化石の恋人たち

オオツキ ナツキ

悲しみは時を越えて

 一週間前に恋人と別れた私は、市内にある小さな博物館に足を運んでいた。


 近所の学校の児童だろうか。黄色い帽子をかぶった制服姿の子どもたちが施設内に散らばっている。一人の男の子は、展示してある恐竜の骨に興味津々のようで、恐竜の大きなあごを覗き込んでいた。


 博物館の目玉である恐竜の化石をあっさりと通りすぎて、あるパネルの前に私は立っていた。そこには数枚の写真と、その内容を説明する文章が載っていた。


 他の展示物と比べるといささか迫力に欠けているけれど、私はその写真から目が離せなくなっていた。


 それは『化石の恋人たち』と呼ばれる人間の化石の写真だった。


 一万年前。

 ある地方で起こった大噴火。


 噴火に巻き込まれた二人は、誰にも見つけられることなく、地中深くで眠ったままだった。二人の亡骸は、まるで抱き合っているかのように、寄り添っている状態で発掘された。


 写真にはその様子が撮られていた。


 その恋人たちの姿は、究極的な愛の形だと思った。骨だけになってしまっても、変わらない愛が存在するように感じられた。


 一週間前まで恋人だった男には、それが欠けていた。愛情はいつも一方的で、色んな方向を向いていた。


 もしも火山が噴火したとしたら、きっと私を置いて逃げてしまうような男だっただろう。


 付き合っていた数年分の時間のことを振り返ると、言葉にできない想いが込み上げてくる。

 恋人とは別れたけれど、まだ始まったばかりなのだ。目の前の写真を見て、決意を固めた。


 化石が出来る第一の条件は、死んだあと、誰にも見つけられないこと。


 だからね、私達の関係が完全に途絶えたとき、またデートをしましょう。それまでにオススメの場所を探しておくから。ゆっくりと眠れる静かな場所を。

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化石の恋人たち オオツキ ナツキ @otsuki_live

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