ガイル・ロッセン

マルクスの城下町の一角に構える大きな鍛冶工房――ここが、グランス鍛冶店だ。


豪勢な看板と広い店内。

かつてはこの町随一の武器鍛冶として名を馳せ、多くの冒険者たちが装備を求めて通った。しかし、最近は星屑の鍛冶屋の台頭により、その名声は陰りを見せていた。


店の奥の作業場で、グランス鍛冶店の店主、ガイル・ロッセンは苛立たしげに椅子へと腰を下ろした。その目には長年の職人としての誇りが宿っている……はずだったが、そこには焦りと嫉妬、そして邪悪な思惑が色濃くなっていた。


「……ちくしょう。目障りな星屑の鍛冶屋め……!」


ガイルは拳を強く握りしめ、唇を噛んだ。


思えば、ほんの半年前まではこの町の鍛冶屋といえば、間違いなくグランス鍛冶店だった。町の冒険者たちは当然のように自分の店に通い、ここで作られた武器を誇らしげに振るっていた。


それがどうだ。あのぽっと出の鍛冶屋が、妙な売り方をして一気に評判を集め、気づけば客の流れが変わってしまった。


特に腹立たしいのは、ギルドマスター・ガレオンが星屑の鍛冶屋に興味を示しているという噂だ。

ガレオンほどの大物が武器を選びに行く?もし本当なら、冒険者ギルドのお墨付きの鍛冶屋になってしまう。それはつまり、この町の鍛冶屋の勢力図を塗り替えることを意味する。


更に、先日にはキアーノ公爵家が訪ねていた。ガイルは自分の目で、星屑の鍛冶屋の店先に停車していた馬車を見たから間違いない。


「冒険者ギルドだけではなく、公爵家まで……こんなこと、許せるわけがないですねえ。」


ガイルは椅子から立ち上がると、作業場の隅に座る二人の若者へと視線を向けた。

彼の工房で働く、ライルとルーク。年齢はまだ20に届くか届かないかといったところで、腕はいいがまだ未熟な双子の鍛冶師だ。


彼らは孤児であり、幼い頃から鍛冶職人としての道を歩んできた。

ガイルが「拾ってやった」と言っているが、実際は彼らの才能に目をつけ、安くこき使える駒として雇っただけだった。


「あなたたち。手を止めるんじゃないですよ。」


ガイルが言うと、双子はびくりと肩を震わせた。


「は、はい、ガイルさん……。」

「……もう少しで仕上げられます。」


ライルとルークは作業場に戻り、必死に槌を振るい、炉の中の鉄を鍛えている。しかし、その表情には、いつもの誇りや情熱はなかった。


それも当然だった。

彼らが作っているのは星屑の鍛冶屋の模倣品だからだ。


「ちゃんと作ってくださいね?見た目だけは本物そっくりに。あとは少し柔らかい鉄を使って、ちょっとした衝撃で折れやすくしてください。」


双子の兄、ライルが恐る恐る口を開いた。

「あの……そんなことをして、本当にいいんでしょうか?」


その言葉に、ガイルは冷たく笑った。


「何言っているんですか?あなたたちは、誰のおかげで仕事ができているのか忘れてはないですか?技術もなく、家柄もないあなたたちを雇ってあげているのは、この私です。」


ガイルは無造作に鍛冶槌を掴むと、ライルとルークの目の前に突き出した。

二人は怯えたように肩をすくませる。


「いいですか。あなたたちみたいな半端な職人は、私が雇ってあげなければ仕事すらないんですよ?私が“やれ”って言ったら、黙ってやればいいんです。」


「で、でも……この武器を使った冒険者が怪我をしたら……。」


ライルの言葉に、ガイルはニヤリと笑った。


「それが狙いですからねえ。いいですか、やることは簡単です。

まずは、星屑の鍛冶屋のあのウザったいマークを付けた適当な武器を作ります。それを、町中で適当な連中に、安価で販売します。あとは、その人たちが『星屑の鍛冶屋の武器で怪我をした』と騒げばOKです。」


「そ、そんなことをしたら……。」

「星屑の鍛冶屋が……。」


ライルとルークは小さく反論をしようとしたが、ガイルの睨みに言葉を飲み込んだ。


「だからあなたたちはガキだと言うんです。私たち鍛冶屋は商売なんです。正義とか誇りとか……ふふ、そんなもんでお腹が膨れますか?」


ガイルは二人を見下ろし、ため息をついた。


「……さて、あなたたちとの議論はこれで終わりです。とにかく、さっさと仕上げてください。出来が悪かったら、わかっていますね?」


ライルとルークは震える手で槌を握りしめ、作業へと戻った。



―――――――――――――――――――――――――


後日、グランス鍛冶店の作業場には見た目だけは星屑の鍛冶屋そっくりの短剣や長剣などの武器が並べられていた。

そして、それらの武器は秘密裏に街の冒険者たちの手へと渡った。


冒険者たちは、自分たちの命に危険が迫っていることを知る由もなかった――。

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