遥か遠く、潮風と共に運ばれてきた記憶の声が、静かに胸の奥を揺らしました。語られぬ痛みと赦しの狭間で揺れる人の想いが、波のように寄せては返す情景が目に浮かびました。
無念を抱えたまま過ぎていった時間の中で、それでもなお残された者たちは、自らの罪や悔いと向き合い、静かに過去と対話する…。その姿に、ひとしずくの祈りが宿っているように感じます。
過去の重さを抱えつつも、次の世代へと手渡される「祈り」の形に、深く心を打たれました。忘れ去られることなく、土に還る命を見つめるまなざしに、言葉を超えた優しさが滲んでいるようで、読むほどに静かに沁み渡る、美しくも切ない旅路の物語でした。
私がこの物語が優れていると思うのはすっきりとしているからです。
私は戦争教育が苦手でした。戦争に賛成だからではないです。反対です。意図は十分理解できるのですが、戦争反対だという考えを「植え付ける」感覚がしたからです。私たち1人1人が自分でたどり着かないといけないのに。
加えて私達は戦争からどんどん遠ざかっています。体験した世代、両親のことだった世代、祖父母のことだった世代、そして顔も知らない先祖のこととなった世代。受け入れ難くとも事実そうなっており、それぞれに伝え方は変わってくるでしょう。
時代を経て距離が生まれて、どう伝えるのか、どう振り返るのか。私はこの物語の温度が現代では適切だと感じました。この話で完結せずにさまざま学ぶべきですが、まずは誰でもすっきり読めるこの物語は適しています。おすすめです。