というか、普通に食べられる。


「意外と悪くない……?」

「ほほぅ、これが分かるとは通だねぇ~」


 通ではないと思うけどな。

 ツッコミの言葉をかける前に、マノは骨付きの山賊焼きにかぶりついていた。もちろん、骨にもかぶりついている。手羽先とは打って変わって激しい噛みつきっぷりだ。


「お前それ…………」

「ん? おいしいよねこれも。食べる?」

「さすがにその太さは無理っすわ……」


 新たに骨を肴に加えて、酒は進んでいった。

 腹も満たされ、空いた皿が増えたころにはすっかり夜も更けてしまっていた。


「あー食いすぎた、途中から骨も食ってたからいつもよりパンパンだわ」

「これからは骨同盟だねぇ」


 調子に乗ってバリボリ食べるもんじゃねぇなぁ。次からはまた気を付けないと…………と、時間を確認すると夜が更けるどころか終電を過ぎているではないか。


「マジかよ、帰れねぇじゃん」

「ソレハコマッタネ」


 こっちは困ってるんだがマノは棒読みでリアクション。真横からの吐息は油とアルコールの香り。ほろ酔いの匂いとは裏腹に、その眼光は鋭い。


「あの、マノさーん?」

「私ぃ、骨まで食べる人好みなんだよねぇ~」


 いつの間にか肩に手を回され、がっしり掴まれている。こちらを見る目、それはまるで……いやまるでというまでもなく獲物を狙う瞳。もしかしてほかの奴らが来なかったのはマノが仕組んでるんじゃ…………!?


「タクシー拾うか」

「こらこら、真夜中に女子を置いていくのかぁー! なれよぉ送り狼ぃ!」

「どっちかっていうと食われそうなんだけどッ!?」


 俺は逃げ出した。

 しかし回り込まれてしまった。


「いただきまーす!」


 手羽先よろしく、剥き身にされたのは言うまでもない。

 送り狼には気をつけようね!

 

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