骨身に染みる🍜
ジャック(JTW)🐱🐾
第1話 いい湯だな
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「極楽、極楽。極楽浄土〜まだ現世だけど〜ハンハン♪」
カチャカチャと鳴る骨。大柄な骨格を持つ喋る骨。それがオーク型スケルトン、トントンの現在の姿だ。トントンはグラグラと煮立つ大鍋に浸かって、鼻歌を歌う。そんなトントンに向かって、料理長の魔物が叫ぶ。
「トントンさん、全身しっかり浸かってくれよ〜!」
「あいよ〜」
トントンは、料理長の声に応えて、大きな鍋に全身を浸すように潜った。グラグラと煮立つお湯。生前、トントンがまだオークだったころに入っていたら、火傷では済まなかっただろう。しかし現在のトントンにとっては、心地良い温泉程度の感覚しかない。
(ただお湯に浸かってるだけでお小遣い稼ぎできてサイコ〜。ああ、スケルトン申請出しておいてよかった〜ッ!)
トントンが所属する魔王軍には、死霊使いがいる。死霊使いは、いわゆるスケルトンやゾンビなどのアンデッド系魔物を生み出す能力を持つ闇の魔法使いだ。ダークネス。
魔物が寿命や病気や事故で死んだとき、アンデッド系魔物として蘇るかどうか事前に意思表明の機会が与えられる。トントンは、その中で死後スケルトンになれるように申請書を書いておいた。死んだあとも動けるなんて寿命が増えるようでお得だと思ったからだ。
しかも、トントンのようなオーク系スケルトンには、有利な点がある。それが、多くの魔物が好む高級料理、トン骨スープの出汁係という栄誉ある仕事である。トントンの職務内容といえば、グラグラと煮立つお湯の中でしばらくたゆたっているだけ。それだけでお給料がもらえる。ビバノンノン。イェイ!
生前、ストイックなオーク戦士として節制と鍛錬を美徳として生きたトントンの出汁は、他のオーク型スケルトンのものより数倍美味しいらしい。トントンは、たっぷり張られたお湯の中で優雅に泳ぎながら歌った。
「最ッ高のセカンドライフや〜!」
「楽しそうで何よりだよ、トントンさん」
料理長は、苦笑しながらも作業の手を止めない。トントンの出汁が美味しいトン骨スープに仕上がるのも、料理長の腕があってのことだ。料理長は、トントンに神妙な顔で語りかける。
「なあ、トントンさん、いまさらだが、本当によかったのかい? アンタほどの戦士なら、生前とほとんど変わらない姿での蘇生も叶っただろうに……」
「いいのいいの、もう重い斧なんて持ちたくないから」
「そうか……」
「生前は忙しくて休む暇もなかったからさ〜。こうして温泉に浸かりながらのんびりスローライフも悪くないってね〜そいやっさ〜」
掛け声を上げたトントンは、大きな鍋の中でシンクロナイズドスイミングのように素潜りして泳ぎ始めた。
シンクロナイズドスイミングというのは、最近人間の国から入ってきた文化のひとつだ。
トントンが退屈しないように備え付けられた魔テレビで、ちょうど人間の国の映像が流れている。司会者の老齢の女性は、優しく笑みを浮かべている。
「お。司会してるのソウリョじゃん〜」
「お知り合いで?」
「うん。友達〜。元気そうでよかったよ〜」
頭まで湯に浸かりながら、トントンは生前のことをぼんやり思い出していた。寝る暇もなく働いていた世知辛い時代のことを思い出すと涙がちょちょぎれる。
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かつて、魔王軍と人間の国は対立していた。しかし人里近くで生まれ育ったトントンは知っていた。人間は悪いやつばかりではなくて、ソウリョみたいないいやつも仲良くなれるやつもいるということを。
そして生涯を掛けて魔王軍で出世し、人間との講和に尽力して、講和条約締結の立役者となった末に、トントンは過労死で力尽きた。
「トントン様ー!!! お気を確かに! 衛生兵、衛生兵ーッ!」
大の字で倒れ伏したトントン(生前)の脳裏に、人間の友達ソウリョと一緒に入った故郷の露天風呂がせつなく思い出される。休む暇もないくらい働いたトントンの願いは、今やひとつだけだった。
(休みたい……! 私は……温泉に浸かって……ゆっくり休みたいッッッ!!!)
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その願いは、叶えられた。
トントンが生前に申請した通り、死霊使いの手でアンデッド系魔物として擬似的な蘇生を施されたからだ。
トントンは、生前の屈強な肉体をばしっとどんどん捨てて、ガタイのいい骨格だけの姿で蘇った。筋肉がないので、もう生前のように斧を振り回すことはできなくなったが、全く後悔はない。
なぜならもう、本当に、もう二度と肉体労働したくなかったからである!
そしてトントンは今ここにいる。
ぐらぐらに煮立った、温かい大鍋の中に。
「あ〜あったか。温度ばっちり。さすがの調整すぎる〜」
大鍋の中で心地よさそうにくつろぐトントンの姿を見て、料理長は少しだけ手を止めて笑顔を浮かべた。
「トントンさん……いや、トントン団長が幸せそうでよかったです。スケルトン申請されたって聞いた時は、どうしたものかと思いましたが」
「驚かせてごめん。でももう団長じゃないよ〜」
「おれにとっては、永遠の団長です」
「よせや〜い」
肩までゆっくり湯船に使って、トントンは、万感の思いを込めてたゆたった。心地よさと魂の疲労が解けていく感覚に、トントンは蕩けそうな心地で、魔テレビに映る友達に向かってつぶやく。
「ああ、いい湯だなあ、ねえ、ソウリョ。またいつか会えたら、故郷の温泉に入りに行こうねえ〜……」
トントンは、魔王軍の元師団長。
そして今は、オーク型スケルトンの、トン骨スープの出汁係。
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骨身に染みる🍜 ジャック(JTW)🐱🐾 @JackTheWriter
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