遺骨
義龍 顎
取り戻せない願い
唖然とした
12月3日の14:25
目の前にあるはずのお墓が 無かった
持っていた水の入ったバケツとお供え物を思わず落とした
バケツの水が広がっていく中
え、待って待って待って
何で無いの?お墓って無くなるもの?いや墓じまいとかあるのは聞いてるけど
うちの一族全員市内か遠くても隣町だし墓じまいする程の距離じゃないでしょ!?
ぐるぐるぐると考えてから墓地を見回した
田舎の墓地だから100m位の直線状に3段位しか山に沿って建てられていない小さな墓地だ
見間違うわけがない…
2段目の右から5番目!
何回見ても無い
そんな馬鹿な…
慌てて早歩きしながら墓地の道をまっすぐ歩きながらお墓を見ていく
無い、引き返しながらもう1回全部の段を見直しながら歩く
やっぱり無い…
かつてお墓があったところは更地になっていた 鎌倉時代から続く先祖代々のお墓なのに…
その場で項垂れる
今年本家の伯母の遺産相続が終わったばかりだった
うちの一族はお金にしか興味のないロクデナシ一族だ
やっと終わって縁が切れたと思ったのに…
あいつらお金入ってやることはこれか!!!
バケツ片付けて即車に乗りこみ、お寺に向かった
本堂横の入口から声をかける
「こんにちはーすみませーん!」
暫くすると、おばあさんが出てきた
「すみません、沢村家の檀家の者なんですがお墓参りに来たんですけどお墓が無かったんですが…」
「あらまぁどうしましょうねぇ、実は今息子が脳梗塞で入院しちゃってましてねぇ‥詳しいことは分からないんですよ」
あちゃー…これも織り込み済みだったら怖い
いやでもこれは偶然だろう、そこまであの一族は頭良くない…
「息子に聞いておきますから、お電話差し上げましょうか?」
「またお電話させていただきます、あ一つお伺いしてもよろしいですか?」
「ええ何でしょう?」
「墓じまいする時って勝手にやるものではないですよね?やったら気が付きますよね?」
おばあさんは笑って
「ええ、普通ならご連絡いただくと思いますよ。ご遺骨のこともありますしね、勝手に動かせるものではないでしょう」
ですよねーーーーーー!
そのまま伯母の家がある村に向かうがこの村はほとんど限界集落に近く、昼間でも人は歩いてもいない
伯母の家のお隣さんに声をかけた
「こんにちは~!沢村のみづきです!いらっしゃいますか~?」
戸の奥からはーいと声がしてぱたぱたと音がした
戸を開けて出てきたのはこの家のお嫁さん
「お久しぶりです、みづきです」
「あらホント久しぶりねえ、先生亡くなってから随分経って‥」
先生というのは伯母の事だ、生涯教師を一人で貫き通した
村の子供もみんな伯母が教えてきた、だから村の人は皆伯母の事を先生と呼ぶ
「実は今日、伯母の命日なんでお墓参りに行ったんですけど‥お墓が無かったんです何か聞いてませんか?」
「え?お墓がないの!?先生のお姉さん夫婦は時々来て家の掃除だって来てたけど‥
お墓のことは何も聞いてないわねぇ」
ここもか‥あいつらは悪事を働くときは決まって秘密裏に動く 後期高齢者制度を使った悪事もあった
バレないように動くのは当たり前と言えば当たり前だけど‥
「今お寺にも行って聞いてきたんですけど、お坊さんが今脳梗塞で入院してて分からないって言うんで村に来たら分かるかなって思って来たんですよ」
「悪いわねえ、挨拶位はするけど何も聞いてないわ…ってお坊さん入院してるの!?」
驚くとこそこかい!
