トリと骨せんべい

!~よたみてい書

第1話

「あぁ、また落ちてるー!」


 鳩子は頭を抱えながら叫ぶ。


 鳩子の抱っこ紐に入っているトリは、彼女の顔を心配そうに見上げる。


「もう無理しないで」

「ううん、諦めないよ」

「でも、鳩子を困らせたくない」


 鳩子はこぶしを強くトリの近くで握りしめた。


「トリと一緒に入社できないなら、こっちからお断りだよ!」

「それじゃ延々に受からないよ。鳩子の面接じゃなくて、トリへの質疑応答の時間になってるし」

「可能性がゼロじゃないなら、可能性を信じて突き進むのみ!」


 鳩子は口をとがらせ、腕を組みながら公園のベンチに勢いよく腰を落とす。

鳩子たちの状況に関係なく、町の中は車の走行音が穏やかに響き渡っていた。


 トリは抱っこ紐の中で、困ったようにもぞもぞしている。


「嬉しいけど、茨の道だよ」

「うん、分かってる。でも、トリと一緒じゃないと嫌なの。骨が折れるけど、トリと一緒に入社出来たら、どんなに幸せか」


鳩子は微笑みながら、胸に居るトリをギュッと抱きしめた。


「こんな鬱屈した気持ちになったときは」


鳩子は背負っていたたリュックを方から下ろし、中から一本の水筒とタッパーを一個取り出す。

そして、タッパー内には数本の薄茶色をした、何本もの棘を生やした棒が敷かれている。


 鳩子は薄茶色棒を指で一つつまむと、トリの口に近づけていく。


「はい、骨せんべい」

「今日のは、なに?」

「アジ」


 トリは口を小さく開け、骨せんべいにぱくんとかぶりついた。


「んんぅぅ、今日のは、レモンの爽やかな味が加わってて、おいしいね」

「塩は控えめにしてあるよ」


トリはほっこりした笑みを浮かべながら、カリカリと音を鳴らす。


 鳩子は水筒の蓋をコップにさせ、コップの中に水筒の中身を注ぐ。

水筒の中に、薄緑色の液体が満たされていき、湯気がもわもわと立ち込める。


「はい、梅昆布酒」

「……お茶じゃなくなってる!?」

「うん。今回は、焼酎と混ぜてみたよ」


鳩子はニヤリと笑いながら、トリの頭を優しく撫でた。

それから、ストローをコップにさし、トリの口元に近づけた。


 トリはストローをすっと口に咥える。


「んん、んんん!? さっぱり爽やかの中に、僅かな苦みが強調されてて、とってもおいしく仕上がってる!」


トリは目をまんまるにしながらストローを勢いよく吸う。


「おいしくて、止まらない!」

「だ、だいじょうぶ? 一応少しアルコール入ってるんだけど」

「これくらい、へっちゃらだよ!」


ストローがズゴゴと轟音を鳴らす。


 トリはにんまり笑顔でストローを解放した。


「まんぞく」

「お客様、お楽しみいただけたようで何よりです」


鳩子はトリの頭を撫でながら、頭を軽く下げる。


 トリは目をぐるぐるさせながら力のない声を出す。


「はれぇ、世界が、ゆがんでる? あ、あれぇ、身体が、ふらふら? ちがう、ふにゃふにゃ? うにゅ、しっかり静止できない。 あれ、トリの骨どこにいっちゃったの」

「……え、もう酔っちゃったの!?」


鳩子はトリの頬をペチペチと軽く叩く。


トリは頬を紅に染めながら言う。


「鳩子、合格ー!」

「やったー! ありがとー!」


鳩子はトリを優しく抱擁する。


「……何に?」

「……お世話係?」


鳩子は苦笑しながらベンチから立つ。


「むむむぅ? こんなところに酔っ払いちゃんがいる! たいへんだぁ。酔いを覚まさないとねぇ。サウナで水風呂に入ろうねぇ。 っと、ついでに気合の入れ直し! 心の温度を過熱させよう!」

「うっひゃぁぁ!」


 全く嫌がっていない悲鳴を上げるトリを抱えながら、鳩子は公園から町の中に消えていく。

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