「ええ、そうらしいですねおばあさんから今聞いてきましたよ」
ああ、ダメかあ。 ダメもとでうちの山の墓地に入ってるようならと思ったりもしたんだけれど‥
村の人が見ていないなら、山の墓地には入っていない… がっかりしながら伯母の家の前に立った
見回すと酷い状態だった
伯母の大好きだった花に溢れた庭が、引っこ抜かれ焼かれ汚い洗濯物が干したままになってぶら下がっていた
ああここもそうだ、伯母の事を全部無かった事にするつもりだと感じた
この一族は仲がすこぶる悪い
まぁ一族全員お金にしか興味ないからだけど‥
その中で唯一伯母は、平等だった
なのに…この兄弟姉妹は伯母を嫌った
伯母が癌になって隣町の癌センターに入院して、手術して療養していた
そこに金の無心に来ていた弟妹が、具合の悪くなった伯母を動けなくなるまで放置した
癌センターには入院させず、市内の私立病院に連れていき病院側にこの人は痴呆症ですと噓をつき痴呆症の部屋に入れて外部と連絡を取らせないようにした
そして口を聞かなくなったのを見て、うちに来てもう駄目だから老人ホームに入れる書類にサインしてくれと来た その後自分達がお金を管理してやるという名目で、本家もろとも乗っ取るつもりだったらしい… 本当にドラマぐらいの悪党ぶりなんだが‥ そんな事はさせなかったけどね!
馬鹿な事をするなと止めに入った そして病室の伯母を見て目の当たりにした事実
病院側に抗議して、この人は痴呆症じゃないから!と大部屋に移してもらい看病した
すると、安心したのか伯母が
「やっと静かになった」と言った
ボケてなんかいないじゃん!!
その日から毎日通って看病していた、それなのに
またあの弟妹が医者に、「もう駄目だから何だってやってくれ」と言い出し
自分が仕事に行ってる間に治験の実験台にしてしまった
その時看護婦から母は「良くないですよ」と言われていたらしい
何で止めなかったんだ!!
後から知ったが、母はこの一族と組んで金の無心に走ってた
その治験から伯母は2週間ともたなかった‥ そこまでされて苦しんで死んだのに! そうやってお墓に入ったのに! 何でそんなに酷い事ばっかり出来るの? 伯母が遺したお金の為に悪事は続く
葬儀の日、伯母の姉はお坊さんに永代供養を申し出てお坊さんにキレられた
うちの田舎では永代供養はその日になんかやらない
この村は土俗信仰が強く、山神様を崇めているうえに死んだ人を蔑ろにすることを許さない
元々この一族のがめつさは有名だった 葬儀の間も事の顛末を聞いた村の人達から怒られてもいた
永代供養をしてこれからのお布施を払いたくないのがあいつらの本音なのだ 金の亡者にしてもやる事が酷すぎる
伯母は兄弟姉妹は大事しないとといつも言っていた そう思っていたのは伯母だけだった そんな人を血の繋がった兄弟姉妹の悪意がその存在を悉く消していく 人の命の尊厳なんか眼中に無く、墓は潰されてしまった
祖母の葬式の日を思い出す
伯母の隣に立っていた時、皆普段会う事もないいとこ達が伯母にめいめい挨拶していくが私の事は目にも入らない様なスルー
みんなが口々に「すみよ伯母さん、お久しぶりです!」
ふと思った
ああそうか、すみよ伯母さんなんだ
くいくいと袖を引っ張って、少し躊躇いがちに
「すみちゃん、自分もすみよ伯母さんって言ったほうがいい?」
すみちゃんは一瞬黙った後
「バカだねこの子は!すみちゃんでいいに決まってるよ!」
いいんだ…少しだけ誇らしい気持ちになった事を覚えている
「アタシは100まで生きるんだからね!」とお腹をポンと叩いて笑っていた日々 でも伯母の事を忘れないで動いているのは私だけなのだ
一族が見ているのは伯母の遺したお金だけ
子供の頃からそんな事は嫌って程見てきていた
私のお弁当さえ盗まれて食べられてしまった事もある 取られる方が悪いと怒られもした、そんな中で自分だけはお金でなんか動くものかと決めていた そのせいかこの一族からは言うことを聞かない子だと言われ続けた 本望だけどね!! 一族がそんなに要らない遺骨なら、自分が引き取りたいと思っていたところに
そんな中、お寺から連絡が入る
「自分達でやるって言ってたそうですよ」
絶望過ぎる…
伯母の初めての法事の時、伯母の姉が自分達でやるからと言ってきたので
任せてしまった
後日、宗派の違うお坊さんをやっている息子にお経上げさせて終わらせたという話を聞いた
息子に幾らか握らせてやらせたという無茶ブリのドケチぶり‥
その息子も親の言いなり
中学の時親の愛情の無さに非行に走ったが、名前が悪いんだと改名させられ
それ以来親の言いなりになった息子が従弟だ
伯母の遺骨は多分、その従弟のお寺に行ったんだろう
○○県の檀家も殆どいないお寺に持って行かれてしまった
きっと聞いても教えてはくれないだろう
お金でも払わない限り
若しくはあの人たちの言う恐ろしい条件を飲まない限りそれは叶わない あまりの危なさに、司法書士の先生と税理士の先生達にずっと相談してきた でも法スレスレでやっているから立件は難しいと言われている
もう追えない
ごめんねすみちゃん
最後まで守れなかった
子供の頃から体が弱くて面倒見てもらっていたのに
ここまでしか出来なかったよ
この人達の悪事はどうやってもいくら頑張っても潰えない
人の心に欲が住み着いている限り
それは永遠に続く
人は殺せる、法に抵触することなく
この一族はそれを証明してしまった
それに気が付いた人間はどれくらいいるだろう
少なくとも、母は気づいた
去年父が死んだらしい
らしいって?
去年の5月に母から手紙が来た
うちから車で5分の距離の家に
そしてこの時代に手紙とか…嫌な予感しかしなかった
開けてみると
父が1カ月前脳梗塞で死んだこと、死んだから遺産相続するから連絡を寄こせ
葬式は自分達でやった、納骨は26日だ
と書いてあったが、どこのお寺でやるかも書いていない
言葉だけは丁寧だがPCで打った、乱暴極まりない手紙だった
何も知らせずに全部終わらせた後で手紙で終了‥
気になって近所のおじさん達に聞いてみた
すると、トイレで倒れていた事
救急車を誰も見ていない事
一週間くらい入院していた事、近所の人や友人にもそれを黙っていた事
葬式も家族だけでやるから誰も来なくていいと言われたと
その間に私を呼ぶ事すらせずに、終わらせてしまった
同じだ
また、全部自分達がやった事を消し去ろうとしている
だがひとつ気になっていることがある
脳梗塞で自発呼吸が難しいようなら人工呼吸器等を付けたはずだ
以前父が腸の癒着手術で入院した際、我儘を言って1週間満たずに勝手に出てしまった事がある
母は大激怒した、1週間経たないと保険が下りないからだ
その時にも言っていた、意識が無い時には保険が下りるまでの間入院させると
それをやったんだろうとは思っている
でも‥
人工呼吸器を付けていたなら、誰が外したんだろう
私を呼ばなかったのはそんな事をしていたからじゃないのか
全て終わってしまった後には疑問しか残らない
同じなんだ
全て無かった事に
お金だけあれば、後は何も無くていいと
人の貪欲さは果てがない
これは物語なんかじゃない私のリアル この出来事は私の一生の傷になった 町を歩くと父に似た人を見かけて足が止まる 一瞬頭の中で葛藤が起きる あれ生きてる?いや死んだ筈だ 別れをしていないからか暫くパニック状態になる 葬式というものはとても大事なものなのだとこの時気づいた 別れをして納得するのだ、悲しくとも そんな事はこれからも続くんだろう終わることなく それが私に付けられた傷 そして私の生涯の後悔
そして、私の家のこんな話は氷山の一角だ
お金に執着している人はこの世にごまんといる
人の欲がある限り、悪意は生まれ続ける
そんな悪意で消えていく人たちはこれからもいるはずだ
己の欲の牙を出す前に、どうか思い出してほしい
誰かの優しさを
かけてくれた言葉を
握ってくれた手のぬくもりを
忘れずに 生きてほしい
すみちゃん いない事が とても淋しいよ
遺骨 義龍 顎 @agi10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。遺骨の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ことば/彩霞
★48 エッセイ・ノンフィクション 完結済 105話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます